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茂みの中の悪夢

 ――ダンジョンの奥、昼下がりの静かな森の中。風に揺れる葉音だけが聞こえる場所で。


 木漏れ日が差し込む中、ご機嫌に棍棒をブンブン振りまわしながら、鼻歌まじりに1匹のゴブリンが歩いていた。


 「ギャウッギャギャ〜♪」(今日も弱い奴を倒して強くなるギャ♪)


 その後ろには、少し小柄なゴブリンが2匹。片方はボロボロの帽子を被り、鼻水を垂らしながら刃こぼれしたナイフを握っている。もう片方は芋虫をむしゃむしゃと食べつつ、うつむいたまま周囲を見回していた。


「ギャウッ、ギャウギャー?」(ボス、今日はどこ行くギャ〜?)


「……ギャウ、ギュギィ」(……ボス、はら減ったギャ)


「ギギャ!ギャギャギャア!」(お前たち! ちゃんと獲物を探すギャ!)


 最近このダンジョンで生まれたばかりとは思えないほど元気で、普通のゴブリンよりちょっぴり頭のいいそのゴブリンは、自らを「ボス」と名乗っていた。


 2匹の子分を従え、自分が強くなるために森の中を闊歩していた。


 強くなって子分を増やし、やがてこのダンジョンを手に入れようという大きな野望を抱いていた彼は、明らかに自分より強そうな人間たちの目を避けながら、ダンジョンの奥でひそかに力を蓄えるため、獲物を探していた。


 そんな時――。


 ガサガサッ! ドサッ! 


「ギャ、ギャウ……」(た、助けて……)


 近くの林の茂みから、か細い声とともに、一つの手が突き出てきた。


「ギャギャウ?」(ボス?どうするギャ?)


「ギャギャ」(ハナミズ、助けるギャ)


「ギーギャ」(わかったギャ)


 傷だらけで現れたその手の大きさからして、明らかに自分たちより体が大きい存在だとわかったボスは、そいつを助けることにした。


 帽子を被った子分のゴブリンのハナミズが助けに行く様子を見ながら上機嫌にボスは笑みを浮かべる。


「ギャギャウ、ギャアギャ!」(こいつを助けて俺の子分にすれば、野望に一歩近づくギャ!)


「ギャア、ギギ」(仲間が増える、うれしいギャ)


「ギャア、ギギ、ギャアギャ!」(何を言ってるギャ、食いしん坊。これからもこの調子で仲間を増やしていくギャ!)


「ギャギャ!」(ボス、かっこいいギャ!)


 ボスは笑みを浮かべながら、もう片方の子分、食いしん坊に上機嫌に話していると――。


 ドタッ……!


「ギャ?……、ギャア!? ギャギャッ!?」(なんの音ギャ? え!? 何がおきたギャッ!?)


「ギャアッ!?」(ハナミズッ!?)


 新たな仲間を助けに向かったハナミズが、突然、電池が切れたおもちゃのようにガクンと音を立てて崩れ落ちた。


「ギャギャ! ギャ……ギギャ!?」(ハナミズ! 何があ……死んでるギャッ!?)


 倒れたハナミズのもとへ、ボスが慌てて駆け寄った。だが、ハナミズは驚愕の表情を浮かべたまま、すでに息絶えていた。


「ギャ、ギャウ……」(た、助けて……)


「ギャギャウ!」(お前! 俺の子分に何があったか答えるギャ!)


 なおも助けを求めている誰かの手首を掴み、乱暴に引っ張り出そうとしたが――あまりの軽さに尻餅をついてしまった。


「ギャア……ギャアッ!?」(いたた……これは偽物ギャッ!?)


 掴んだのは、なんと腕の部分だけだった。そして、その腕をよく見てみると、ゴブリンの腕によく似た作り物だった。


「ギャ、ギャウ……」(た、助けて……)


「ギャギャ!」(どこにいやがるギャ!)


 助けを求める声はなおも続いていた。


 出所を確かめようと、ボスは茂みの中へと頭を突っ込む。


 そこで目にしたのは、小さくて平べったい金属の板が、不自然にぽつんと落ちていた。


(これは……人間が持っているのを見たことがあるギャ)


 落ちていたのは、携帯電話だった。


「ギャ、ギャウ……」(た、助けて……)


 今もこの携帯から流れる、自分たちに助けを求めるこの声。


 それは――自分をおびき寄せるための、罠だったのだ。


「ギャキ! ギャギャアッ!」(食いしん坊! すぐにここから逃げるギャッ!)


 食いしん坊に向かってこの場から逃げよう叫ぶ。だが――


 ヒュン! 


 食いしん坊の背後の茂みから、風を切る音とともにナイフが勢いよく飛び出してきた。


 ヒュンヒュン!


「ギャギャ! ギャッァァァァーッ!!」(な、なんだ! う、うわーっ、助けてボスゥゥゥーッ!!)


「ギャ! ギャァァァーッ!!」(食いしん坊―っ!!)


 ナイフの柄には細いワイヤーが繋がっており、それが蛇のように食いしん坊の足首に勢いよく巻きついた。


 次の瞬間、地面に叩きつけられるように倒れ、そのままずるずると音を立てて茂みの奥へ引きずり込まれていった。


(ににに、逃げないと……)


 食いしん坊が目の前で連れ去られるのを見て、恐怖のあまり腰を抜かしたボスは、走って逃げることもできず、全身を震わせながらカチカチと歯を鳴らし、這うようにその場を離れようとした。――そのとき、不意に背後から影が差す。


「……グッバイ」


 その声が背後から響いた瞬間、ボスの命は刈り取られ、3匹のゴブリンの命は幕を閉じたのだった。


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