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音もなく、胸以外そっくりに

 探索を始める前に少し休憩を取った僕たちは、他の冒険者が少ないダンジョンの奥へと進んでいた。最初はスージーさんの『ゴーレム使い』としての戦闘力を確認するつもりだったが、彼女の強い希望で、まずはゴーレムを使わない戦いぶりを見せてもらうことになった。


 合流したときから気になっていたその格好は、明らかに学校では見かけないようなものだった。目元を覆うのは、赤いモノアイ模様が不気味に浮かぶバイザー。迷彩服に身を包み、腰にはナイフとナイフケース。さらに左肩には、何のためか分からない細いワイヤーの束が、リールごと取り付けられている。


 そして、10メートル先にゴブリンが3匹いるのを見つけたスージーさんは、まるで日常の買い物のような軽さで――


「ちょっと行ってくるん」


 と、「ちょっとコンビニ行ってくる」みたいなノリで僕たちに言い残すと、合流時から気になっていた謎の黒い筒状のケースを肩に背負い、小枝や落ち葉が散らばる足場をものともせず、音ひとつ立てずに身を低くしてゴブリンに接近していった。


 僕たちは彼女の戦い方を隠れて見守っていたのだが、その様子は、まるで本物の暗殺者のようで、思わずゾッとするほどホラーじみていた。


 まず彼女は、黒い筒状のケースから、紙粘土にスプレーで色をつけて手作りした本物そっくりのゴブリンの腕を取り出し、それをゴブリンたちの近くの草葉の陰に、まるでそこで倒れているかのように配置した。


 その後、携帯を何かしら操作して腕のそばに置くと、しばらくしてから、弱ったゴブリンの鳴きマネをするスージーさんの声が携帯から流れ始めた。


 その声に釣られて近づいてきたゴブリンを、他のゴブリンに気づかれないようにナイフでさっと仕留め、音もなく移動。手慣れた様子でナイフの柄に細いワイヤーを結びつけると、仲間が倒されたことにパニックになっている別のゴブリンの両足首めがけて投げつけた。


 ナイフに付いたワイヤーで足を拘束されたゴブリンを草陰に引きずり込み、首を切りつける。そして最後に残っていた、泣きながら地面を這って逃げようとしていたゴブリンには、音もなく背後から近づき、脳天にブスリ……だからね。今回はルトたちを連れて来なくて正解だったのかもしれない。


 僕たちが無言になるほどの惨劇を終えた直後、スージーさんは満足そうに口を開いた。


「次はゴーレムを作るぜい」


 棒読み気味のスージーさんの声が、どこか楽しげに弾んで聞こえた。どうやら、次はいよいよゴーレムを見せてくれるらしい。


 しかし──


「あの、スーっち。今からゴーレムを作るんスよね?」


「もち、の、ろん」


「なら、なんで服を地面に並べてるんスか?」


「重要」


「そ、そうッスか……」


 千香と話しながら、スージーさんは自分の迷彩服一式を三着分、地面に丁寧に並べていく。

そして、自分の髪の毛先を3ミリほどナイフで切り落とし、先ほど手に入れた魔石と一緒にその服の中へと入れた。彼女は服にそっと手をかざし、


「んっ」


 短く声を漏らすと、魔力がにじみ出すようにスキルが発動された。


 地面に並べられていた三着の迷彩服がふわりと浮かび上がる。中の魔石を中心に、周囲の土が吸い寄せられるように集まり、やがて人型の姿を形作っていく。


 こうして、三体のゴーレムが僕たちの前に立ち並んだ――のだが、


「これが、ゴーレム?」


「人にしか見えないわね」


「スーちゃんにそっくりなの~」


「……たしかに、スーっちにそっくりッスね。胸以外は……」


 三体とも、スージーさんそっくりの姿をしていた。胸以外は。


 スージーさんは僕たちにピースをして言った。


「ゴーレムを作るときに髪の毛を材料に混ぜると、その持ち主そっくりの外見になるんやで。どや」


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