20--それでは、またお会いできる日を願って
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彼女の両脇には双子かと思うような姿をした精霊が現れた。二体は身振り手振りで、どれくらい俺にやられたのかを伝えていた。
「彼らは遊んでいただけでしたのよ」
精霊も言い返した。頬に指を置き、続けてこう言った。
「痛めつけるなんてこと、必要はございませんでしたのに──」
「自分の身を守るための正当防衛をしたまでに過ぎん、とこの者は思うがの」
「だからどうしたって言うのです? 私たちが悪かったとでも?」
大きな精霊はアンサイの目線に合わせるように、アンサイが彼女の瞳に映り込むまで、身をかがめた。
「その通りじゃ。だが、この者はあなたを責めたりもせん。人間を一度も見たことがなかったのじゃろう──もちろん、人間の限界なんてものも知らんだろうな」
精霊は突然俺に目線を向け、細い薬指で指さした。
「これ……が人間? 小さな風みたいな音を出しているものが?」
彼女は俺の脇腹を指でツンとし、背中までぐるっと回転させた。その勢いで、俺の口から残っていた水が出た。
「あら。私、彼のこと壊してしまったのかしら?」
「そのようじゃな……」
アンサイは答えた。
「謝罪とあなたの誠意の証として、どうかこいつを元通りにしてくれんかの?」
精霊はうふふと笑い、こう言った。
「そうですわね……かき立てられる好奇心には勝てませんわ、ねぇ、そう思いませんこと?」
「そうじゃな」
精霊は、薄い水のベールに覆われている手を俺の上にかざした。彼女の手から雫がしたたり、俺の上に落ちた。
「うわぁ」
俺は思わず声を出してしまった。体が軽くなり、痛みもどこかに消えてしまったのだ。さらに、体に溜まっていた疲れも取れたようだった。
「へぇ。ヒーリングの力があるのか……」
「これで彼は口を聞けるようになりましたわ、私たちのようにね……」
俺をまたくるりと回転させながら、精霊は言った。
「大丈夫、一人で立てるから」
俺は精霊の指を払いのけて起き上がった。彼女の両脇に立っている二体の精霊に視線をやると、そのうちの一体は俺を馬鹿にするような視線を送ってきた。
「まぁ、なんてかわいいのでしょう……」
精霊は手で口を抑え、笑いが漏れないようにしていた。俺は頬が真っ赤になったのを悟られないようにしていた。
「では、話し合いできるかな?」
アンサイは彼女に尋ねた。
彼女はアンサイを見つめながら含み笑いをした。
「ええ、私の仲間も無事ですし、あなたの仲間も無事ですから。いがみあう必要なんてないでしょう……」
「そうじゃな。過ぎ去ったことに囚われたりはせん」
「あのー」
俺は思わず話に分け入った。
「俺のこと忘れてない?」
精霊の笑みが俺を不安にさせていた。彼女は指で俺の頭をなで、こう言った。
「まだ何か不安でも?」
「え、ええっ、そんなことないけど」
彼女に視線を合わせるように俺は答えた。
「そうでしたら良いですわ」
俺の背中を優しくなでながら、彼女は言った。
「アンサイィィ」
俺はこの状況をどうしていいかわからず、アンサイに助けを求めた。
「よし、それでは尋ねさせてもらおう。偉大なる精霊よ──」
「マーセイドと申します。我が名はマーセイド」
「この者をお許しください、マーセイド様。この者とこの人間はあなた様の協力を乞うべくして、ここを訪れたのであります」
アンサイの言葉の変わりように、俺は度肝を抜かれた。
「我々はあなた様を印縛処に迎えることにより、その小さな池から解放させたいと願っているのです」
彼女はにこりと口角を上げ、俺を見つめた後、アンサイの方へ視線を移した。
「あなたの仲間になれ、とおっしゃっているのですね……それはそれは大変なお話ですこと……人間よ、あなたの名前はなんと? 名前はあるのですか?」
「俺の名前はブレア・ブラッケンスキフです」
「なんて可愛らしい名前……」
「真面目に考えてくれています?」
俺は尋ねた。
「ええ、もちろんです……風の噂を聞いたことがありました。興味深いですわ……だって、あなたに触れるたびに、なんだか体に電流が走ったようになるのですから」
彼女は頬を赤らめたのを俺は見逃さなかった。
「でもね、これは簡単なことではありません……今まで噂でしか聞いたことがなかった存在に、私自身を捧げるということですから」
俺はアンサイを見、うなずいた。
「それじゃあマーセイド、俺がどれだけ真剣なのか、どうしたらわかってくれる?」
彼女の瞳がキラリと輝き、俺に近づき、俺の正面に顔を向けた──その頭は俺の身長の半分くらいあっただろう。彼女は俺の胸を指でつついた。
「本気でおっしゃっているの? それでは、私にある物を捧げていただけます?」
「それで俺の誠意を示せるっていうなら」
「では、ぜひそうしていただきましょう」
彼女は後ろに下がり、自分の身体を抱きしめた。
「私の身体は、太古の太陽光を示す金と永遠なる月の光を表す銀によって飾られていますが、これだけでは足りません」
彼女はそう言うと、池の中でくるりと身をひるがえし、ぎゅうっとまた彼女自身を抱きしめた。
「手を合わせると、私の手では手に入れられない財宝があると風が教えてくれるのです、まるで夢で見たように──。場所はどこか存じませんが……。そこで、あなたが現れた……愛しい人間のブレア、私のためにそれを手に入れてくださいませんか?」
彼女は手ですくった水を、俺の前に注いだ。
「夢で見る石は、まるで珊瑚礁のようにまばゆく美しいきらめきを放っています。その石を見れば、私の生まれ故郷を思い出すことができるのです。その石を手に入れてくださったら、私は喜んであなたの仲間となり、力を貸してさしあげますわ」
彼女はピンク色の指を立て、俺の前に差し出した。ゆびきりげんまん──どうしたらいいか少し戸惑ったが、腕を伸ばして彼女の柔らかい指をそっと抱き寄せた。
「乗ったよ。俺がその石を見つけてみせる。君が珊瑚礁とか、いろんなことを思い出せるようにね」
「お任せしてもよろしいのかしら。それでは、またお会いできる日を願って」
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