23--ヒーローになる
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「間違いない──感じるぜ! この先に何かがある! アンサイ、どうだ?!」
「気を抜くでない、前例なき者。これから目撃するものは、第一の階層のまごうことなき真の姿じゃ──」
木々の間を駆け抜けていくと、六角形のパネルから成る半透明の赤いドームが見えた。ドームは見慣れた記号で覆われており、その記号はドームの上を滑るように移動している。ドームの中には人間が三人、そのうちの二人は見たことがあるやつだった。
(犯罪者顔のあいつ! あの赤い女の子もいる──待て、もう一人の男は誰だ?)
目を凝らせばドームの中が見えそうだった。アンサイの優れた感覚のせいもあり、何が起こっているのか感じることができた。片方には、俺が旅の初めに出会った赤い髪の女の子がいて、怪我をして血を流していた。右腕は使い物にならないのか、左手で支えている。彼女の頭上には、鎧に身を包んだ幽霊のような女性が浮かび、消えたり現れたりしていた。彼女は今、二人の敵と向かい合っている。向かい合っているのは、犯罪野郎とあいつの精霊のスズメバチ。そして犯罪野郎の後ろ、ドームのバリアのギリギリのところでは腕を組んだ男が二人の勝負を見ていた。そいつの黒い鎧からは、油を塗られたような光が放たれていた。
「ギブアップか、死か?」
犯罪野郎はスライム状のアームキャノンみたいなものを赤い彼女に向け、耳障りする大きな声で言った。
彼女は怪我をしている腕を下ろし、力を込めて怒鳴り返した。彼女の精霊が反応し犯罪野郎に火の玉を放ったが、簡単にかわされてしまった。まるでそのお返しのように、赤い彼女に腕を向けアームキャノンを撃つと、彼女は気合いを入れるように叫び、攻撃を真正面から受け止めた。しかし、その気迫も敵わず、ものすごい衝撃と共に吹き飛ばされ壁に激突すると、彼女の体中に火花が散った。彼女の精霊はどこかへ消えてしまったようだった。
俺は身震いが止まらなくなっていた。
「アンサイ……」
「これは第一の階層を勝ち抜くと願うすべての有望者が経験する儀式、主権争いの挑戦じゃ」
「い、一体なんだってんだ、アンサイ? 何が起きてるんだ──何で戦うんだ?!」
赤い彼女はどうにかして立ち上がった。その目にはまだ、炎がメラメラと燃えている。
「お前さんはラッキーじゃな、とっとと逃げ切って。あの男はどうやら正しい儀式のやり方を知らんらしい。知ったとて、お前さんには関係ないがの……お前さんは本当にラッキーじゃ」
「アンサイ! お願いだ、早く説明してくれ!」
「有望者がお互い出くわし接近すると、挑戦を挑むことができる。その時パーソナルゾーンが作られ、この挑戦が始まるのじゃ」
「なんであの子は逃げないんだ? 相手は二人だぞ、勝てっこないだろ!」
「このパーソナルゾーンはな、挑戦を挑むゾーンじゃ。精霊に使うパーソナルゾーンと似てなくもないがの」
現実に起きていることが怒涛のように流れ込んで来る。まるで津波だ。俺はここでリアルに起きていることに呑まれそうになった。
「う、嘘だろ──勝ち目なんてないじゃん──」
「我々が前に使ったパーソナルゾーンのように、一旦入ってしまえば、『ギブアップか死』まで逃れることはできんのじゃ」
「有望者が精霊のように扱われるってのか──」
「印縛処の契約を取り交わすまでは、有望者と精霊は対等だぞ──手を組むということは、お互いの願いである成長を促してくれるからな。火を見るより明らかじゃ」
体に寒気が走った。
「ゾーンは力の譲渡を楽にするために存在しておる。ゾーンを開く時には、そこに入るものが人間か精霊か、ということは考慮されるかもしれん。しかし一度ゾーンに入ってしまえば、そんな違いは問題ではない。喰うか喰われるか、じゃ。何がそこで起きようと『ギブアップか死』を選択しなければならない者は、自分の持っているものすべてを明け渡さねばならん」
「そしたらあの娘は──」
アンサイの答えには血も涙もなかった。
「大方、死ぬじゃろう。ヴィタイと精霊は相手側に奪われてな」
「そ、そんな……」
ベトベトのスライムのような弾丸を浴びせられている彼女を見ながら、思わず声が出た。
浴びせられる弾丸四回に一回くらい、彼女は叫び声を上げたが、まだ闘志は消えていなかった。あの卑劣な男は、それを楽しんでいやがる。彼女がダメージを食らうごとに笑っていた──性根が腐っていやがる。
「前例なき者よ、怒りは鎮めろ。思考はクリアに保たねばならん。ゾーンができてしまったということは、事は始まったということじゃ。我々に必要なことは、そこで勝利を得たものを倒してヴィタイを奪ったほうがいいのか、感情抜きで見極め──待って、何してるの?!」
俺はドームに向かって全速力で走っていた──彼女をあんな形で終わらせるわけにはいかない!
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