お留守番はトラブル多め! 3
「……どうも最近、アタシの魔力草畑の一部が根っこごと消えてると思ったら……やっぱ、あんたの仕業だったんか、清姫様?」
『ちょっ、ギブ! ギブ! ちょっと、たんま、たんま! 苦しい! 苦しい!』
悪事がバレたきよ姉さんは――こめかみをピクピクさせ、口元に薄い笑みを浮かべた蜘蛛ちゃんに首根っこを掴み上げられていた。
掴まれた首元からは、ミチミチと嫌な音が静寂な部屋に響く。
きよ姉さんは尻尾で必死に腕を叩きながら、念話で焦った声を張り上げた。
そんな蜘蛛ちゃんの“お仕置き”の光景を、ボクは音を立てないようにそーっと距離を取り、シホが寝ているソファーの後ろに隠れて顔だけ出しながら見守っていた。
(……蜘蛛ちゃんを怒らせてはいけない……イクス、覚えた)
なんてことを心の中で思っていると、蜘蛛ちゃんはにっこり微笑んだまま、ミチミチと音を響かせながら静かに言った。
「いいですか……もうすんじゃねえぞ? 次にアタシの畑に手ぇ出したら、あんたを瓶に詰めてバブ酒にしてやるからな」
そう言い残すと、きよ姉さんを床に放り投げ、札束の入った封筒を拾い上げる。
『……わっちはハブじゃなくて……ニシキ……ヘ……ビ……』
床に転がったきよ姉さんは、そう呟きながら気絶したように見えた。
その光景を見てボクは、(あーあ……これでピザ計画もパーだな……食べたかったな、ピザ……)と心の中で頭を抱える。
きよ姉さんの隠してたお金も、全部没収されちゃったし。
……と思った、その時。
「……ふむ」
部屋を出ようとしていた蜘蛛ちゃんが封筒をパラパラとめくり、ふっとこちらに視線を向けると――
「……コレで足りますか?」
そう言って、封筒からバッと万札を抜き取り、ボクに差し出してきたのだ。
「え、えぇっ!? じゅ、10万!? いいの!?」
「ええ、イクス様には以前、主様そっくりの……ふぃぎゅあ? を作って頂きましたから。そのお礼です」
蜘蛛ちゃんは10万円を手渡すと、ゆっくりと手を振りながら静かに部屋を出ていった。
しばらくの静寂が訪れ――
……なにはともあれ、よかったー。コレでピザが食べられるぞ。
ボクが札束を握り締めてほっとしていると、
『……行った?』
きよ姉さんの念話が聞こえてきた。……気絶してたんじゃなかったの?
「……蜘蛛ちゃんなら行ったけど。って、気絶してたんじゃなかったの?」
『そんなの、気絶したふりだよ。……コレを隠すためにさ』
そう言って、きよ姉さんの前にお札が現れる。全部で5万円。
どうやらきよ姉さんは、透明になる能力で物まで隠せるらしい。……でも、あの状況でよくそんなこと思いつくね。
『もし封筒を取られても、確実にピザを注文できるって寸法さ。あっはっはっは』
「……そうですか。じゃあもう必要ないなら回収しますね」
『え?』
きよ姉さんが勝ち誇ったように笑ったその瞬間、ビュッと蜘蛛の糸がお札に張り付き――あっという間に回収されてしまった。
どうやら蜘蛛ちゃんは、帰ったふりをしてきよ姉さんを監視していたらしい。……さすが、きよ姉さんの性格をよくわかってる。
そして、蜘蛛ちゃんはきよ姉さんの呆けた姿を見ると、クスッと笑いながら帰っていった。
何はともあれ――。
こうして無事にピザを注文できるメドが立ったボクときよ姉さんは、再び注文を進めることにした。
「ねぇ、きよ姉さん。もし母にバレそうになった時、なにか誤魔化す作戦を考えた方がいいんじゃないかな?」
『ん? ああ、それならもう考えてあるから大丈夫。……はい、注文完了。――っと、このメールも送信して、と』
そう言って、きよ姉さんはあらかじめ用意していたメールを誰かにサクッと送信する。
――そして。
ついに、ピザ注文作戦は大成功!
ボクときよ姉さんは思わず顔を見合わせて、思わず小躍りしたのだった。




