異臭の正体
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スージーさんに芋虫を食べさせられ、何とも言えない気分でぼーっとしているうちに、気がつけば雛たちの戦いは終わっていた。
戦闘中の様子は見逃してしまったが、戦いを終えたみんなの様子を見る限り、最後まで問題なく戦えていたようだ。
そしていつの間にか、ダンジョン内の空もオレンジ色に染まり始めていた。
このゴブリンのダンジョンのようなフィールド型では、入り口付近の外の時間帯や天候を感知し、それに合わせて内部の環境が再現される仕組みになっているらしい。
「んぐ……あむあむ。スージーズ、魔石の回収よろー」
「了解いたしました、コマンダー!!」
「ちょっと待って……せめて魔石くらい、僕にやらせて」
「うん、おけー」
先ほどからずっと芋虫を食べ続けているスージーさんが、ゴーレムたちに魔石の回収を命じていたが、僕はそこで待ったをかけた。
今日はほとんど何もしていないから、せめて魔石の回収くらいは自分でやりたかったのだ。
僕がゴブリンたちから魔石を取り出そうと向かっていると――
「んっ」
「スーちゃん、ありがとう」(ぱくっ)
異臭を放ち続けているゴブリンの死体から少し離れた場所で、スージーさんは凛に赤い芋虫を一匹差し出した。それを受け取った凛は、何の躊躇もなく口に放り込んでいた。
そして、スージーさんは雛、千香、空ちゃんの三人にも「いる?」と聞いていたが――
「……ウチはいらない」
「自分もいらないッス……」
「私もいらないです……」
三人ともすぐに首を横に振って、きっぱりと拒否していた。
「……ん? ううん?」
そして、僕がゴブリンから魔石を取り出そうとした時、ゴブリンの上半身に何か粉のようなものが、うっすらと反射して光っているのが見えた。
「口の中が光ってるよね?」
中でも、特に強く光っていたのは――その口の中だった。
気になった僕は、ゴブリンの口を手で広げて中を覗き込むと、食べかけの蝶か蛾のような羽の欠片を見つけた。
それをそっと口の中から取り出し、夕日にかざしてみると、羽の欠片は夕陽を浴びてきらきらと美しく輝いた。
よく見ると、この光っている粒状のものは鱗粉のようだ。
「空ちゃん、こんなの見つけたんだけど……」
「何を見つけたの? 碧お兄ちゃんって、くっさ!!」
僕はすぐさま空ちゃんに声をかけ、首を傾げながら近づいてきた彼女だったが、あまりの臭さに思わず鼻をつまんで叫び声を上げて立ち止まった。
そしてすぐに口を閉じて息を止めると、急いで異臭を遮断している僕の服を掴み、匂いから逃れた。
空ちゃんが呼吸を整えている間に経緯を説明すると――
「はぁ、はぁ……碧お兄ちゃん、お手柄だよ。やっと謎の異臭の原因を突き止めることができそうだよ」
そう言いながら、空ちゃんは胸のポケットから小さな蓋付きの試験管を取り出し、パチンと音を立てて蓋を開けた。
僕はその中に羽の欠片をすぐ入れ、ゴブリンたちの謎の異臭の原因の手がかりを手に入れたのだった。
そして、異臭の原因の手がかりを見つけたおかげで、心の中に達成感を覚えつつゴブリンから魔石を取り出した僕たちは、出口へ向かって歩き始めた。
やがて、ダンジョン内を探索していた他の冒険者たちの姿もちらほらと見えてきた頃――
「おい、あれ見てみろよ。ダンジョンコアだぜ!!」
「うっわ、ガチで浮いてんじゃん……初めて見たわ……」
僕たちの近くを歩いていた冒険者の一人が、何かを見つけて上空を指さした。
その指先を追って顔を上げると、アンティークのランタンのようなものが、上空20メートルほどの位置をゆっくりと浮遊していた。
その中に浮かんでいたのは、ここからでもはっきりと見える、大きな魔石のようなダンジョンコアが赤い粒子をまき散らしながら、静かに輝いていた。
 




