宴会に現れた赤鬼 3 結菜サイド~ご先祖様と内緒話~
「ちょっと……何ですか、ご先祖様? 部屋の隅まで連れて来て……」
あたしはご先祖様に腕を引っ張られ、部屋の隅に連れてこられて困惑していると、ご先祖様があたしの肩に腕を回し、周りに聞こえないように小声で話しかけてきた。
「まあ、ちょっとあたしの話を聞けや、結奈。まず初めに言っておくが、あの小さいノミ野郎……吸血毒ダニだったか? あの時にお前らを助けなかったのは……結奈、おめぇのためでもあるんだよ」
「……あたしのためですか、ご先祖様?(バチン!!)……ちょっと、痛いですよご先祖様……」
ご先祖様から「お前のためだ」と言われて首を傾げるあたしのおでこに、ご先祖様は強めのデコピンをしてきた。あたしはおでこを押さえながら文句を言った。
「結奈……その『ご先祖様』って呼び方、やめろ。名前で呼べ。……わかったな」
あたしの肩に回している腕をぐっと締め、ドスの効いた低い声で注意される。
「わ、わかりました。じゃあ、梅花様って呼ばせていただきます。……それで、梅花様? あたしのためってどういうことですか?」
「そりゃ~……お前。あの客人の少年との出会いのきっかけを作るためじゃねぇか。……あたしは知ってるんだぜ、お前があの少年の似顔絵を描いて、毎日寝る前にその似顔絵に向かって話しかけて練習している悲しい姿を……」
「え!? 梅花様、見ていたんですか!?」
「どうしたんだ、結奈! そんな大声を出して! ご先祖様に何を言われたんだ!」
あたしは驚きのあまり大声を上げてしまうと、それを聞いた親父が慌てて近づいてくるが、梅花様が親父の首根っこを掴んで持ち上げた。
「今はあたしと結奈が内緒の話をしているんだよ……そういえば、元はと言えばおめぇが結奈の決意を無駄にしようとしたんだったな。池の水に浸かって反省しろ!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ、ご先祖様!! わしは結奈のためを思って……うぎゃ~~~~!!」
梅花様は親父を庭にある池に向かって投げ飛ばした。親父は派手な音を立てて池に落ちて、部屋にいたアニキたちや組員が、慌てて親父に駆け寄るが、梅花様本人は何事もなかったように、あたしとの話を再開させた。
「あいつらのことはほっといて、話を続けるぞ、結奈。お前が毎晩のように似顔絵に向かって話しかけたり、少年が買い物をしている姿を遠くから眺めているだけで、自分から近づこうともしないヘタレだからな、どうやってお前と少年にきっかけを持たせるか考えていた矢先に、吸血毒ダニが詰まった瓶が庭に投げ込まれたんだ。……でも、瓶が頑丈で割れなかったから笑っちまったよ、あっはっはっは!」
「……え? でも、吸血毒ダニは外に出ていましたよね。は!? ……まさか、梅花様」
あたしはある真実にたどり着いて、梅花様に視線を向けると、彼女は悪びれもせずニヤリと笑った。
「おうよ! 全てはお前と少年が出会うきっかけを作ると同時に、獅子蕪木家に喝を入れるために心を鬼にしてあたしが瓶を割ったのさ。そして、お前たちがいい具合に混乱したらセバスに少年を呼んで来るように命令してな」
「梅花様!? なんてことするんですか!! もし、吸血毒ダニが屋敷の外に出ていたらどうするんですか!」
あたしは梅花様の襟を掴んで叫び、あたしを見守っていた全員の視線が集中したが、気にしない。
「そこは大丈夫だ、結奈。ちゃんとお前たちに気づかれないように吸血毒ダニが屋敷の外に出ないようにあたしが結界を張ったからな。あっはっはっは!」
「……梅花様、やることが無茶苦茶ですよ」
ケラケラと笑いながら楽しそうに話す梅花様に、あたしは床に両手をついてショックを受ける。すると、梅花様はあたしの頭をわしゃわしゃと乱暴に撫でながら優しく言った。
「ごめんな、結奈。あたしのやることが無茶苦茶でよ」
「梅花様……わかってるなら、もうやらないでくださいよ……」
「だからごめんって、結奈。でも、このことがきっかけでお前は勇気を出して少年の家に行ったじゃねぇか。見直したぜ。流石、あたしの血を受け継いだ子孫だよ。えらい、えらい」
そう言って、あたしを撫でる梅花様の手が、昔死んだお袋を思い出させて懐かしかった。すると、梅花様は力強くあたしを抱きしめ、体を震わせながら怒りを孕んだ声で親父を睨みつけた。
「だから、そうやって結奈が勇気を出して少年に告白するところを見守っていたのに、少年の前であの空気も読まない馬鹿野郎と口論になってるのを見てカチンと来ちまってよ……つい、出てきて言い争いを止めるために結奈にも拳骨を食らわせちまったんだ、ごめんな……」
しょぼくれながら謝る梅花様に、あたしは苦笑いを浮かべ、梅花様の目を見て真剣に答えた。
「……あはは、いいんですよ、梅花様。おかげで頭がスッキリしました。これでアニキに思いを伝えられます」
「……そうか、なら少年に思いをぶつけてこい! 応援してるぞ!」
あたしは梅花様に背中を押され、勇気を出してアニキの元に向かった。