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卵の殻と銀色の翼 1

 それは、いつもと変わらない朝のことだった。


パリッ、パリリッ、……パリッ。


「あ゛むっ……あむ、あむ、んぐ」


 静かな僕の部屋に、まるで煎餅を咀嚼したときのような砕ける音と、小さな息遣いが響いている。


「んん゛~? 何の音~?」


 その音に気づいて目を覚ました僕は、大きなあくびをしながらゆっくりと起き上がった。ぐーっと手を伸ばして体をほぐし、重たいまぶたをこじ開けるようにして目を開ける。


「ん~……? うん?」


 まだ意識がぼーっとして寝ぼけながら、部屋のいたるところに白くて様々な大きさの何かが散乱していることに気が付いた。僕がさっきまで寝ていたベッドを中心に、布団の上、床、カーテンなど、あらゆる場所にまるで爆発でも起きたかのように散らばっている。そして、何気なく一つを手に取ってみると、それが卵の殻だと気づいた瞬間、眠気が一気に吹き飛んだ。


「……卵の殻? はっ!? 中身は!?」


 慌てて周囲を見渡し、辺りを探していると、どこからか音が聞こえてきた。


バリッ、パキ……パリリッ、パリッ……。


(……あっちの方から音が聞こえるぞ)


 音のする方に目を向け、一体どんな子が生まれたのか期待に胸を膨らませながら四つん這いになり、ベッドの足元の死角をそっと覗き込む。そこには――


 翼の角を器用に使い、卵の殻をつまみながら夢中でポリポリとかじるハーピィーの姿があった。だが、その姿を目にした僕は思わず目を疑った。


(え……生まれたばかりなんだよね? もうこんなに大きいの?)


 生まれたばかりの可愛らしい姿を想像していたけれど、とても今日生まれたばかりとは思えない。


 生まれたばかりのはずのハーピィーは、驚くほど成長していた。孵化には通常の倍以上の時間がかかり、さらに、僕が魔力を送り続けた影響があったのか、その体格はすでに生みの親であるブルーちゃんとほとんど同じくらいになっていた。


 上半身の女性の部分は、顔がブルーちゃんにそっくりで、大きくてぱっちりとした瞳が印象的だ。

また、肩までかかる銀髪の毛先や翼と尾羽の先端が青く染まっているのは、僕とブルーちゃんの魔力が影響しているようだ。

さらに、この子の翼は、ブルーちゃんの燕のようにしなやかな翼とは異なり、猛禽類の鷹を思わせるようなたくましい形をしている。鋭い爪も生えており、全体的に力強さを感じさせる外見だった。


 ルトやイクスのようにスキルで生まれたわけではなく、貰った卵から誕生したこの子。しかし、僕の魔力の影響で全体的に銀色の特徴が顕著に表れている。


「あむっ、あむっ、あぐっ……きゅ?」


 生まれたばかりのその子が卵の殻を一心にかじる様子を、驚きと微笑ましさが入り混じった気持ちで静かに眺めていた。やがて、僕の視線に気が付いたのか、食べるのを止めた彼女がじっとこちらを見つめる。


 しばらく見つめ合っていると――。


「きゅ~~~?」


 その子は首を傾げながら、まるで『あなたはだあれ?』と問いかけるような仕草と鳴き声をした。

僕はその彼女の疑問に答えるように優しく微笑みながら話しかける。


「やあ、おはよう、僕は君の家族だよ」


 そう、僕が魔力を注いで育てたハーピィーの卵が、ついに孵ったのだ。


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