ルトの一日 13
「あ~あ~……、いいところで終わっちゃった……」
私は翼ちゃんが貸してくれた漫画本を閉じ、独り言を呟きながら続きの展開を頭の中で妄想して胸を膨らませた。そして、すでに読み終わった本の山に綺麗に積み上げ次の巻を見つけて手を伸ばしたその時、ふと置き時計の時間が目に入り、目を見開いて思わず驚く。
(え!? もうこんな時間!?)
傍に置いてあった小さな時計の針は、午前2時を迎えようとしていた。
(普段の私なら、すでに寝ている時間なんだけど、まさか漫画がこんなに面白いなんて……)
数日前、翼ちゃんに「好きな漫画は?」と聞かれた時、『漫画を読んだことがない』と答えた私に翼ちゃんは驚いていたっけ。そして、今日泊まりに来た翼ちゃんに大量の漫画本を貸してくれて、翼ちゃんが
寝落ちした後、自室で読み始めたらすっかり時間を忘れるほどハマってしまったのだ。
(ふぁ~……歯磨きして早く寝なくちゃ、続きは気になるけど明日も早いしね)
短く欠伸をしながら部屋を出て、小玉電球の優しい光だけが辺りを照らす中、夜中の冷たい木製の床を足の裏で感じつつ、洗面所へと向かった。
『あら? ルト、まだ起きてたの? 珍しい。良い子はもう寝る時間よ』
洗面所に向かう途中、屋根裏に隠してあった佳代子おばあちゃんのお酒を持ち去ろうとしている清姫さんに遭遇する。実は清姫さんもスケルトンのセバスさんと同じように、念話で会話ができるが、それは母さんたちには内緒にしている。念話で聞こえてくる清姫さんの声は、梢さんと同じくらいの年齢の大人の女性の声だ。
「……ねぇ、清姫さん、そのお酒、先週佳代子おばあちゃんが夏美さんにバレないようにこっそり預けてきたやつじゃなかったっけ?」
私が清姫さんに尋ねると、彼女は頭をすり寄せて、愛おしそうに酒瓶に頬ずりしながら答えた。
『いいのいいの、どうせすぐにあのおばあちゃんが何かやらかして、すぐ飲めるようになるんだから。それに、ルト、わっちのことは“清姫お姉さん”って呼びなさいって言ってるでしょ? わっちのほうが年上なんだから』
清姫さんは私にそう言いながら尻尾の先端を私に向ける。
「ごめんなさい、清姫お姉ちゃん」
『うむ、分かればよろしい。それじゃあルト、早く寝るんだよ』
清姫さんは私にそう言い残すと、尻尾で酒瓶を巻きつけ、廊下の窓を器用に口で開けて外に出ていった。きっと縁側でスケさん、カクさんと朝まで飲み明かすのだろう。
そんなことがありながら、洗面所に入って証明のスイッチを入れると、空お姉ちゃんに遭遇したんだけど……。
「あはは……、やあ、ルトちゃんこんな時間まで起きてたの?」
「空お姉ちゃん、何やってるの? 母さんのパンツを頭にかぶって」
「いや~……、宝さがしを少々……」
空お姉ちゃんは洗濯籠を物色していて、頭には母さんのトランクスを帽子のように被り、両手には母さんの着ていた服や体を拭いたタオルを握り締めて、私に気まずそうに言い訳をしていた。




