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夢と現実とカオスの狭間で

「あー、よかった。途中で思い出して……」


 みんなとステータスの確認を終え、スージーさんと別れた後、僕たちはルトたちが待つ広場へ向かっていた。しかし途中で、教室の机の中に忘れ物をしていたことに気づき、雛たちには先に行ってもらい、僕は一人で教室へ戻った。


 机の中から、パーティーの申請書が挟まれた透明なクリアファイルを取り出し、ほっと息を漏らして胸を撫で下ろす。


 提出期限にはまだ余裕があるけれど、僕はこういう大切な書類は早めに仕上げて提出したい主義なのだ。


「あれ? もう1枚ある?」


 カバンに入れようとクリアファイルを少し折り曲げた瞬間、申請書しか入っていないはずのファイルから、もう1枚の紙がひょっこり顔を出した。


 不思議に思いながら、その紙を取り出し、確認する。


「……」


 思わず無言になった。


 そこには、蓮華先生が右手に携帯を持ち、高く掲げて見下ろすようなアングルで撮った自撮り写真が印刷されていた。背景の映り込みから察するに、ここは彼女が住んでいる教職員用アパートの一室と思われる。


 いつものジャージ姿で、ジッパーを胸元まで下ろし、強調された胸元をアピールするようにウィンクしながらセクシーポーズを決めている。


 ……のだが、ウィンクしているはずの右目は完全には閉じきらず、わずかに白目になっていた。それだけでも微妙にホラーなのに、さらに自撮りのアングルが最悪だった。


 見下ろすような角度で撮ったせいで、背景に余計なものが映り込み、カオスな光景になっている。まるで、中心にいる蓮華先生を境界線として、右側と左側で異なる世界が広がっているかのようだ。一瞬、CG加工でもされているのかと錯覚してしまうほどだった。


 右側には、山のように積まれたビールの空き缶や、空のコンビニ弁当が透けて見えるゴミ袋、部屋の隅に置かれた衣服の山が乗ったバランスボールなどがあり、いかにも独身女性の生活感が漂っていた。


 それに対して、左側に映っているのは、まず壁に立てかけられたハート型の額縁。その中には、新郎新婦が写った雑誌のページと思われるものが収められており、顔の部分には僕と彼女の写真を切り取って貼り付けた捏造写真が──。


 さらに、壁際の低い机の上には、毛糸で編まれた赤ちゃん服や子供の名付け本が置かれ、その周囲には新婚家庭を思わせる品々が隙間もないほどあふれかえっていた。


 まるで夢と現実が隣り合っているかのようで、まったく色気を感じない自撮り写真だ。


 ……まだ、付き合ってすらいないのにね。それに、きっとこの自撮り写真も何回か練習で撮ったものを、確認もせずに印刷したに違いない。


 そう自分で言い聞かせ、ズボンのポケットから携帯を取り出し、画像を撮影して、梢さんに画像を送った。件名に『夢と現実』というタイトルを付けて。


「……よし」


 ファイルをカバンにしまい、軽く息をつくと、僕は教室を後にした。


 ――その瞬間だった。


ガァァン! ガラガラガラ……カラン。


 向かおうとしていた階段の方から、無数の金属が落ちる音が響いた。


 僕は慌てて様子を見に行った。すると、階段には冒険科の授業で使う備品が散乱しており、その近くには――。


「あ~……、やっちゃったー……」


「はぁー……、だから言ったじゃない、律。両手にそんなに物を抱えたら絶対落とすって」


「……反省してます」


 赤いラインの入った制服を着た、僕と同じ学年の女子生徒が二人いた。


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