月夜の告白
「あ~……、いい夜風ですね、アニキ」
「うん、風が心地いいね」
僕は結奈に連れ出され、屋敷の庭にある水面に綺麗な満月が映っている大きな池の傍を歩いていた。部屋の隅で結奈と梅花さんが内緒話を終えた後、彼女が緊張しながら僕を誘ってきたのだ。
(二人っきりになるってことは……やっぱり告白だよね)
僕と結奈が庭に出る直前に、空ちゃんたちが彼女を応援していたので、薄々察してしまった。
やがて、僕たちは池の近くにある座るのにちょうどいい大きな平たい石に二人で並んで腰を下ろして、彼女に問いかけた。
「結奈はどうして僕をこんなところに? ……って、言うのは野暮だよね、ごめん」
僕は結奈の顔を見つめながら問いかけると、彼女は自分の頭を掻きながら苦笑いをして答える。
「あはは……やっぱり、わかっちゃいますよね。ちょっと待ってください。ふ~……よし!」
結菜は目を閉じて深呼吸し、息を整えた後、決意したように僕に話し始める。
「ア、アニキ……じ…実は、あ、あたし、アニキのことが、す…すごく、すすす好きで……」
「……うん、ありがとう結菜。僕を好きになってくれて。それで、どうしたいの? ……ゆっくりでいいから僕に教えて」
彼女は顔を真っ赤にして拳を握りしめながら、懸命に自分の思いを伝えようと話してくる。それに対して、僕は優しく聞き返した。
「あ、あたしも空たちと同じでアニキの恋人になりたくて……だから……」
そう言って結菜は立ち上がり、僕の前に移動して、俯きながら僕に手を差し出して告白してきた。
「あたしもアニキの恋人にしてください!!」
彼女の告白に応えるために僕は立ち上がり、彼女の手を握りながら答える。
「うん、こちらこそよろしくね、結菜」
「やった~! アニキ、ありがと~……って、危ない、危ない、嬉しすぎて思わずアニキに飛びつくところでした。ごめんなさい」
僕が返事をすると、結菜は満面の笑みを浮かべて抱きつこうとしたが、途中で僕がハーピィーの卵を背負っていることを思い出して踏みとどまり、そのもどかしさにじらされている姿を見て、思わず笑ってしまった。
「あはは、結奈……ほら、おいで」
「ア、アニキ……いいんですか? では、失礼します。お~! これは、なかなか……千香が言ってた通りだ。幸せ~……」
僕は先程腰掛けていた石に座り直し、自分の太ももを軽く叩いて結奈に合図すると、彼女は僕の意図に気づいて隣に座り、ゆっくりと僕の方に横に倒れながら僕の太ももに頭を乗せ、満足そうに口元を緩めてリラックスして眠ってしまった。すると、梅花さんが音もなく僕たちの前に現れ、軽く手を挙げて言った。
「よう、少年。ありがとよ、結奈の告白を受け入れてくれてよ。あたしは嬉しいぜ、この~」
梅花さんは僕の頭を乱暴に撫でて褒める。
「あ、ありがとうございます、梅花さん。でも、そんな大声出したら結奈が起きちゃいますよ」
「う、う~ん……」
「おっと、いけねぇ、危うく起こしちまうところだったぜ。よっと」
眠っている結奈を梅花さんがそっと抱き上げた。
「結奈にはちと悪いが、まだ少年にはこの組を助けてくれたお礼の話が残っているからよ。……行こうか、少年」
「少年って呼び方はちょっと……碧でお願いします」
「わかったよ、碧。これでいいか? それじゃあ、屋敷の中に戻るよ」
僕と梅花さんは結奈を起こさないようにゆっくりと歩いて戻ったが、部屋に入ると辰則さんが大音量で音程の外れた演歌を熱唱しており、それに驚いた結奈が目を覚ましてしまった。結奈が起きてしまったことに激怒した梅花さんは、辰則さんに飛び蹴りを入れ、その後、お礼の話に移っていった。