ルトの一日 6
「……仕事が終わるまで外れない首輪じゃと!?」
「そうだよ、佳代子おばあちゃん。その首輪は、夏美さんが空お姉ちゃんに頼んで作ってもらった特注品なんだ。……夏美さんがいない間、佳代子おばあちゃんがサボらないようにするためのね」
「くぅぅっ……! おのれ、夏美め! 自分の母親に対してこの仕打ちとは、いったい何を考えておるんじゃ!」
佳代子おばあちゃんは天井を睨みつけながら、恨めしそうに叫んだ。その姿に苦笑いを浮かべつつ、私は小さな声でぼそりと呟く。
「たぶん、仕事をサボる常習犯だと思ってるんじゃないかな……自業自得だよね」
私の呟きが聞こえたのか、佳代子おばあちゃんは鼻でフッと笑い、ニヤリとほくそ笑んだ。
「だが甘いのう、夏美の奴め……こんな首輪一つで、わしが真面目に仕事をするとでも思うたか」
首輪を嵌められてもなお仕事をする気がなさそうな佳代子おばあちゃんに、私は疑問に思い尋ねてみる。
「……佳代子おばあちゃん。どうしてそんなに仕事をサボろうとするの? 佳代子おばあちゃんが本気を出せば、すぐに終わるんじゃないの?」
「ルトちゃん、確かにわしが本気を出せばすぐ終わるじゃろうが、それでは意味がないんじゃよ……。仕事があるのに、期限ギリギリまでサボるこの背徳感がたまらんのじゃ」
佳代子おばあちゃんはそう言いながら、うっとりとした表情でほくそ笑んでいる。それは他人には見せられない顔だ。
「えぇ……そんな理由なの?」
「ルトちゃんも機会があればやってみたらいいのじゃ……癖になるぞい」
「いや、私はやらないよ。それより佳代子おばあちゃん、そろそろ仕事を始めないと大変なことになるよ」
私は自分の左手首に着けてある、母さんからもらった腕時計で時間を確かめながら、佳代子おばあちゃんに警告する。
「うん? 大変なことになる? ルトちゃんや、何を言っ……あばばばばっ!?」
佳代子おばあちゃんが話している途中で、首輪から数万ボルトの電流が流れ始め、激しい音を立てて電撃を浴びせられた。彼女は後ろに倒れ込み、その光景を見た私は心の中で呟く。
(あぁ~、だから仕事しなくていいの?って言ったのに……)
私はそんなことを思いながら、目の前でまるでギャグアニメのキャラクターのように硬直し、電撃を食らい続ける佳代子おばあちゃんを見守っていた。
そして、30秒が経ち、首輪からの電流が止まり「と、止まったのじゃ……」と佳代子おばあちゃんが呟き、安堵しているものの、体が痺れて動けない佳代子おばあちゃんを、私は抱き上げた。抱き上げた瞬間、母さんよりも背が低いはずの佳代子おばあちゃんが意外に重いことに驚きつつ、椅子に座らせてあげる。そして、空お姉ちゃんから聞いた首輪の説明を始める。
「空お姉ちゃんからその首輪の説明を聞いたんだけど、仕事をせずに5分以上経過すると、30秒間電流が流れる仕組みになってるんだって。あと、空お姉ちゃんからの伝言で、高レベルの佳代子おばあちゃんに首輪を試すことで、ステータスを持っていない一般の警察でも、高レベルの冒険者を安全に拘束できるようにする試験運用も兼ねているから、報告書の作成をお願いしますって言ってたよ」
私が空お姉ちゃんの伝言を伝えると、佳代子おばあちゃんは苦虫を嚙み潰したような表情で呟いた。
「え~……わし、ただでさえいきなりこの首輪を嵌められて電撃を食らっとるのに、この首輪の報告書まで作らんといかんのかのう……理不尽じゃ」
佳代子おばあちゃんはそう言いながらため息をつき、ついに観念した様子で、渋々仕事を始めた。




