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お留守番はトラブル多め! 2

 時間を少しだけ巻き戻し――ルトと翼が洗濯物を取り込みに庭へ出てすぐのこと。


 イクスと清姫はパソコンで遊ぶ手を止め、あくまで遊んでいるふりをしながら、流し目でこっそりと庭の様子をうかがっていた。

 日の光を浴びて昼寝をしているシホのために全開にしてある吐き出し窓から、二人はルトと翼の動きを観察する。


 やがて、二人が洗濯物を取り込み始めたのを確認すると、イクスは音を立てないよう、そっとカーテンを閉めた。


「ふっふっふっ、それじゃあ、きよ姉さん。そろそろ……」


『ええ、じゃあ早速、ピザを注文しようかね』


 念話で返ってきたきよ姉さんの声に、ボクはニヤリと笑う。

 1匹の蛇と1体のスライム――こそこそと悪い笑みを浮かべながら、2人の悪だくみが静かに幕を開けた。



 やあやあ! ボクはスライムのイクス! 世界で2番目に可愛いスライムだよ!

 え? なんで1番じゃないのかって? それはもちろん、1番はクイーンスライムの姿になった母に決まってるじゃん!

 あんなにきれいな母が1番じゃなきゃ、おかしいでしょ? だからボクは2番目でいいのさ!


 さて、今日は母がダンジョンに出かけて家にいない間に、あることをしようと思います。

 ――そう、それは母には内緒の、秘密のピザパーティー!


 母がスージーお姉さんの家の経営するピザ屋のチラシを見せてくれたときから、もう味が気になって気になって仕方なかったんだ!

 そのとき母が作ってくれた『なんちゃってトーストピザ』も美味しかったけど……やっぱりボクは丸いピザが食べたい!


 丸い方のピザも食べたいって母に言ったら、「来週の合同ダンジョン探索が終わった後に、みんなで食べようね」って言われた。

 ……でも、来週までなんて待てないよ!!


 そんな愚痴を、母たちが寝静まった深夜の居間でフィギュアを作りながら、すぐそばでスケさんカクさんと酒盛りしていたきよ姉さんにこぼしていたら――。

 きよ姉さんが悪い顔で、「じゃあ、今度主様たちがダンジョンに行っていない間に頼んじゃえばいいじゃない? 大丈夫、ようはバレなければいいんだから」っていう、悪魔のささやきをしてきたのだ。

 ……そして、ボクはそのささやきに乗ってしまった。だって母に内緒で頼むなんて、ちょっと悪いことしてるみたいでワクワクするから。


「ねえねえ、きよ姉さん! ボクはここから〜ここまで食べたい!」


『このおすすめの4種類やつね……。じゃあ、わっちはこの酒に合いそうなマルゲリータにしようかね。あとはルトたちが好きそうなコーンマヨと、スケとカクには明太アボカドベーコンを注文してっと……』


 チラシの一番上にドーンと載っている4種類のピザを指差してお願いすると、きよ姉さんは尻尾で巧みにマウスとキーボードを操り、次々と注文を確定していく。


「……ねえ、きよ姉さん。こんなに頼んでるけど、お金足りるかな……? ボク、5千円しか持ってないけど」


『大丈夫大丈夫。お金なら……ほら、この通り』


 心配になって尋ねると、きよ姉さんはソファーへ移動し、背もたれと座面の隙間に尻尾を突っ込む。

 すると――そこから、一万円札がぎっしり詰まった封筒を引っ張り出した。


「えぇっ!? 何そのお金っ!?」


『ふふふっ、これは蜘蛛のやつが育てた魔力草をこっそり取って、詠美経由で冒険者組合に売って得たクリーンなお金さ。いずれ人型になれることを明かした後に主様に渡す予定だけど――渡す前にちょっとくらい使ってもバチは当たらないでしょ』


 ……え、蜘蛛ちゃんが大事に育ててる魔力草を勝手に取ってるの!? バレたら殺されるんじゃ……。


 そう思った瞬間――廊下の開けっ放しのドアから、ホラー映画みたいに音もなくアラクネの蜘蛛ちゃんがぬっと入ってきた。こめかみをピクピクさせながら。


 きっと翼ちゃんに見つからないよう、2階の反対側の窓から侵入し、母の部屋のシーツを自作の糸製シーツにすり替えた帰りだったのだろう。そこでこの会話が耳に入ったに違いない。


 蜘蛛ちゃんはボクに「シー」と人差し指を口に当てると、きよ姉さんの背後に音もなく立ち、怖い笑みを浮かべたまま話を聞き始める。


 やばい、めちゃくちゃ怒ってる!? きよ姉さん、頼むからもう何も言わないで!!


 そんな願いも虚しく、きよ姉さんは上機嫌で続けた。

『何でも根っこごと綺麗に採取された魔力草はかなり高く買ってくれるらしくてね。最初は映画を見るためにちょっとだけ取ってたんだけど、あれやこれや欲しくなってね。昨日なんてちょっとお高い日本酒と(ぐえっ!?)』


「おいおいおい、清姫様よぉ~……ずいぶんと面白い話をしてるじゃねぇか、あぁん」


『げぇっ、蜘蛛っ!?』


 そしてとうとう我慢の限界を超えた蜘蛛ちゃんに、首根っこを掴まれるのであった。

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