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とある雑誌記者の突撃取材の代償 4

 アラクネ――それは俺にとって恐怖そのものだ。


 ダンジョンで初めて見る植物の数々に目を奪われた俺たちのパーティーは、それがアラクネが育てているものだとは知らずに触れてしまった。そして、怒り狂ったアラクネの逆鱗に触れた結果、俺以外の仲間たちは、当時「最強のパーティー」とまで言われていたにもかかわらず、全く抵抗できずになぶり殺しにされた。その光景を目の当たりにしながら、俺は仲間を見捨て、ただ必死に逃げるしかなかった――あの恐ろしい記憶は、今でも忘れることができない。


 そのトラウマから冒険者になることを諦めた俺は、もう二度とアラクネに出会うことはないと思っていた。だが、こうして再びアラクネに遭遇してしまった。恐怖で体が震える。


(俺はまだ死にたくない! 死にたくない!)


 俺は今、人生最大の命の危機に晒されていた。後から現れたアラクネに糸で口を塞がれ、体をぐるぐる巻きに縛られて木の枝にミノムシのように吊るされている。


「ん゛―っ!! ん゛―っ!!」


「うるさいにゃ!」(ゴスッ!!)


「うぐっ!?」


 必死にもがきながら、なんとか脱出しようと体を動かして暴れている俺の腹に目掛けて、ミャーと呼ばれていた猫耳少女の拳が容赦なくめり込んだ。そして、呆れた表情で吊るされている俺を見ると、ため息を吐き、こう言った。


「はぁ~……、いい加減大人しくするにゃ。……じゃないと、あそこの蜘蛛女の昼飯になりたいかにゃ。」


 猫耳少女が吊るされてる俺の頭を掴んで、少し離れた場所で清姫と呼ばれていた女性と話しているアラクネに向きを合わせると、猫耳少女は俺の耳元で小さな声でからかうように喋り出す。


「お前が荒らしたあの場所にゃ、あの魔力草はあの蜘蛛女が主の家計のために、主に見つけてもらえるようにようにわざとあの場所で丹精込めて育ててたやつにゃ……。ただでさえお前はあの蜘蛛女の逆鱗に触れてるにゃよ。これ以上暴れたら、あの蜘蛛女何をするかわからないにゃよ……」


「ん゛っ!?…………」(あの魔力草を育てたのがあのアラクネだと!? 終わった……)


 もう助からないと思った俺は放心状態になり。


「……やっと大人しくなったにゃん。あっ!? こいつ漏らしやがったにゃん! 汚いにゃん!」


 俺は恐怖のあまり失禁してしまった。そんな色んな意味で醜態を晒して茫然としていると、少し距離を空けたところで話している2人の会話が聞こえてくる。


「……ということで、このゴミムシ以外に侵入者はいませんでした」


「うむうむ、蜘蛛よ、ご苦労だったなっと言いたいのだが……。それで、ここに来たのはお前だけか? 他の奴らはどうした? 確か主を守るスケとカク以外は全員すぐ来るようにと伝えたはずだが……」


(嘘だろ!? こいつら以外にもまだいるのかよ!?)


 俺はまだこいつらみたいな化け物が他にもいることに驚愕して再び意識が復活する。そして、清姫の問いかけにアラクネは気まずそうに顔を背けながら答える。


「あ~……まずあのマイペースの羊ですけど、まだ2本足で歩くのに慣れてなくて、練習がてらゆっくりこっちに歩いて行くって言ってました」


 清姫は手で顔を覆い、ため息をついた。


「はぁ~……あの、のんびり屋め、今練習せんでもいいだろう……、他の奴は……」


「……馬鹿ウサギの奴は『この事を詠美に報告すれば人参食べ放題!?』と叫びながら街の方に突っ走っていきました。それに心配になった牛はその馬鹿兎の後を追いかけていってます」


「ああ、そう言えば、兎の奴は詠美に報告すればルト特製の最高級の人参をたくさん食べさせてあげると言われておったな、牛も付いておるし大丈夫だろう……でも! わっちに! 一言! 言ってから! 行って欲しかったけどね!」


 清姫はその場で地団太を踏んで声を荒げる。


「はぁー、はぁー……さて、最後の狸は何をしておる」


「……あのギャル狸は『えっ? 清姫様だけで大丈夫じゃね? 今手が離せないんだよね~、はぁ、はぁ』と言って自分の巣でイクス様に作って貰った主の等身大人形に自分が作った服を着せて一人で発情してました」


「…………」


 そのアラクネの報告にもはや呆れて言葉に出ないようだった。


「……チームワークバラバラだにゃ~」


 そんな静寂した場面に猫耳少女は一言呟いた。



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