ダンジョン探索のパーティー決めと仲間に加わる不思議ちゃん
クラス合同ダンジョン探索が行われる場所が、ゴブリンがメインの森林フィールドだと聞き、クラスメイトたちはざわめき始めた。
僕は近くで話しているクラスメイトに耳を傾ける。
「ゴブリンのダンジョンか、よかったー。メタルアルマジロの洞窟じゃなくて。俺はまだあの洞窟型のダンジョンの入り組んだ地形と反響する音に慣れてないから、正直ほっとしたぜ」
「私もメタルアルマジロだけならまだマシなんだけど、いつの間にか天井にいるスモールスパイダーの大群が天井からジッと見つめてくるのが、ただただ気持ち悪くて……」
クラスメイトたちはほっとした様子で安堵の声を漏らしつつ、すぐにやる気を見せ始めた。
「でも、ゴブリンのダンジョンなら私たちでも何とかなりそうだね!」
「ああ、何度も行ってるしな! 余裕だぜ!」
そんなクラスメイトたちの声が飛び交う中、蓮華先生は話を続けた。
「あ~、それと今回のダンジョンで行動するパーティーについてなんだけど……」
そう言うと、蓮華先生は両手を合わせ、申し訳なさそうに頭を下げた。
「すまん! 今回ダンジョンで行動するパーティーメンバーは、入学式前に申請した時の教室内でのパーティーメンバーで行動してくれ。後から申請したやつには悪いが、他のクラスの生徒とパーティーを作ると、ダンジョン内で問題が起きた時に、クラスごとの確認作業でパニックになっちまうからな」
(今回、結菜とは別行動になるのか……。先生方が決めたことだし、仕方ないよね)
「お昼ご飯のときに元気づけてあげないと。それにしても、あんなに張り切っていたのに……結菜、ショックだろうな」
僕はぽつりと呟き、数日前の出来事を思い出す。
結菜と恋人になった数日後、僕たちは彼女をパーティーに迎えるため、職員室で加入申請を提出しに行った。
そのときの結菜は、いつになく満面の笑みを浮かべながら、僕たちの先頭を歩いていた。
彼女と同じクラスの生徒は、普段とは違う姿に驚いて、思わず二度見していた。
「これでアニキたちと一緒に、クラス合同のダンジョン探索で行動できます!」
そう言って意気込んでいたのに、一緒に行動できないなんて残念で仕方がない。
結菜が僕たちの中で間違いなく一番楽しみにしていたのは確かだ。
「結菜お姉様……一緒に行動できなくて残念ですね」
「あちゃ~、結菜っちどんまいッス」
「結菜の落ち込んでいる光景が目に浮かぶわね」
「結菜ちん、ちゃんとクラスの人とパーティー組めるかな~?ちょっと心配なの~」
結菜のことを心配する空ちゃんたちに、僕は結菜と同じクラスの飛騨君から聞いたことを教える。
「それについては大丈夫だと思うよ。少しずつだけど、クラスに馴染んできてるって前に飛騨君から聞いたから」
実は、入学試験の実技試験のときに知り合った野能見さんも結菜と同じクラスだったため、僕を介して彼女を紹介したのだ。
そして、野能見さんをきっかけに交流が広がり、少しずつクラスに馴染んでいると、この間、飛騨君が教えてくれた。
……でも、彼がこのことを話してくれたとき、何かを思い出したのか、急に目の焦点が合わなくなり、みるみる顔色が悪くなっていったのはなぜだろうか。
最後に彼は、『女の子と付き合うって大変なんだね、はは……複数の女性と付き合ってる碧君、本当に尊敬するよ』とつぶやき、どこか遠い目をして去って行った。彼は一体、何を見たんだ……?
そんなことを考えていると、授業終了のチャイムが鳴った。
「それと、今日の放課後までにパーティーを申請していない子たちをそれぞれのグループに入れてやってくれ。人数的に、一人ずつどこかに入る形になるはずだから、よろしく頼むぞー」
蓮華先生はそう言って教室を後にした。
そして、休み時間になり、僕の机の周りに集まって、誰をパーティーに入れるのか話し合おうとした矢先。
「そのことなんだけど、入れて欲しい子がいるの~」
凛が僕たちにそう言って離れ、すぐに一人のクラスメイトを連れて戻って来た。
彼女がそう言って連れて来たのは、いつも無表情なことで有名で、クラスメイトから『不思議ちゃん』と呼ばれている砂遊岩スージーという子だった。
「すーちゃんをパーティーに入れてあげたいの~」
「よろぴこ」
凛に連れて来られた彼女は無表情のまま軽く手を上げ、妙に軽い調子で挨拶をするのだった。




