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第 43 章

「はぁ、まだまだ現実とは思えないな」

俺は先ほど出現した通路を歩きながら言った。気が遠くなるような長さをしている。

「なんか別の世界にいるみたいだな──」

「あのお話の、でしょう?」

ストレリチアの声は期待感でいっぱいになっていた。

「ワクワクしちゃう! こんなに楽しいことが待ち受けていたなんて、考えてもなかったわ!」

「ストレリチア、気を緩めるでない。これは現実じゃ」

ストレリチアの肩に乗ったアンサイが言った。

「一寸先は闇じゃぞ、こんなところではな」

俺たちはやっとで石でできた扉にたどり着いた。ストレリチアが押して開けようとしたその瞬間──

「ちょっと待ちなさい」

──そう言ったフローレンスはストレリチアの代わりに、前に出た。

フローレンスは精霊道具を身につけ、扉を調べ出した。

「罠が仕掛けられてる」

フローレンスは手を伸ばしながら後退りを始めた。

「解き方が謎ね。遠くから扉を開くことができるようなもの誰か持ってる?」

「俺ならできるかも」

俺は白蛇宇賀をムチのようにさせ、扉の方まで伸ばし、ハンドルをぐるりとつかんだ。

「スキルには関係なく、俺の意思だけに従って動くのが幸いだな」

ハンドルをひねると扉は開いたが、その瞬間、双方の壁から二つずつ、そして天井から一つ、計五枚の刃が勢いよく扉の前に飛んできた。その刃は血に飢えたようにギラついていた。

「おっそろしいな、細切れになるとこだった」

俺は驚きながら言った。

「まごうことなき……今の我々のレベルでは命を落としていたじゃろう。レベル50かそれ以上あって初めて、あれに抗えるチャンスがあったというところじゃ……」

アンサイは顔が真っ青になったストレリチアを見た。

「今頃ミンチにされていたかもしれん。この者ができることは、目の前にあるものを直接分析することだけじゃ。隠れているものについてはわからぬ」

「え、ええ、フローレンスの確認なしではもう扉には触れないわ」

ストレリチアは言った。

フローレンスは肩越しにストレリチアを見つめ、大きなスマイルを見せた。

「ちゃんと確認してあげるわよ」

そう言うと、指をあごに置き、言葉を続けた。

「とは言え、こーんな罠が潜んでるなんてね。精霊道具は出していた方が良さそうね……」 さらにフローレンスはストレリチアに意地悪そうな笑みを見せた。

「かわいいストレリチアちゃんが、深くて暗〜い穴に落ちて、死ぬなんてことになっちゃったら……ね」

「お、お、落ちたら死ぬような穴があるの?」

「ひとたまりもないでしょうねぇ」

ストレリチアは恐怖のあまりに、膝がガクガクとなり始め、ヒックヒックと泣き出しそうな声を出し始めた。

「もういいだろ、やめるんだ」

俺はストレリチアの腕をつかんで言った。

「前に進もう、剣もしまったし」

「行きましょ! 次の部屋に何があるか超楽しみよ! さぁ、ストレリチア」

フローレンスは道を開けた。

「先頭はあなたよ」

「ブレア……?」

ストレリチアは俺を見てそれだけ言った。俺が代わりに先に行こうとした瞬間、ストレリチアは弱気を振り払うように首を振り、覚悟を決めた顔を見せた。

ストレリチアはフローレンスを追い越し、次の部屋に素早く入ると、そこに立ち周りを見回した。

「問題ないぞ」

アンサイのその言葉に続き、俺たちも部屋に入っていった。

その部屋はこれまでで一番奇妙な様子をしていた。四角くてだだっ広く、天井には光を放つ球体が埋め込まれ、床には野原にあるような草が生え、草が生えていないところからは花が育っていた。そんな中でも一番目を疑ったのは、床の真ん中にくぼみがあり、リュックの大きさほどの黒いふわふわしたボールが置かれていたことだ。

「アンサイ、これはなんだ?」

「これは……養育施設みたいなもんじゃろう。あのくぼみにはまって動かん黒いボールは、我らが探しているバッテリー対応の精霊じゃ」

「わ、あれが? あいつは何してるんだ?」

「おおよそ、ダンジョンに力を送っとるんじゃろう。養育施設は精霊を守り、必要なものを与える。その代償として、精霊はダンジョンに使用される。養育施設は精霊とダンジョンの間にある象徴的な関係性を示す大事な場所じゃ」

「ふーん……」

俺は周囲を見回した。

「アンサイ、これって効率的なのか? ここにあるすべてがこの一体の精霊のためってことだろ──養育施設があった方がダンジョンにとっては都合が良いってのか?」

「バッテリータイプの場合なら、投資と言った方が良いじゃろう。つまり、20ポイントのエネルギーに対して、200ほどお返しにもらうという感じじゃな」

「ふぅん、見事な知識ねぇ、感服よ」

フローレンスが言った。

「書き留めておいたわ。ありがたい情報だからね、サンクス」

「それはさておき、アンサイ、こいつはストレリチアと相性が良さそうな精霊なのか?」

アンサイは何も言わずうなずいた。

「よっしゃ、ストレリチア、捕まえようぜ」

「わかったわ」

片手を抑えながらストレリチアは言った。

「捕まえるためのゾーンを開くだけでいいのよね?」

「そうじゃ」

アンサイは答えた。

「ダンジョンが精霊をおとなしくさせとるから、ちょっとやそっとじゃ動じないかもしれん。その場合には、弱らせてからもう一度トライしてみたらいい」

ストレリチアがゾーンを開くと、記号が飛び交う領域が広がったが、俺の手前のところで拡大するのが止まった。

「ストレリチアがあれを捕まえたら、レベル5突破だな」

俺はつぶやいた。

「ねーえ、ブーレアッ」

フローレンスは俺の注意を引くように言った。

「ここをちょっと調べてくるわ。いいでしょう?」

「ああ、好きにしろ。ただ気をつけるんだぞ」

「ま〜あ? 私なんかのこと心配してくださるの?」

しとやかな女性を気取りながら、フローレンスは言った。

「だって君はか弱いんだろ?」

俺はフローレンスにニヤリとした。

「かわいいフローレンスちゃんが、コートに無惨に引っかかって転んで、複雑骨折なんてことになっちゃったら……な」

フローレンスは数秒ほど口をあんぐりと開け、突如大笑いし始めた。

「も〜う、わかったわよ、ブレア。さっきのリベンジってわけね……それじゃ行ってくるからね」

フローレンスはウィンクをした。

「もしも骨折しちゃったら、私をおんぶするのはブレアだからね。わかった?」

「絶対に骨折なんてやめてくれよな」

フローレンスはペロリと舌を出した。

「あらやだ、お厳しいこと。うちのママがいつも言ってたわ。私には厳しく接してくれる人が必要だって」

フローレンスは笑いながら、まるで踊るようなステップを刻み、消えていった。

俺の心の中では、声が混じったようなでっかいため息が漏れた。まさかフローレンスがこんな奴だったとは……けれどもさっきの応酬を思い出すと、自然と口角も上がった。疲れるけど、おもしろい奴……きれいな女性に声をかけられたリーダーたちの気持ちがわかった気がした。

「ブレア! ブレア! やったわ!」

(かわいいと言えば……)

ストレリチアが光る証明を見せながら飛び跳ねていた。ストレリチアの幸せそうな姿を見ると、いつも心が穏やかになる。

あの黒い精霊を捕まえるのはそんなに難しくなかったようだった──ゾーンを開いて閉じるだけで完了してしまったらしい。ストレリチアが捕まえた精霊を俺に見せようと連れてきた。わ、モフモフじゃないか──

「見て! 小さな羊さんよ! 黒くて小っちゃいの!」

まるでぬいぐるみを抱きかかえるかのように、羊の精霊を抱きしめていた。

その真ん丸さ加減にも驚きだった。バスケットボールくらいの大きさをした柔らかいボール型で、顔は毛にほとんど埋もれている。羊は小さなあくびを一つしたが、眠っているようだった。そのあくびを見たストレリチアは、羊をさらにギュッとした。

「捕まえた、ってことはレベル6になったのか?」

「そうじゃぞ」

アンサイが答えた。

「ストレリチアはうまくレベル5を突破できずにいたが、今では見事に突破しおった。ここからヴィタイをまた貯めていけるぞ」

「やったな」

俺はストレリチアを見てニコリとした。

「本当すごいよ。これからも頼りにしてるからな」

ストレリチアは大きな笑顔を送り返した。

「ブレア、任せといて!」

「ヤッホー、お二人さ〜ん」

問題児の声が響いた。光を放っている球体を指差している。

「あれが欲しいの。取るのを手伝ってくれる?」

ストレリチアと俺はポカンとした。

「何よ? ダンジョンはまた成長するでしょ」

肩をすくめてため息をついたが、俺たちは球体を取ろうとするフローレンスの手伝いをした。フレマイェルダが剣を使って球体を落としてくれて助かった。



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