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訓練場所の発表とルトのトラウマ

「よーし、じゃあ説明するぞ。まずは、今回どのダンジョンで実施するのかというと……」


 蓮華先生がチョークで黒板にカッカッカッとリズムよく音を響かせる。説明に合わせて、ここら一帯の簡略地図が描かれていく。


 黒板に描かれた地図には、学校を中心に周囲のダンジョンの場所がある地点に、デフォルメされた魔物のイラストが描かれていた。


(蓮華先生、相変わらず絵がうまいなー。でも……なんでことあるごとに僕に関係ある物で例えるんだろうか……)


 僕は苦笑いしながら黒板に目を戻した。


 描かれている魔物のイラストはスライム、ゴブリン、そしてメタルアルマジロの3種類だ。ところが、スライムとゴブリンのダンジョンに描かれている場所には、イクスとルトがデフォルメされた可愛いイラストが描かれていた。


 クラスメイトたちは、ルトとイクスが午後の授業の休憩時間に時々教室に顔を出すことがあるので、すっかり顔なじみだ。教室の女子たちに撫でられたり抱きつかれたりして、いつも可愛がられている。


 その黒板を見たクラスメイトたちの声が次々と飛び交う。


「あの黒板に描かれてるの、ルトちゃんとイクスちゃんだよね? 可愛い~!」


「先生って、ジャージにコートを肩にかけるあの独特な見た目に反して、絵がうまいんだよなー」


「でも、こんな可愛く描かれたらさ、倒すのちょっと罪悪感わきそうじゃない?」


 地図の出来栄えがあまりにも可愛らしいので、知らない人がこの黒板を見たら、まるでテーマパークの案内図だと思い込むかもしれない。


「どうだ、よく描けてるだろう? 昔はイラストレーターを目指してたくらいだからな! ダンジョン訓練に少しでも親しみを持てるようにって、あたしなりの工夫だ!」


 蓮華先生がドヤ顔で誇らしげに自慢する。


「……いや、先生。ほんと、余計な気づかいッス……」


 千香が困ったように呟くと、クラス全員が一瞬沈黙した後、苦笑いを浮かべた。


 僕も蓮華先生に「なんでルトたちを描いたんですか」って突っ込もうと思ったが、これ以上ツッコミを入れると授業が進まなくなりそうで、結局飲み込むことにした。


「スライムのダンジョンは簡単すぎて練習にならないし、メタルアルマジロの洞窟は危険すぎる。だから今回は……」


 ルトのイラストを赤いチョークで丸で囲むと、蓮華先生は勢いよく黒板を指し示した。


「ゴブリンが中心の森林フィールドのダンジョンで、合同ダンジョン探索訓練を実施するぞ!」


 ゴブリンのダンジョンと聞いて、ルトが初めて同種のいるダンジョンに行った時のことを思い出す。


(……ゴブリンのダンジョンか。ルトが聞いたら、きっと嫌がりそうだなー)


 実は、初めて彼女とダンジョンに入った時のことだ。ルトの端正な容姿が災いして、オスのゴブリンたちから次々と“求婚”されるという事態が起きたのだ。


 ゴブリンたちは、それぞれ独自の方法でアプローチしてきた。周囲に生えている花を束ねて差し出してくる者もいれば、異臭を放つ布切れを腰に巻いたまま奇妙な踊りを披露する者もいた。中でもひどかったのは、鼻水を垂らしたゴブリンが、生きた芋虫を山のように盛った葉っぱを捧げ物として差し出してきた時だ。ルトはその光景を見た瞬間、涙を浮かべて後ずさりした。


 それ以来、ルトはゴブリンのダンジョンだけは絶対に行きたがらない。


 普段は僕についてくるのだが、唯一ゴブリンのダンジョンが関わると聞くと必ず家で留守番を決め込むのが恒例になったのだ。

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