とある雑誌記者の突撃取材の代償 7
俺は洗いざらい全てを話し終えると、その場にいた全員から非難の視線を浴びて呆れらていた。
「……呆れた、よくもまあ、そんな自分勝手な理由で碧君を巻き込まないで欲しいですね」
「はぁー……、それに加え魔力草を盗んだ挙句、あんなに主様の土地を滅茶苦茶にするとは……、もう、その自己中心的で身勝手な行動は、もはや怒りを通り越して呆れてものも言えんわ」
肩を落としながら呆れてる清姫と詠美の二人に対して、怒りを抑えられないアラクネと猫耳娘の二人。
「清姫様、詠美……このゴキブリに重い罰を与えるべき」
「蜘蛛女の言うとおりにゃ! 極刑にゃ!」
そんな二人がギャーギャーと騒いでる隣で、羊の少女は「どうなっちゃうんですかね~」っと場違いなのんびりとした口調で成り行きを見守っていた。その場違いな笑顔が逆に怖く見えて仕方がない。
(じょ、冗談じゃない、殺されてたまるか! それなら……)
「もう、金輪際二度と悪いことはしない! それに、灰城碧に関係のあることは記事にしないし、何なら記者をやめたっていい!! 謝罪ならいくらでもするし、慰謝料も払う! だから許してくれよ~~!」
俺はせめてもの悪あがきとして、ウソ泣きをしながらいかにも反省してる迫真の演技をする。
「……今更反省しても遅いわよ?」
「……怪しいね、嘘ついてるんじゃないか」
俺の迫真の演技が効いたのかちょっと場の空気が柔らかくなる。
「ほ、本当です! 心から反省してます!」(なーんてな、反省するわけないだろバーカ! この場を解放されたらすぐこの事を記事にして朝一番の特集にデカデカと載せてやる!)
俺は反省するふりをして、そんなことを心の中で呟いたのがいけなかった。
突然、成り行きを見守っていた羊の少女が俺の傍に近づいてきた。
その片眼――緑色に光る瞳が、不気味にうっすらと輝いて見える。
「……?」
警戒する間もなく、羊の少女はゆっくりと片足を後ろに振り上げ――。
「ぐえ゛ぇぇぇぇぇー!! ガハッ!!」
次の瞬間、俺の腹部目掛けて強烈な蹴りを繰り出した。
衝撃で九の字に折れ曲がった俺は、まるでボールのように宙を舞う。
『ドンッ!!』
背中から木に叩きつけられ、視界がぐらつく。頭の中で何かがパチパチと弾け、意識が朦朧としてきた。
「……ッ……」
その状態の俺を無視して、羊の少女が清姫たちに向かって報告を始めるのが聞こえた。
「この人、全く反省してませんよ~! この場を解放されたら、すぐこのことを記事にして朝一番の特集にデカデカと載せてやる!って、頭の中で考えていました~!」
無情にも響く、羊の少女の告発。
(……俺の考えが……読まれた……! そんなスキル、聞いたこともねえ! ハッ!? だからこいつはさっき黙って俺を見ていやがったのか……!)
胸の鼓動が荒れ狂う。まるで心臓が逃げ出そうとしているかのようだ。どうにか息を整えようとするが、冷静さを取り戻す暇もなく、羊の少女はのんびりとした口調で続けた。
「はい、貴方が考えてる通りですよ~。私は先程からず~っとあなたの心の声を聞いていました。『読心術』っていうスキルなんです。普段は人の心なんて覗きたくありませんけど、友達のヤギさんを傷つけた相手なら話は別です~」
(友達のヤギ? あ!? あの魔力草を食ってたヤギか!? 確かに霧の中で何発も魔法をぶっ放したが……視界が悪くて当たったかどうかなんて分からなかった。いや、もしかしてその一発があのヤギに……!? まずい、いつの間にかこいつの逆鱗に触れてたのか……!)
羊の少女の目は静かな怒りを湛えていた。彼女の余裕たっぷりの態度が、逆にこちらの焦りを煽る。
「反省の意志はありませんか……これは下手に名古屋のあの場所に送っても、ネット環境のある分、ネットにあることないこと書かれそうですね……困りましたね」
「……なら、いっそここで殺ってしまうか?」
物騒な話が聞こえてくるが、今の俺にはどうすることもできない。
「それはだめよ、清姫がそんなことしたら碧君が悲しむわよ」
「……主が知らなければいいだけの話だろう?」
森崎詠美と清姫が激しく言い争っている。
「だ~め、言うこと聞かないと、碧君にあなたたちが人の姿になれることバラしちゃうわよ!」
「ぐぬぬ、それは卑怯だぞ! この姿を主に見せる時は、主がピンチの時に颯爽と主の前に現れ、映画のようなドラマチックな場面にしようと決めてるんだ!」
二人の間に割り込むように、猫耳娘が声を上げた。
「だったら、ミャーにいい考えがあるにゃん! 聞くかにゃん? 」
場の空気が一瞬固まり、全員の視線が猫耳娘に集中する。彼女は意識して胸を張り、少し芝居がかった仕草で近づくと、小声で何かを囁き始めた――。
「こいつを――乗せて働かせてこいつから賠償金を貰いつつ、それでいて返済が終わるまで碧にゃんの為に――を送ってにゃん」
話は途切れ途切れで内容は聞こえない。ただ、清姫と詠美が彼女の提案に真剣な顔を向けるのが見えた。
「それはいい考えですね」
詠美は満面の笑みを浮かべながら頷き。
「それなら主様も喜ぶの」
清姫は目を細めて、冷たい微笑みを浮かべていた。
(……なんだ、何を企んでいる……?)
意識が霞む中で、不気味な沈黙が場を支配する。視界の端に森崎詠美の動きが映り、やがてその冷たい視線が俺を見下ろした。
「山口さん、あなたの罰が決まりました。これからの人生、精々這いつくばって返済に励んでくださいね。それも、24時間体制でね」
詠美の声は、凍りつくように冷たかった。次の瞬間、その視線が俺を貫くように感じた。視界が暗転し、冷たい笑みが耳の奥に残ったまま、俺の意識は完全に途切れた。




