結菜と恋人になった後 1
部屋に立て掛けてある時計の針が午後9時を指したころ、僕たちは結菜に最初に案内された部屋に移動していた。廊下からは、宴会の後片付けをしている獅子蕪木組の慌ただしい足音や、食器がぶつかり合う音が聞こえてくる中、辰則さんが口を開いた。
「い、いたた……さて、碧の坊主。わしら獅子蕪木組を助けてくれたお礼なんだが……」
「あの……その前に、怪我を治しましょうか?」
「おお、坊主助か……「治すんじゃないよ、碧」……坊主、気持ちだけ受け取っておく」
辰則さんが痛そうに腹を摩る姿を見て、思わず治療しようと近づいた僕だったが、梅花さんが待ったをかけた。
「アニキ、親父なんて治療しなくていいよ。せっかく告白に成功した余韻に浸ってたのに、親父の下手な演歌のせいで……」
結菜が辰則さんをジロリと睨む。
「あ、あれはお前と一世一代の告白を邪魔されないように、わしが精一杯時間を稼いでただけで……」
辰則さんがオロオロと言い訳をするのに対し、結菜はため息をつきながら一言。
「はぁ……そんなことしなくても、みんなわかってたんだよ、バカ親父。余計なお世話だよ」
(き、気まずい)
結菜と辰則さんの言い合いが続く中、僕たちはどう反応していいか分からず、無意識に梅花さんの方を見てしまった。梅花さんは僕たちの視線に気づき、話題を変えてくれた。
「……辰則。お礼の話の途中だったんじゃないか?」
梅花さんに指摘され、辰則さんが僕たちの存在を思い出したようにハッとする。
「おっと、そうだったな。それで、お礼の話に戻るんだが……どうした坊主?」
辰則さんが話し始めたところで、僕はそっと手を挙げた。
「話を遮ってすみません辰則さん。実はここに来る途中で、みんなで話し合って決めていたことがあるんです」
「ほう、そうなのか? とりあえず聞かせてくれんや? 話を聞いてから判断するからよ」
辰則さんは少し意外そうな顔をしながら、僕に話を促す。
僕は最後に空ちゃんたちに視線を向け、確認を取る。みんなは静かに頷き返してくれた。
「実は、結菜が学校にいる時の様子を僕の友達が教えてくれました。いつも彼女が教室にいる時は、一人で席に座って寂しそうに過ごしているそうです。クラスメイトが話しかけようとしたけど、いつもそばにいるスケルトンが怖くて近づけなかったって。それを聞いて、僕たちは決断しました。お礼としてお願いしたいことがあります」
僕は少し間を置いて、言葉を続けた。
「結菜が冒険者学校に通う条件の一つである、学校にいる間、護衛としてスケルトンを召喚させるという決まりを取りやめてほしいです」