みんなのステータスの確認-灰城 碧編-
僕は自分のステータスカードの称号を非表示に設定し、カードを机に置いた後、頭の中がモヤモヤしていた。
目を閉じ、軽く腕を組みながら首を傾げる。
何か大事なことを忘れている気がする……何だったっけ?
思い出せそうで思い出せないもどかしさを抱え、自問自答を繰り返していた。
「これがあおぽんのステータス……、職業もスキルもいっぱい」
「スーちゃん。碧君は称号『男の娘』のお陰で、女性限定の職業を獲得できるの~」
「ほほー」
僕が思い出そうとしている向かいでは、スージーさんが身を乗り出してステータスカードを覗き込み、それに凛が解説をしいる。
「スーっち、自分たちにも碧っちのステータスを見せてくださいッス」
「おー、そーりー。ちかぽん」
「……碧君。また、スキルが増えてるわね」
そして、ようやく羞恥心から復活した千香と、僕のステータスカードを見て、慣れた様子で呟く雛も加わり、会話を弾ませている。――そんな中、一番興味を持ちそうな空ちゃんはというと……。
「懲りないな~、あのおばさんも……」
空ちゃんは難しい顔で携帯をタップしながら、ぶつぶつと呟きつつ画面と睨めっこしていた。
携帯を家に忘れていた空ちゃんだったが、ちょうど学校の近くに用事があった母親の時雨さんが、ついでに届けてくれたのだ。 そして、丁度1時間ほど前から、空ちゃんは何度も携帯の画面をのぞき込み、顔をしかめながら睨めっこしている。
そんな彼女たちの様子を眺めた後、僕は自分のステータスを再確認する。
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灰城 碧
レベル 28
職業 女騎士 魔物女王 聖女 魔女
スキル 甲冑召喚 聖剣召喚 聖装召喚 魔杖召喚 麗剣術 スラッシュ 魔物化
眷属作成 ヒール ハイヒール
浄化 結界 ファイヤーボール サンダーボール ウォーターボール
職業ポイント 58pt
魔物化可能一覧
クイーンスライム、ハーピィークイーン
覚醒可能職業一覧
1pt 見習いメイド、見習い巫女
2pt レースクイーン、バニーガール
3pt 女王様
50pt ハートの女王
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スキル
聖装顕現――神聖なる修道服を召喚してその身に纏うことができる。シスター服を身に纏っている間、その自身は汚れることはなく、回復・浄化系のスキル効果を高める。
魔杖召喚――魔女の象徴たる杖を召喚する。杖を持っている間は魔力の増幅や詠唱補助の効果を高める。
麗剣術――優雅な剣技を駆使し、相手の力を受け流しながら戦う剣術。
毎朝学校へ行く前に、畑の上空へウォーターボールを放ち、スプリンクラーのように拡散させて水を撒いていたおかげか、いつの間にか『見習い魔女』が『魔女』に変化していた。
そして、気づけば新たに3つのスキルが発現していた。
まず、1つ目の『聖装顕現』は、青と白を基調とした修道服を召喚するスキルだった。修道服を着ている間、常に空気のバリアが張られ、体が汚れることはない。さらに、そのバリアのおかげで、水の上を歩くこともできた。
それを知った僕は、人目も気にせず近くの公園の池で試してみた。夢中になってはしゃいでいたところ、ベンチに座っていた老夫婦が、まるで奇跡でも見たかのように口を開き。
「仏さまじゃ……」
と、つぶやいたかと思うと、拝まれてしまった。……あのときは、本当に焦った。
2つ目の『魔杖召喚』も、『聖剣召喚』のように杖を召喚するスキルなのだが、『聖装顕現』の後に試したせいか、出てきたのは杖というよりも巨大な十字架だった。
約2メートルほどの巨大な十字架。
さすがにスキルが失敗したのかと疑い、思わず召喚し直してしまったほどだ。
召喚された十字架の外見は、外枠が『聖剣召喚』で呼び出す聖剣のような水晶のフレームに覆われている。そして、内側に複雑な機械仕掛けのような模様が走り、不思議な雰囲気を醸し出していた。
そのあまりの大きさに、盾としてしか使えないのではと思ったのも束の間——この十字架は僕が移動すると独りでに空中に浮かび、後ろをついてくる。それだけでなく、念じればイメージ通りに自在に動かすこともできるとわかった。
まだダンジョンでこの十字架を出した状態での魔法の効果を試していないが、どんな力を発揮するのか非常に楽しみである。
3つ目の『麗剣術』は、相手の力を利用したカウンター主体の剣術であり、舞台役者のように大げさな動作が特徴だ。観客を楽しませることを前提とした流麗な剣技で、単体の魔物との戦闘では真価を発揮しそうだが、集団戦には不向きなようだ。
……う~ん、何だったかな~?
自分のステータスを上から順に流し見していた。そのとき——
「……それで、碧っちは魔物の魔石を集めれば、ルトっちみたいな魔物を作ることもできるッスよ」
「あと、自分で魔物に変身することもできちゃうしね」
彼女たちの会話が耳に入る。
……魔物、変身……はっ!? ハーピィークイーン!?
その瞬間、冷や汗が滲んだ。思わず空ちゃんに視線を向ける。
「……も~、今日はやたらとしつこいな~」
しかし、空ちゃんは携帯を操作しながら小さくつぶやいていた。どうやら、まだ僕のステータスは確認していないようだ。
よ、よかった~。まだ見られてない――それなら……。
平然を装いながら魔物化可能一覧を非表示に設定し直し、ほっと一息つく。
「……ふぅ」
僕の行動に、一瞬、雛、千香、凛の3人が変な顔をしたが、すぐに僕のステータスを見返して非表示になった箇所を見て、僕の気持ちを察したのか、苦笑いを浮かべた。
「……どうしたの、あおぽん?」
スージーさんは訳もわからず首を傾げていたが、雛たち3人は僕がクイーンスライムに変身した後の空ちゃんの行動を思い出してくれたのだろう。
そう、あれは、入学試験が終わり、みんなと一緒に家に帰った後のこと。パーティの準備をする前に、汗だくになった服を着替えようと部屋に入り、服を脱いでほっと一息ついた、その瞬間だった。
「さぁ、身体検査はじめまーす!! 御用だ御用だ!!」
そんな叫び声とともに、空ちゃんがいきなり部屋に突撃し、僕を押し倒した――その現場を、雛たちはバッチリ目撃していたからね。
「ふー……やっとあのおばさん、諦めたよ。もー何度も何度もしつこいったらありゃしない」
そう言いながら、空ちゃんは、携帯の操作を終え、長いため息をついた。
「さ~て、碧お兄ちゃんのステータスはっと……お! 新しいスキルが増えてますな~」
空ちゃんは両手で僕のステータスカードを持ち、大げさな口調でそう言いながら、ステータスを確認し始める。
そのとき、彼女は自分のステータスカードを僕のカードに重ねるようにして持っていたのだが……僕はその意味に気づくはずもなかった。
ば、バレてないよね……?
内心ハラハラしながらも、なんとかハーピィークイーンに変身できることを隠し通せた。
……いずれバレる日が来るとは思うけど、せめて今日くらいは、卵から孵ったシホをちゃんとお祝いしてあげたいからね。




