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32/46

32--てことは……精霊も、ってことだよね?

さて、学びの時間だ、気持ちを切り替えなければならない。アンサイに聞いておきたいこともある。

まずはシンク・スキル。聞いただけでもなんだかワクワクしてくるが、あまりにもいろんなことが起こり過ぎて、これが起きた時には何があったのかはっきりとわかっていなかった。今のところ理解しつつあったのは、ゴブラと俺、お互いの能力が組み合わさって発揮される力があるということ。俺たちの関係性、つまりアンサイが『共鳴率』と言っているものが上がってきているため、最初のシンク・スキルである「シャドウ・エンハンス」──残像が残るぐらいに速く動くことのできるスキル──が使えるようになったのだ。このスキルがあれば、とんでもなく速く動けるようになる。

シンク・スキルは、精霊を仲間にする上での最大のメリットの一つだとアンサイは言う。シンク・スキルとは精霊から生み出される新しい能力で、大体のケースでは、精霊一体一体ずつシンク・スキルが10個ほど使えるようになるらしい。しかし能力に限界があると、使えるようになるスキルも少なくなるようだ。とはいえ、シンク・スキルは俺の戦いのスタイルを決めるのに大きな影響を与えてくるものだと言う。

今のところ、俺の戦いのスタイルは素早さを重視したものになっているらしい。俺が最初に使えるようになったシンク・スキルが速さに関係したものだったことは、あながち偶然でもないだろう。多分、俺がいつも逃げ回っていたことも影響しているのではないだろうか。

アンサイと俺の間からシンク・スキルは得られないのかと聞いてみたところ、驚かれはしたが、よくわからないというのが現状らしい。今使えるシンク・スキルはゴブラから得られたもの一つだけだ。アンサイと俺は共命印で結ばれているから、俺たちのスキルもそこを介して発揮されるかもしれないという憶測はあるようだけど、やはりわからないらしい。アンサイはゴブラのように印縛処にいる精霊ではないから、印縛処の精霊として現れることもない。共命印は本当に便利なものだけど、そこには俺にもアンサイにもわかっていない力が秘められている可能性が高い。

また、アンサイは俺たちの感覚を共有する能力はシンク・スキルに匹敵するようなものではないか、とも推測していた。

ともかく、シンク・スキルとは精霊との関係性から得られるものであって、それを使うには俺の体力が消耗される。体力と言えば、俺にははっきりとわかったことがある。

ヴィタイはゲームにある経験値みたいなもので、体力はある意味ヴィタイと結びついている。ヴィタイを集めてレベルが上がると、蓄えられる体力が少しずつ増えていくらしい。体力は、例えば筋力などの実際の力よりも、レベルアップによる影響が大きいもののようだ。この話を聞いて、この世界で言う「体力」とは、地球で言う「体力」とは別物なのかもしれないと俺は考えるようになっていた。

TVゲームの用語で言うと、体力はRPGのMPみたいなものだろう。

シンプルに言うと、俺がレベルアップすれば体力が増える。体力がもっとあれば、もっと頻繁にシンク・スキルを使えるようになる。しかしそのためには、レベル5の壁を超えなければならない。

俺にはまだ知りたいことが少しだけあった。アンサイのサプライズ好きは十分承知しているけれど、知ったからって、アンサイをがっかりさせるものではない。アンサイは、レベルの壁を破るには二つの方法があると言っていた。それは、早期突破と後期突破だ。レベル5の途中で起こるのが早期突破らしいが、アンサイが言うにはこれは理想的ではない。ヴィタイが貯まらなくなった後に起こる後期突破にこそ理想的だと言う。そんなことを言うものだから、後期突破で得られることは何なのか期待していたが、アンサイはあえて知らないふりをしているようだった。つまり、何か隠し事をしているのも明らかだった、ということだ。隠しておきたい余程のことがあるのだろうが、このことに気が取られているうちに、俺は自分に降りかかってきているトラブルのことを忘れてしまっていた。


***


一日が始まる。鬱蒼とした森を捜索し回る一日になりそうだ。赤い彼女も木に隠れながら付いて来ていた。

アンサイはもう彼女の名前を知っているに違いない。しかし、俺には何一つ言ってこなかった。冷たいのかもしれないけれど、俺も尋ねもしなかったし、アンサイも何も言おうとしなかった。

別に気にもしていないけれど。

森の奥に進むにつれ、より多くのゾンビタイプの精霊が現れるようになった。倒すごとに、白蛇宇賀を使いこなす自信がついてくる。動きにも無駄が少なくなり、戦う度に、レベルを超えるのはそろそろなんじゃないかと気持ちが高ぶっていった。

本日17体目となる精霊を倒した時、俺は足を止め、自分の手を見た。

「これだけ倒したけど、強くなってないことはわかるよ」

「しかしお前さんは戦い方を学び、上達もしておる」

アンサイは続けた。

「これだけでも十分なことじゃ。我々の共鳴率も安定して上昇しているぞ。お前さんはこの者の持つ感覚能力をずいぶんとうまく使っておるしな」

「つまり安定期という名の停滞期ってことだね」

「我らがレベル5を超えるまでは仕方がないことじゃ」

「やぁっ!」

声が後ろから聞こえた。俺とアンサイが振り返ると、泥の中からもがき出てきたゾンビを倒している赤い彼女がいる。ゾンビがゆっくりと消え、ヴィタイが彼女に吸い込まれていく。彼女の息は上がっていたが、ヴィタイを得ると少し落ち着いていくのが目に見えてわかった。

「前例なき者よ、彼女のレベルが4になったぞ」

「でもまだ試用剣だ。俺にやったあの瞑想のやつでどうにかできないのか?」

「残念ながら、お前さんのようにはいかんじゃろう。この者はあの娘と我らのような関係をしておらんから、どうにもできんのじゃ。まったく別の導きの元に己の武器とせねばならん」

「そうか……それなら仕方がないな」

止まっていた足を再び進ませようとした時、雷が大きな音を立てて周囲にとどろいた。俺たちは一斉に右の方を見、そのすぐ後に、森から煙が上がった。

「あれはなんだ?」

アンサイは目の色を様々な色に変化させた。

「戦いが起きておる。多くの有望者、多くの精霊がいるな。だがこのゾーンではない。ゾーンを超えてまでしてわかるとは、よほどのことが起きているに違いない」

俺は赤い彼女を見てから、煙が上がった方向へと顔を向けた。

(もっと多くの人が巻き込まれたらどうする?)

そんな考えがよぎった瞬間、冷静さを取り戻す前に俺は煙の上がっている方向へと走り出していた。

「悪い、アンサイ! 見なかったことにするなんて、俺にはできないんだ」

「心配はいらん、わかっておる。あの娘のような我々の助けが必要となる有望者には早々会うこともなかろうし。ただ、慎重に行こう」

彼女はと言うと、俺たちのすぐ後ろをずっと付いて来ていた。なるべく目を離さないようにはしていたけれど、特段気にかけていることもなかった。もしも彼女が俺たちに手を貸してくれるって言うならありがたい。そんな申し出なら断る理由もないからだ。


20分もすると、戦いの音は激しさを増していく一方になった。この森のゾーンは通常よりも岩場が多い。森のゾーンの地形に大きな岩石がゴロゴロと転がっている感じだ。

森を抜けると、先には崖が広がり、その下で戦いが繰り広げられていた。そこには大きな沼地が一つ、十人くらいの人間が黒いドラゴンに戦いを挑んでいる。ドラゴンはゾンビ化し、半分腐りかけていたが、背中からはやけに肉付きの良い触手が六本生えていた。

胃のあたりがムカムカとした。

「触手──アボミネーションかよ……」

「これは……どうやらゾーンボスのようじゃな」

「はぁ、はぁ……助けるの?」

赤い彼女は息を切らせながら膝に手を付き、俺たちに聞いてきた。

俺は戦場の様子を確認した。ドラゴンよりは弱そうなゾンビがひっきりなしに現れていて、有望者何人かはそっちにつきっきりになっている。ゾーンボスと戦っているのは実質四人のチームだ。リーダーと思われる女性は赤毛を荒っぽく一つに束ね、手には銀色の槍を持っている。他の三人は彼女の命令に従って動いていた。彼らは連携してドラゴンの攻撃をかわしては反撃を食らわせている。触手が彼らの方へ伸びると、ゾンビ担当のうち一人が危ないと叫び、彼らは手が空いている時には四人の攻撃に加わっていた。

俺たちがそこにたどり着いて八秒ほど経った時だ、思ってもよらないことが起きてしまったのは──

「うわあああ! 止めて! 助けて!」

子供が触手に捕まり、空高く吊り上げられてしまった。ゾンビと戦っている人間たちの中に子供が紛れていたらしい。子供が宙に浮かぶと、彼らは慌てふためいた。ドラゴンと戦っている有望者たちは囚われた子供を心配し、その子を傷つけないように攻撃方法を変えようとしたが、そのおかげで時間だけがただ過ぎていった。

「あの子供、ここで何してたんだ?!」

俺は白蛇宇賀を抜きながら叫んだ。

だがその瞬間、この前のあの二人との戦いが俺の脳裏をよぎった。俺は剣を振おうとした手を止めた。

(あの時、俺の攻撃力は十分に高まってなかった。あの男も俺の攻撃を交わしたし……ピストルじゃあのドラゴンには太刀打ちできない)

俺の頭の中にいろいろな考えが駆け巡る。そんな時、俺の肩に乗っている白いやつのことを思い出した。

「アンサイ!」

俺は声を上げた。

「俺たちができる最善のことは何だ? あの子供を助けたいんだ!」

「よかろう! この者が牙をコントロールするから、お前さんは白蛇宇賀を鞭のように使い触手を捕まえるのじゃ!」

「わかった!」

牙一つだけを剣に残し、残り14個の牙が宙に浮かび上がった。俺は白蛇宇賀を鞭のように操り、猛獣のように暴れる触手をどうにか捕まえはしたが、地面のぬかるみに足を取られてうまく動くことができない。

「足場が最悪だ! 力が入らない!」

「しっかりして!」

赤い彼女はそう言うと、俺の腹を両腕で抱え、体を彼女の方へとグイと寄せた。

アンサイは俺が捕らえた触手の真下へと牙を向け、ショットを放った。

「これでは無理じゃ!」

アンサイは叫んだ。

「我々の牙の攻撃では切り刻んだりはできん! ゴブラの残像能力が加わったとて、どうにもならん!」

「『切り刻む』?」

俺の後ろから赤い彼女の小さな声が聞こえた。その直後、彼女の身体に密着している俺の背中が熱くなった。

「現れよ、フレマイェルダ!」

肩越しに、赤い色をした騎士が俺たちの後ろに浮かび上がるのを見た。それと同時に、体も熱くなっていくのがわかった。

「飛べ、フレマイェルダ!」

赤い彼女は勇ましい声で命令を下した。

騎士の姿をした精霊が宙に浮かび上がる。この精霊には足がないらしく、上半身鎧に覆われたままでふわふわと宙を漂っていた。精霊の手には炎がそのまま形となったような剣が現れ、触手へと真っ直ぐに向かった。俺の首には彼女の激しい息がかかっていた。

フレマイェルダは剣を手に、触手をあっという間に切り刻んだ。

アンサイは大喜びだった。

「よくやった、ストレリチア!」

アンサイの声の調子は、俺に話す時とはまったくの別物になっていた。

「アンサイ女史、ありがとうございます!」

俺の思考がついていかない──

(あん? ストレリチア? 女史? ちょっと待て──女史、女?!)

突然触手に重さがズシンと加わり、俺は思考の渦から現実へと引き戻された。気を抜くと触手に引っ張られる──足に力を入れた。すぐに赤い彼女、いや、『ストレリチア』も同じように力を入れて俺の上半身を抱え、俺の腹をこれでもかと言うくらいにきつく抱え込んだ。あまりの力に俺は吐きそうになった。

「上に引っ張れ、前例なき者!」

ドラゴンに向かって宇賀の牙からショットを放ち続けているアンサイが言った。

俺は意識を集中させた。すると鞭のようになった剣が反応をし始めたので、俺は巨大な魚を一本釣りするかのように力強く引っ張った。触手と子供が崖の上まで大きく引っ張り上げられると、声が割れそうなくらいの大声で叫んだ。

「アンサイ、なんで俺のことは名前で呼ばないんだよー!」

触手が俺たちの頭上高くに飛んでいくと、囚われていた子供も宙に放り投げられた。俺とストレリチアも地面の上に倒れ込んだ。飛んでいく子供の目は、恐怖心からか涙でいっぱいになっている──子供を目で追いかけたが、俺はもう嫌な予感しかしなかった。命が助かっても地面に叩きつけられて体中骨折だ。

しかし、その瞬間にストレリチアがサッと手を伸ばした。腕に装着した赤いガントレットが俺の目に飛び込む。すると彼女の赤い騎士が空を飛び、落下する子供をキャッチした。

「子供は無事よ!」

ストレリチアの顔から満面の笑みがこぼれた。

俺もこうしてられない。起きあがろうと思わずストレリチアの太ももをつかんだ瞬間、

「何するのよ!」

と、先ほどとは打って変わって、不快さを顔いっぱいに露わにしたストレリチアがいた。

(そんなことしてる暇があるか、そんな時じゃないだろ)

俺は心の中で繰り返していた。

俺は起き上がり、崖へと足を走らせた。

「アンサイ──」

「ドラゴンに近づいてはならん。崖の上から距離を保ちながら戦うのじゃ。レベル5の我らが接近戦で勝てる相手ではない」

「了解、徹底的に撃ち込んでいくぞ!」

俺は牙をコントロールし、ドラゴンの頭の後ろへとショットを撃った。そこが弱点ではないかという気がしていたのだ。

するとドラゴンは攻撃するのを止め、俺の方を見た。

「前例なき者──」

「なんだよ、またそれかよ!」

ドラゴンは口から紫の煙を一直線に吐いた。煙はまるで光線のようになり、俺たちに向かってきた。俺はゴブラのシンク・スキルを使い、高速で動き煙をかわしたが、煙に当たった崖の一部は吹き飛んでしまった。当たっていたらどうなっていたか──。

「今だ、今がチャンスだ!」

崖の下から誰かの声が聞こえてくる。彼らはドラゴンの興味をそっちに向かうようにしていた。

「前例なき者、仕切り直して──」

「わかってる! やり直しだ!」

アンサイがドラゴンに再び攻撃をし始めるのと同時に、俺は声を荒げた。

ストレリチアは俺の横に立ち、手を前に出した。すると彼女の精霊が俺たちの頭上を越え、ドラゴンの元へと飛んで行く。ストレリチアの息使いは激しく、腕は震えていたが、地面に両膝を着き、その手をドラゴンの方へと伸ばすことだけは止めなかった。彼女の精霊はドラゴンの周りを飛び周り、剣を振っては触手を切り落としていた。

「よくやった、ストレリチア。触手を二本以上は切り落としたな」

アンサイは言った。

下でドラゴンと戦いを繰り広げている者たちからは歓声が上がる。リーダー格の女性が大声でさらに命令を下した。


「頭を狙い続けな! 触手は上にいる人たちに任せるんだよ! あたしたちは負けないからな!」

ドラゴンは俺とストレリチアの板挟みになっていた。絶え間ない攻撃のおかげで、ついに形勢が逆転し、俺は勝機が見えてきた気がしていた。

しかしそれは俺たちの思い過ごしだったのだろうか? ドラゴンは雄叫びを上げると、そこらじゅうに紫の波動エネルギーのような光線を撒き散らした。俺とストレリチアは光線を浴び、後ろに吹き飛ばされた。

「なんて力じゃ!」

アンサイは目を見張った。

「うっ……待って……」

ストレリチアは腕をつかみ、嫌な咳をし始めた。まるで死の病にでもかかったみたいに。

「大丈夫か、ストレリチア!」

彼女に聞こえるように、俺は大きな声で呼びかけた。

「ちょっと待て」

アンサイがそう言うと、彼女が感じている恐怖心が俺の中にもどっと流れ込んできた。

「あのドラゴンは奇妙な力を持っておる!」

崖の下からは、下にいた有望者たちの叫び声が聞こえてくる──

「おーい! 何があったんだ? 大丈夫なのか?」

「さっきの攻撃にやられたのか──おい! 気をつけろ! また仕掛けてくるぞ!」

男の声がすべてを語っていた。俺はストレリチアをつかみ上げると、ドラゴンの放つ光線をかわした。

「今は攻撃を止めることできん!」

アンサイは叫びながら、牙を配置しショットを撃ち始めた。

「次の攻撃をかわすことはできんかもしれんぞ!」

「じゃあ、ひたすら攻め続けるだけだ!」

ゴブラも印縛処から飛び出し、ドラゴンに向かって石を投げ始めた。

「私にも……戦わせて……」

精霊を再び戦いに向かわせようと、ストレリチアは声を絞り出した。

さっきの子供が俺たちのそばに走ってくると、辺りに奇妙な風が吹き抜けた。ドラゴンの上の空間が歪み始める……何が起きたのかと、俺は一点を見つめた。

子供の息もはぁはぁと、ストレリチアの息のように上がっていた。

「僕も手伝えるよ!」

子供は大きな声で言った。

ドラゴンの大きさにも負けないほどの、防具に包まれた巨大な腕がドラゴンの頭上に現れた。すると、その手にはハンマーが現れ、腕の部分から鎧に身を包んだ兵士が姿を表した。

「何だよ、これ」

愕然としてつぶやいた。

「巨人じゃん」

「まさに神々しい巨人ではないか」

アンサイの胸の中は、まるでその巨人をうやうやしく思うような畏敬の念でいっぱいになっているようだった。

巨人兵がハンマーをドラゴンに振り下ろすと、ドラゴンは地面にめり込むように押しつぶされ、その瞬間風が吹き上げ、まばゆい光が一斉に放出された。

牙は配置されたところから微動だにしなかったが、吹き上げた風は人間には暴風どころじゃない脅威となった。特にストレリチア、風圧で体が浮かび上がり、驚いて叫び声を上げたが、吹き飛ばされてしまう前に俺が彼女を捕まえ、近くへと引き寄せた。子供も飛ばされそうになったが、白蛇宇賀を鞭のように操り捕まえた。しかし、子供はその瞬間に気を失ったようになり、召喚された巨人の精霊もいなくなってしまった。

「すげえ……」

眼前に広がる景色を見ながら、俺は続けた。

「なんて力だ。でっかいクレーターができてるじゃないか」

「まさにな。その子は特別な精霊を持っているのじゃろう」

アンサイが続けた。

子供の方を振り返る瞬間、途中でストレリチアと目が合ってしまった。

「あ、ごめんごめん」

と言いながら、俺は彼女を捕まえていた手を離した。

「と、飛ばされないようにしてくれてアリガト」

そう言うと、彼女はくるりと背を向け、子供の元へと一目散に駆け寄った。

「アンサイ、この子は大丈夫?」

「体力を使い切ってしまったのじゃろう。大丈夫じゃ、休めば元通りになる」

俺たちの背後に、ビュンビュンと音を立てながら近づいてくる何かがいた。

「ハーイ、その子を返してくれる?」

振り返るとそこにはリーダーとおぼしき女性がいた。赤い髪を一つにまとめ、回転するホイールに乗っていた。

「回し車は...霊なのか?」

俺は自分に問いかけた。

彼女は特大の笑みを浮かべたが、その笑顔とは裏腹に、手に持った銀色の槍がギラリと光を反射した。

「だからどうしたって言うんだい? あんたたちは通りすがりのお優しい人らだと思っていたけど。人のものに手を出すハイエナみたいな輩なのか?」

不思議なことに、彼女の後ろ、下の方からヴィタイが現れた。手を上に差し出すと、俺とストレリチア、そして子供へとヴィタイが流れ込んだ。

「ここでやりあう気はこれっぽっちもないね」

女はまたやけに大袈裟な笑顔を作った。この先に何が待ち受けているかなんて、この時は知る由もなかった。


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