とある雑誌記者の突撃取材の代償 1
それはとある休日の日、森崎佳代子が学生生活を始めたばかりの灰城碧への取材を一切禁止しているにも関わらず、それを無視した一人の雑誌記者が、灰城碧の自宅へ突撃取材を試みようとしたことから始まる。
灰城碧——その少年は最近やたらと有名になり始めた人物である。まず初めに、その少年が世間に知られるきっかけとなったのは、ボブゴブリンとの戦闘が録画された一本のドライブレコーダーの映像が動画サイトに投稿されたことだ。その少年の容姿は男性でありながら、小柄な少女の姿をしており、その見た目が今巷で人気の『吸血騎士リリー』というアニメの主人公と酷似していた。そして何より、その少年が甲冑を身にまとい、戦い方もアニメの主人公とそっくりだったことから、世間では“コスプレ冒険者”と呼ばれていたりする。また、冒険者学校での幼馴染との模擬戦が全国中継された際、対戦相手の幼馴染が爆発石を爆発させようとしたのを、灰城碧がクイーンスライムに変身して阻止したという勇気ある行動が世間を騒がせた。
(そんな少年の取材を成功させれば、間違いなく特大のスクープになるはずだ)
そんな淡い期待が、俺の心を強く突き動かしていた。
そう考えながら灰城碧に突撃取材を実行しようとしている雑誌記者の男の名は山口五郎。彼は“週刊ダンジョンの友”という週刊誌の記者である。
現在、彼は前回の強引な取材でいろいろな問題行動を起こし、会社から三か月間の自宅謹慎を言い渡されていた。しかし、自分の名誉挽回のため、最近何かと話題になっている灰城碧への突撃取材を決行しようとしていた。
やっとの思いで目的地の近くまでたどり着いた彼は、入り口に立てられた真新しい木製の看板の前で足を止める。袖で額の汗をぬぐいながら、荒い息の中で呟いた。
「ふぅ~、『ここから先は私有地につき立ち入り禁止』、か……やっとここまでたどり着いたぜ。まったく、よくもまぁこんな人気のない場所に住んでいられるもんだ」
彼がここにたどり着くまでに目にした風景には、数年前の魔物による事件の傷跡が色濃く残っていた。破壊された建物の残骸、ひび割れたアスファルト、草に埋もれた道。そんな荒廃した住宅街をさらに奥へ進んだ人気のない場所で、目的の少年が生活していることに、彼は正気を疑った。
(でもまぁ、こうしてここまで来てしまえば、あとはこっちのもんだぜ。それにしても……すげぇ風景だな、こりゃ……まるで別世界みたいだぜ)
まるで看板が世界の境界線の目印であるかのように、看板の向こう側に広がる風景はあまりにも神秘的だった。
季節に関係なく、均等な間隔で植えられた果樹園には、さまざまな種類の果実が実っている。ここから軽く見ただけでも、りんご、みかん、バナナ、オレンジなど、数え切れないほどだ。そして、その実った木々の木陰には、奥に見える山から下りてきたと思われるウサギやクマ、タヌキなど、多種多様な動物たちが、仲良く身を寄せ合って眠ったり、じゃれ合ったりしている光景が目に入った。
(おっと、いけねぇ。さっさと用事を済ませちまわねぇとな……それに、この看板を見る限り、灰城碧があの獅子蕪木組から周囲の土地を譲り受けたという情報は本当だったのか……)
最近整備されたばかりと思われる綺麗な道を見て、その情報への確信が深まった。
「へっへっへっ、これは何がなんでも俺の取材に答えてもらわないとな……絶対に特大のスクープをものにしてやる」
そうほくそ笑みながら、一歩を踏み出した。だが、もしここで引き返していたら、あんな目に遭わずに済んだだろう……。




