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21--不安

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マーセイドと約束を交わし、石を探しに出発してから五時間ほど経った頃、俺たちは休憩を取ることにした。寒さで風邪を引いてしまわないようにと小さな焚き火を起こし、びしょ濡れになった俺の持ち物も乾かすことにした。

「おぉ、俺の携帯まだ使えそうだ」

俺はもうひとつの携帯電話の電源も入れて確認した。

「よし、こっちもいけるな……水没したとばっかり思ってたけど……」

「フリンジワイルドの水は人間界の水とは違うんじゃ」

「さすが物知り」

俺は笑いながら答えた。

「日が昇るまでは、このままにしておこう」

俺は腰に差しているものをポンと叩いた。

「電気系統が大丈夫なら、これも問題ないだろうし……」

「それで、前例なき者はどう思ったのじゃ、あの方のことを」

俺は彼女のことを思い出し、作り笑いを浮かべた。

「最高だよ。もうウッヒャーって気分だった。マーセイドがプレゼントと引き換えに俺たちの仲間になってくれるなんて。こんなに簡単でいいのかな? 仲間になるなんて、プレゼントと引き換えにしてもいいようなものじゃないと思うけど」

「この旅だってそれに匹敵するくらいに素晴らしいものじゃぞ。精霊にとってより好ましい環境を作っていくには努力と思考の積み重ねが必要じゃ。環境が良くなればなるほど、精霊も満足度が増し、共鳴率も高くなる。我々が引き受けた依頼を過小評価してはならん──今こうしている間にも、印縛処の中では大きな変化が起こっている。この旅の終わりには、我々もマーセイドに劣らぬ存在となるはずじゃろう」

「アンサイ、すっごい楽しみになってきたぜ! 居ても立っても居られないな!」

そう言った俺の顔からはニヤつきが漏れていた。

「けどさ──マーセイドに会って、精霊と領域のことがなんだかちょっとわからなくなったよ」

「どんなふうにじゃ? この者が教えてやろう」

「まず、俺たちは死の領域にいるんだよね? ゾンビとかガイコツ、ミイラとか──こういうのがいるのはよくわかるよ。でもマーセイドたちって、そんなんじゃなくって、妖精みたいな感じじゃない?」

俺は頭をかしげ続けた。

「とは言え、サメみたいでもあるけど。それでも、死の領域にいるのは合ってない気がするんだ」

アンサイはこれまでに見せたことがない反応をした。目を閉じ、少し考えているようだった。目を開けたのはしばらく経ってからだった。

「死の領域だからと言って、フリンジワイルドの中にある「死」を象徴しているわけではない。精霊たちは死の領域の影響なんか知る必要なんかないのじゃ」

「ちょっと待った。それってどういう意味?」

「つまり、死の領域というのは、人間界の死の領域ということじゃ。明確に言うと、フリンジワイルドの一部として影響を及ぼす死の領域は、死の領域卿の力の影響下にあるものなのじゃ」

「それって、領域卿の力は人間界にまで及んでいるってこと? フリンジワイルドと死の領域、どっちが先なんだ?」

アンサイは再び目を閉じた。

「領域卿は精霊と手を組んで卿となった。つまり、フリンジワイルドが先じゃ。そこでやつらが精霊を見つけたからな……」

「それで、死の領域は一体何をするところなんだ?」

「死の領域はな……フリンジワイルドの中のゾーンの形成や配置に影響を与えておる。つまり、ゾーンに棲んでいる精霊にも影響を与えるということじゃ……死の領域の影響下にいる精霊たちは、ある程度そういうことに耐性があると考えていいじゃろう」

「アンサイ、大丈夫か?」

アンサイはまだ目を閉じていた。苛立っているのがあからさまにわかる。答えを見つけるのに必死になっているんだろう。

「大丈夫じゃ……記憶をどうにか引っ張ってこなくては答えが言えんでな……すまぬ」

「謝らなくていいよ、無理しないで……あのさ、精霊は自分たちの棲む場所に死の領域が影響を及ぼすって知っているのか?」

「この者がフリンジワイルドにいる間に、精霊が気づいていたという兆しは見られなかったな」

「それじゃ、二番目の質問だ。アンサイ、君はなぜ人間のことや、人間界の発展はフリンジワイルドのおかげだと知っていたんだ? 一般常識なのかと思ってたけど、そうじゃない気がしてきているんだ。精霊は領域のことを知らないと君は言ったけど、君は知っている。マーセイドは風がいろいろなことを教えてくれたと言っていたけど、君は違う。君は何だって知っているだろ。マーセイドよりも知識があるのは明らかだ。どうしてなんだ?」

「答えは簡単じゃ。この者は知識欲があるからの──知識の塊の精霊じゃ。この者は知識を求めては吸収していった。まだ知らないことがたんとあるがの。例えばな、この者は人間に関することはたくさん知っておるかもしれん。しかし人間界のこととなるとそうではない。お前さんと手を組んだのも、知識のためだと知っておろう。この者はフリンジワイルドではないところへ行き、学びたいのじゃ。この者は有望者だけが知り得ることだけではなく、お前さんのことも学んでおるぞ、何たって『前例なき者』だからな」

「君はいろいろ知りたがってたな。すでに持っている人間に関する知識はどこで手に入れたんだ?」

「な、何じゃて?」

「君は知識を外部から身につけるんだろう。元々はなかったってことだ──どこで見つけたんだ?」

アンサイから堰を切ったように、不安や恐怖といった感情が溢れ出し、俺に向けられた。


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