28--強度 (挿絵)
(は?)
俺は彼女をポカンと見つめた。彼女の目は泳いでいたが、俺に焦点を定めると、右手にある証明を見せてきた。
「お前に挑戦する!」
さっきよりも少しだけ大きな声で言った。
俺の思考回路は止まっていた。
「一体何……」
彼女は手を見つめ、何回か振った。まるで、動かなくなった機械をもう一度動かそうとしているみたいに。その間に俺は木を支えにして立ち上がった。
「アンサイ……あの娘、何やってるんだ?」
「思うに……挑戦のゾーンを開こうとしているんじゃろう」
彼女は手を振り回し、ののしるような言葉を発していた。その姿は何だか我を失っているようだった。
「でもゾーンは開かない……そりゃ……」
「お前さんは『前例なき者』だからな。我らの印の片方はこの者であるから、お前さんには精霊が従わねばならんルールは課せられている。だが、この主権争いの挑戦では、ゾーンを開くことはできん。普通の有望者同士ではないからな」
俺は眉をひそめた──悪い夢なら醒めて欲しい、そんな気持ちで自分をつねりたくなった。 「てことは……もし俺が普通に証明を持っているやつだったら──」
「挑戦のゾーンでの戦いの始まりじゃ。お前さんは逃れられん」
俺は少し笑い、フーッと息を吐いた。
「そっか」
俺にはまだ笑える余裕があった。
「挑戦のゾーンに入っちゃったら、デスマッチの開始だな。そうか、ウケるな」
「黙れ!」
彼女は威勢よく言い放ったが、その手は小刻みに震えていた。そして、涙が今にも溢れそうな瞳で俺を真っ直ぐに見つめていた。
「なぜ効かない?! お前に挑戦する! 私はお前に挑戦するー!」
彼女の瞳を見つめながら、俺は首を振り、困った笑顔を作った。
(火だ。彼女の中には煌々と燃える火が宿っている──しかし、コントロールなんかできちゃいない)
「前例なき者、これがこの世界での現実を知っている者の姿じゃ」
「いや、違う。これは現実への気づきなんかじゃない。自分を見失っている姿だよ」
この娘は──俺に向かって叫びながら、自暴自棄になっている。
「アンサイ……俺には精霊のルールが課せられてるって言ったよね? それはゾーンを開くためにか?」
「大方そんなところじゃ。試してみんことには──」
「受けて立とう」
赤い彼女は地団駄を踏むのを止め、真面目な顔をしている俺をポカンと見つめた。心臓がドクンと一拍打つと、彼女の手は光り、ゾーンが外に向かい開いていった。
「前例なき者、何をしとるんじゃ? やらんでいいのに、なぜまたゾーンに入る?」
ゾーンはまるで精霊を超えていくように、俺を超えて広がっていった。俺は自分の意志を持ってゾーンに入ってくのだ。ゾーンが完成すると、俺は彼女に近づいた。
「ここは俺に任せて、アンサイ」
俺は片方の拳を握りしめ、もう片方の手を腰に当てた。
赤い彼女は何度もうなずきながら精霊を呼び出していた──幻想的な女性の騎士の姿が赤く染まる。何度も姿が現れては消えていたが、赤い彼女の後ろにいるのは確かだった。
赤い彼女は剣を携えニヤリとした。まるでケンカに飢えたやつが格好の獲物を捕まえた時のようだった。
「お前を倒す──」
その瞬間、彼女のおしゃべりを止めるのかのごとく、俺の武器が彼女の口元にヒットした。彼女の頬にヘビの背骨のゴツゴツとした部分が当たり、頬が赤くなった。彼女は後ろによろめいたが、目は血に飢えた獣のようなままだった。まだ、勝利を諦めた様子は微塵もなかった。
「私は──」
俺は彼女をまた武器で打ち、足に全体重をかけ、胸の中心にひと蹴り入れた。彼女は地面に倒れ込んだ。
彼女の瞳はまだメラメラと燃え、俺だけを燃やし尽くしたいと渇望しているような眼差しだった。
「私は負けない──」
「うるさい!」
俺は声を荒げ、彼女に馬乗りになった。膝で彼女の腕を固定し、がっちりと動けないようにした。
「もう……やめろよ……」
「お、お前は何を──」
そう言う彼女を見つめ続けていると、彼女は話を止めた。
俺は彼女の試用剣を奪い、横に置いた。彼女の精霊の動きはゴブラがずっと見張っていた。でも、あんなに不安定な状態では何もできないだろうとも思っていた。
「た、戦いなさいよ……」
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