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18--助けろ、アンサイ

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「やれやれ、やっとで着いたぞ。ここには我々の力を伸ばしてくれる上位の精霊がいるはずじゃ」

「そっか、無事たどり着いたんだな……あのさ、君も何か奇妙なものを感じてる?」

「感じておるとも」

アンサイはクスクスと笑いながら言った。

「支配している精霊の属性によって、ゾーンは変わるからな」

「それで、俺たちは何を探したらいいんだ?」

「池じゃ。我々が探している精霊はそこにおるじゃろう」

俺たちは歩き続けた。ここには俺たちが特に気をつけるべき精霊はいない、とアンサイは言っていた。そうこうしているうちに、花に覆われた木々に囲まれている空き地のようなところにたどり着いた。そこには池が点々とあった。合計で八個だ。

「前例なき者、お前さんの池に映る姿を見てくるのじゃ」

「えぇ……やだなぁ」

絶対にいやだ、そんなことできるものか──誰かが映るに決まっているだろう──恐ろしいイメージが俺の脳裏をよぎった。そんなおぞましいことが起こるって知っているのに、できっこないだろ。

「なぜじゃ? なぜお前さんは恐怖を感じておるのじゃ?」

「だって、水から何か飛び出てきて襲われるんだろ? ここ、全体的になんか気味悪いしさ。君だってしたくないだろ、アンサイ?」

アンサイは真面目な顔をして俺を見つめた。

「なぜお前さんは恐れてるんじゃ? ゾーンボスに命を狙われた時だって、びくともしてなかったというのに」

「だってあのボスは外にいただろ。水もまったくないところだったし──」

「水が怖いのか?」

「底が見えないんだぜ、そんな深さの水は怖いよ──泳ぎだって得意じゃないしさ、わかるだろ!」

「しかしお前さんは死んではおらん、生き残ってきたではないか──」

「わかってる! ただ怖いだけ、それだけなんだよ!」

「この者にはようわからん。お前さんはこれまでとは違う人生を歩みたかったのではないか?」

「うっ──俺が言いたいのは……」

「お前さんはすべての池の底を見ることができる。この者が言っているんだから間違いない」

俺はため息をついた。

「わかったよ、ビビりながら生きるなんて嫌だもんな……こんなことだってね」

頭の中では、なんでこれをやらなきゃいけなのか御託を並べていた。しかし、ここで自分の弱さに負けてしまっては、ここまでやってきたことが台無しになる。

「よし、死ぬのだって一度は覚悟したじゃないか……びくびくするなんてらしくないぞ」

自分自身に言い聞かせた。

俺は池のひとつに近づいた。何度も息を吸っては吐き、気がおかしくなりそうになったら、歯を食いしばった。

「ん?」

俺は映り込んだ自分の姿を見た。澄んだ水が入ったバケツをのぞきこんだ時みたいに、底が綺麗に見えそうじゃないか。思っていた以上に長く見ていたが──何も起きなかった。

「これだけ?」

他の池をチラリと見た後、俺はまた同じ池を見た。やはり何も起きない。気づくとアンサイは俺の上から降り、ゴブラはアンサイの頭の上に乗っていた。

「おい、どこに行くつもりなんだ?」

俺の後ろでとぐろを巻いているアンサイを見ながら問いかけた。

「この者は冷たい水が好きではないのだ」

「はぁ? それが俺にやれって言ったやつの言い草かよ?」

俺は池をまた見た。するとほんの一瞬のうちに、水面に映る姿が俺じゃないものに変わり、何か生き物が水の中から現れ、ヌルヌルとした銀色の手で俺の首をつかみ、グイッと引きずりこんだ──

「助けろ、アンサイイイイイイ!」

口の中に水が一気に流れ込む前に俺は叫んだ。

浅い池だから、落ちてもすぐに底にぶつかると思っていた。しかし、そこには底なんかなかった。おいおい、予想を見事に裏切ってくれたじゃないか──ただただ、下へ下へと、俺は光の届かない水だけの世界に沈んでいっている。真っ逆さまに落ちていくだけだ。

(どうにかしろよ、アンサイイイイイ!)

水は冷たく、目にトゲが刺さるような痛みを感じ始めた。俺はどうにか上に向かおうとしたが、両脇から泡でできた魚雷みたいなのがふたつ、俺に近づいているのが見えた。

「ぶわぁ! ぐわ、ぶあぁ!」

ひとつは俺の背中をかすめ、もうひとつはブーンと音を立てて俺の脇に激突した。俺は上に向かうことだけを考えもがき続けたが、上に行かせまいとするものすごい力が俺の足首を引っ張っていた。乗りたくない満員電車に押し込まれているみたいで、頭も耳もガンガンする──

(アンサイ! お前は俺をここに残していったりしないよな? ずっと待ってるよな?!)

俺はベルトにかけていた剣に手をかけ、引き抜いた。俺は目をカッと開き、俺の周りをくるくると回っているふたつの魚雷を目で追った。その動きはまるで、俺を餌にしようと奪い合いをしている鳥みたいだ。すると、ひとつが急に回るのを止め、その直後に俺にまっすぐ向かってきた。俺は剣を振り、牙を配置させた。すべての牙は魚雷の方向を向いている。殺す気かと思うくらいに近づいてきた魚雷に向かって、俺はショットをふたつ撃つと、一発目は避けられたが、二発目はヒットした。すると魚雷は俺が予想した方向に向きを変えた。その衝撃で泡が立ち、泡で見えにくくなった水の中から人間のような姿をしたものが現れた。攻撃は成功だ。

俺はそいつを捕まえたと思ったが、泡の中から残った魚雷が現れ、ひるむことなく俺の上半身に体当たりをしてきて俺を吹っ飛ばした。その時、俺の腰が、手首にヒレがついた銀色の手につかまれた。あたりに広がっていた泡が一瞬で消え去ると、そこには女がいた。紫の髪、サメのような歯、ギラギラと光る短剣を俺にかざして──

(こいつが上位の精霊なのか?!)


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