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スージーの軍隊ごっこと口の悪い魔道具

 ゴーレムたちによる、もはや一方的な蹂躙劇ともいえる戦闘を目の当たりにした僕たちは、続いてスージーさん本人が加わる戦闘も見せてくれるようだ。


「スージーズ、しょーかん。どーん!」


 スージーさんは、ゴーレムたちから倒したゴブリンの魔石を受け取ると、突然、変身ヒーローのような掛け声を上げ、それっぽいポーズを取り始めた。


 彼女は自分で効果音を口ずさみながら、バッチリと決めポーズを取る。するとその瞬間、彼女の動きに呼応するように、彼女そっくりの新たなゴーレムが五体、次々と生み出された。


 こうしてスージーさんと、新たに加わったゴーレムたちによって数を増した“スージーズ”は、物音ひとつ立てず、統率の取れた無駄のない動きでゴブリンたちをものすごいペースで狩りながら、全力疾走で奥へと進んでいった。


「え!? ちょっとまって!!」


 その背中を、僕たちは『身体強化』を使いながら慌てて追いかけた。


 かつて彼女が口にしていた『軍隊ごっこ』の全貌を、僕たちは彼女が満足するまで見届けることになった。


 ……正直、さすがに狩られるゴブリンたちがかわいそうに思えてきた。


 そして――およそ30分が経過し、ようやくスージーさんの“軍隊ごっこ”が終わったのは、僕たちが進む予定だった場所よりもかなり奥深くまで進み、ダンジョンの中心地点近くまで来てしまったようだ……今日家に帰るのは、19時過ぎ以降になりそうだ。


「ふぅっ……満足」


 『軍隊ごっこ』を満喫して、汗で肌をツヤツヤに光らせたスージーさんは、袖でざっくりと汗を拭いながら満足そう呟いた。


 そんなスージーさんとは対照的に、息を切らして地面に座り込む雛と千香。


「スーっち……や、やっと止まってくれたッス……」


「危うく、ウチと千香の魔力が尽きるところだったわ……」


「おー、そーりー」


 魔力量の多い僕や空ちゃんは平気だったが、魔力量の少ない雛と千香は、どうやらかなりギリギリだったようだ。


「りんぽんは、だいじょび~?」


「私は『超持久運搬』スキルのおかげで、全然疲れてないの~」


 凛はリュックから飲み物を取り出して全員に配りながら、スージーさんにのんびりと返事を返す。


 彼女は『超持久運搬』スキルのおかげで、まったく疲れていないようだ。ちょっと、うらやましく思ってしまう。


「はい、スーちゃん。お水」


「せんきゅー」


 スージーさんは、凛から受け取ったペットボトルの水を、ためらいもなく頭からかぶった。そして、犬のように頭をブンブン振って水を飛ばす。


 飛び散った水が、僕たちに容赦なく降りかかる。


 僕は慌てて『浄化』のスキルを使い、全身を乾かそうとしたその時――


「碧お兄ちゃん知ってる? こういうのって、一部の業界ではご褒美なんだよ」


 と、空ちゃんが親指を立てながら爽やかな笑顔でそう言ってきた。


「いやいや、僕にそんな趣味ないから」


 僕にそういう趣味はないので、さっさと問答無用でスキルを発動し、みんなの服をまとめて乾かし始めた。


「え? 雛お姉様」


「……はぁ」


 そして、空ちゃんの変態発言が耳に入った雛は、呆れたようにため息を漏らし、無言で空ちゃんに近づくと――


「ちょっと、どうし(グリグリ)いぎゃぁぁ~!?」


 雛は空ちゃんの頭の両側を拳骨で容赦なく、力強くぐりぐりとお仕置きし始めた。


 空ちゃんは痛すぎて悲鳴を上げるが自業自得だ。


 そして、あまりにも奥に進みすぎてしまったので、少しだけ休憩を取った後、入り口に向かって引き返すことにした。


 今度はスージーさんに僕たちの戦い方を見せようと思い、やる気満々で聖剣を召喚しようとしたのだが、「あおぽんの戦闘はネット動画で見たことがあるから大丈夫ぶい」と言われてしまった。


 そこで、甲冑と聖剣の代わりに、回復スキルの効果が上がるシスター服と、空中に浮かぶ十字架の杖を呼び出し、雛たちのサポートに専念することにした。


 雛たちはそれぞれ、自分の武器を確認していく。


 まず雛の装備は、鞭と解体用ナイフ。いかにも探検家らしいスタイルだ。


 千香はロングソードに、金属製フレームの付いた丸い盾――バックラーを持ち、前衛の剣士スタイル。


 みんなの荷物持ちがメインの凛は前に出ることはないので、後方から援護や自衛ができるようにクロスボウを装備している。


 そして、空ちゃんはというと――


「ん? なんで武器を取り出さないの?」


「あはは……ちょっと、取り出すのにためらっちゃって」


 空ちゃんは苦笑いを浮かべながら、自分の武器が収められた大きな金属製のジャラルミンケースをじっと見つめ、だんだん小声になりながら、気まずそうにボソボソと話し始めた。


「……凛お姉様にお願いされて、アニメのサポートアイテムを再現して電子音声を作ってたときに、ちょ〜っと試しに私が使ってる銃型の魔道具にAIを搭載して喋れるようにしてみたんだけど……それがまあ、めっちゃうるさい上に、めちゃくちゃ反抗的な態度でさ。データ初期化してやり直そうと何回も試したんだけど、めっちゃ抵抗されて初期化できなくて、仕方なくこのケースに閉じ込めることにしたんだよね」


「空ちゃんなら、いろんな武器も作ってるよね?」


「そりゃもちろん。スナイパーライフルとか、ガトリングとか、ショットガンタイプとか、いろんな魔道具の試作型を作ったけど、これ以外は全部梢ちゃんに貸しちゃってて、代わりを作る時間もなかったから……仕方なくこれを持ってきたの。はぁ~……」


 空ちゃんがそう言ってため息をつき、ケースからアサルトライフルのような魔道具を取り出したその瞬間――魔道具が怒りをあらわにして喋り出した。


『やいやいやい!! 博士さんよう。よくもこのオレちゃんを暗いケースの中に閉じ込めやがったな!!』


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