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ルトの一日 5

 私は通路を歩きながらすれ違う人たちに挨拶を交わし、佳代子おばあちゃんがいる部屋に向かって職員室を通り過ぎようとしたところ、職員室から出てきた一人の男性教員に呼び止められた。……たしか、岡部さんって名前だったかな。


「やぁ、こんにちは、ルトさん。今日も夏美さんのお手伝いかい?」


「こんにちは、岡部さん。そうです。佳代子おばあちゃんが仕事をさぼらないように見張る役目です」


 ちょうど一週間前、広場でブルーちゃんたちと遊んでいたら、夏美さんがやって来て佳代子おばあちゃんの監視を頼まれたのだ。この一週間、佳代子おばあちゃんがいる学園長室に行くために毎日職員室の前を通り抜けていた結果、教員の人たち全員にすっかり顔を覚えられた。


「いや~、助かるよ。ルトさん、ルトさんが学園長の見張りをしてくれるお陰で、私たち教員の備品承認が早く下りるからね。……そうだ!」


 岡部さんはそう言って職員室に戻り、自分の机の横にぶら下がっていたビニール袋を掴んで戻ってきた。


「はいこれ、今東京で話題になっているゴーレム煎餅。これでも食べながらお仕事頑張ってね」


「わ~、これ、テレビで紹介されてからずっと食べたいと思ってたんです! ありがとうございます!」


 こんないいことがあるなんて思わなかった。ゴーレム煎餅は、東京にあるゴーレムのダンジョン近くの煎餅屋さんの商品で、ピリッと甘辛い味が特徴だ。店内販売のみで、テレビで見て以来ずっと食べてみたかった。そして、佳代子おばあちゃんがいる学園長室の前に着いた私は、物音を立てずにそっと扉を開け、中に入った。すると……。


「ア~ハッハッハッ! こやつらは本当に馬鹿じゃのう、わしを笑い死にさせる気か、あ~腹が痛い!」


「…………(佳代子おばあちゃん、ちゃんと仕事しようよ)」


 佳代子おばあちゃんはソファに座り、お饅頭を食べながら壁にかけられているテレビを見て大爆笑していた。テレビ画面を見ると、昨日の夜に放送されていた『おマヌケ映像百連発』の録画を見ているようだ。昨日、母さんたちと笑いながら見ていたから間違いない。


(まぁ、確かに面白かったけど……今日、夏美さんがいないからって)


 私は机の上に視線を向けると、お茶の入った湯呑の半分の高さまで積みあがった書類が目に入った。


(……もう、佳代子おばあちゃんは本当にしょうがないな。毎回私が来るってわかっているのに、こうも堂々とお仕事をサボるなんて……今回は容赦しないから)


 私は心を鬼にして、持ってきた荷物の中からトラ模様の首輪を取り出した。佳代子おばあちゃんは未だに私が部屋に入ったことに気づかず、テレビを見ながら大爆笑している。そんな姿を見つめながら、私はそっと彼女の背後に近づき、その手が一瞬、罪悪感に包まれるが、気配を殺して首輪をつけた。


ガチャン!


「うわ! なんじゃ、この首輪は! 誰じゃ、この首輪を付けた奴は! ……あっ、やぁ、ルトちゃんや、いつの間に来たのじゃ? あとこの首輪は何じゃ? 外して欲しいんじゃがのう」


 佳代子おばあちゃんは、突然首輪を付けられたことに驚き、自分の首に取り付けられた首輪を外そうと必死にもがきながら文句を言い、慌てて後ろを振り返った。私の姿を見つけると安堵して気楽に挨拶した。どうやら取り付けられた首輪がイタズラ目的だと思っているようだ。しかし、現実はそうではない。


「……こんにちは、佳代子おばあちゃん。その首輪は佳代子おばあちゃんの仕事が終わるまで外れないよ、私も本当はその首輪を佳代子おばあちゃんに付けるのは反対だったけど、あんな堂々とサボる姿を見ちゃったら仕方ないよね」


 私は佳代子おばあちゃんに冷静に話しかけながら、静かに微笑んだ。


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