表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
151/170

玄関の蛇と旗と目薬と

 合同ダンジョン探索訓練の日が近づいた、土曜日の13時頃。


 ――自宅の玄関にて。


「それじゃあ、行ってくるね……」(チラッ)


 僕たちはそれぞれの実力や動きを確認するため、合同ダンジョン探索訓練の前に実際に行く予定のゴブリンのダンジョンに向かうために、みんなで軽く昼ご飯を食べて、出発しようとしていたのだが……。


「い、行ってらっしゃい……」(チラッ)


「母、いってら~……」(チラッ)


「きゅきゅい、きゅー」


「お兄ちゃんたち、いってらっしゃーい」


 今回ルト、イクス、シホの3人娘は翼ちゃんと家で留守番。だからこうして僕たちを見送りに来てくれたのだが――普段は見送りなんてしない、一匹の蛇が、ルトたちと一緒に玄関にいた。


「しゃ~♪」


 ――清姫だ。


 清姫は上機嫌に鳴きながら、尻尾でハンカチの端を器用につまみ、旗のようにふりふりと振っている。


 見送りのつもりなのだろうが、その様子を見ていると、どう考えても、絶対に何かを企んでいるとしか思えない。


 ……まあ、原因は分かっている。パソコンだ。


 イクスにせがまれて最近ノートパソコンを購入したのだ。


 ノートパソコンという新しい娯楽に興味津々の清姫は、僕や他の皆が操作している様子を、その人の首に巻き付きながらじっと観察。そして、たった三日後には、しれっと当たり前のように居間に置いてあるパソコンの前に陣取り、お酒を飲みながら、尻尾の先端でキーボードやマウスを器用に操作していた。


 たぶん、僕よりも使いこなしている。


 あまりにも一日中ずっとパソコンをしている清姫の姿を、窓の外からスケさんとカクさんが覗いていて、小さな手足で一生懸命ジェスチャーしながら僕に教えてくれた。そのため僕は清姫に「パソコンは1日3時間まで」というルールを言い渡したのだ。


 僕は清姫に言い聞かせるために屈んで、目線を合わせた。


「……いい、清姫。パソコンは1日3時間までだから」


 僕に注意された清姫は、ハンカチをいったん床に置いたかと思うと、摘まんでいた部分からスッと目薬を取り出し、堂々と目の前でさしてきた。それからまたハンカチをつまみ直し、目元に当てて――


「しゅー……るるるー……」


 って、わざとらしい声で泣いたふりを始めた。


「泣いたふりしてもダメ」


 普段、屋根裏に預けている佳代子おばあちゃんの日本酒を拝借しながらテレビばかり観て、変な知恵をつけているせいで、段々芸が細かくなっている。


「碧君、そろそろ出発しないと、集合時間に遅れちゃうの~」


「あ、本当だ」


 凛にそう言われて携帯で時刻を確認すると、そろそろ出発しないと時間に間に合わなくなってしまう。


 清姫にこれ以上追及しても無駄だと悟った僕は、ルトたち4人に清姫の監視をお願いすることにした。


「いい? 4人とも、清姫がパソコンをやりすぎないように見張っててね」


「わかったよ、母さん」


「うん、お兄ちゃん。ちゃんと清姫ちゃんのこと見てるからね」


「きゅっ」


「……」(ビシッ!!)


 ルト、翼ちゃん、シホの3人はすぐに返事を返してくれたのだが、なぜかイクスだけは少し間を空けてから、にっこりと無言で笑みを浮かべながら敬礼した。


 少しイクスのことが気になったが、僕たちはスージーさんとの集合時間に間に合わせるため、少し早足で集合場所へと歩き出したのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ