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12--幾何学は好きだと思う

俺はニカっと笑った。

「それじゃ行くか。ところで俺が今考えていること読めたかな? これからどうするんだ?」

そう言った途端、アンサイが肩を落とすのを感じた。まるで『ふざけとるのか? もちろんわかっとる』とでも言いたそうに。

「お前さんの短絡的で残虐なところが出てきよった。この者はもういろいろと学習済みじゃ」

「剣は今のところ何ひとつ変わっていない。ってことは、もっと精霊を倒す必要があるのか? 試用剣なんかじゃゾーンボスを倒せないってこともわかってるんだ」

「お前さんが熱くなっていることはわかる、だが、燃えてるばかりでは剣もどうにもならん。お前さんの集めたヴィタイはきちんと昇華されておらんのじゃよ。お前さんと新しいヴィタイがちゃんと融合するには、しばらく時間を置いて休憩をとらなければならん。いったんヴィタイが落ち着き昇華されれば、その剣に正しくヴィタイの要素が反映されるじゃろう」

「それってさぁ」

俺はアンサイを膝に乗せた。

「先がなんとなく読めてきたぞ。俺に瞑想させる気だな」

俺は眉をひそめた。

「お話によく出てくるやつじゃん。しょうがない、いっちょやってレベルアップだ」

木にもたれかかり、目を閉じ、心を空っぽにする――疲れが溜まっている時には最適の作業だ。

「前例なき者よ、嫌じゃないのか? 反抗せんのか? 暴れたくてたまらんというその心はかき乱されんのか?」

「こうやって強くなっていくんだろう? 反抗しないで素直に従うよ」

「なんと……見あげたことじゃ……お前さんがこんなにも簡単に心を穏やかにできるとは」

「頭空っぽでよく遠くばっかり見つめていたからね」

「なるほど……では、心をまっさらにしながら耳を傾けてくれたまえ。この者が導いて進ぜよう」

アンサイは俺の腕に絡みつき、肩の上まで登ってきた。

「前に言ったように、その剣は我々両者を反映する。この者は昇華と武器が変容する手助けをしよう」

「了解」

「前例なき者はかなり細かいところがあるようじゃ。何度か見てきたが、お前さんは時間をかけて細かい部分まできっちり確認する。その根底にあるものは何じゃ?」

「幾何学は好きだと思う」

「『と思う』じゃと? 頼む、ちゃんと答えるのじゃ」

「俺は会計士だったから数字には強いんだ」

「よろしい、この者は数学や計算に長けている部分を感じたのじゃな」

「まあね、でもひどい仕事さ、人生を楽しくなんてしてくれやしない。まったく好きになれなかったよ。でも安定しているし、おかげで自信もついた。欲しいもの全部を手に入れたら、建築とか、もうちょっと楽しいことをしようって計画してたんだけどね。実現はしなかったけど、まだやってみたいなって思うよ……あ、俺ビリヤードもうまいんだよ。両親が地下室にビリヤード台を置いていてね、たくさん遊んだなぁ……数え切れないくらいに。ともかく、俺は狙いをつけて、計算されたような軌道を描けるものが好きなんだ」

「なるほど、わかったぞ。前例なき者の思考はビリヤードの考えと共鳴していたんじゃ。見えてきたぞ……軌道を描きコントロールするような武器じゃ……無になるのじゃ――ヴィタイが昇華されて行くぞ」

アンサイの言葉に従っていくうちに、自分自身が再び生き返るような感覚になった。俺の身体を超えて何かが高まるような――どのくらいこうしていたんだろう? いつからか時間を計るのを忘れていた。

「目を開けるが良い、前例なき者よ。昇華は完了じゃ」

目を開けると、アンサイが肩の上に乗っていた。そしてなんと、手には剣が握られていた。いつからここにあったのかわからなかったが、ワクワクが止まらなかった。これまでとは変わった感覚があったのだ。

「うおっ。やばいな、アンサイ」

手には、以前と変わらない柄が見え――変わったとは少しも感じなかったが――その先からは進化を遂げていた。もはや棒切れに単なる筒みたいなのがくっついたようなものではなく、その形はまるで背骨のようになっていた。全体で15の部分に分かれ、ひとつひとつは小さかったが、横側には鋭く尖った刃がついていた。何だかヘビの骨を持っているような気分になった。

「ちょっと気味悪いね」

剣を振り回しながら俺は言った。

「この者が言ったであろう、この武器は我々両者にふさわしいものになると……この者はその形、とても良いと思っておるぞ」

アンサイが自信たっぷりなのを感じ、俺は思わずフッと笑った。

「早く使ってみたいな――」

「急ぐでない、前例なき者よ。この者が望む形で進むのじゃ。ゾーンボスばかり追ってはいかん」

「わかった、わかった。君に従うよ。どうしたいんだい?」

アンサイはくるりと俺の方を向いた。

「この者のことをどう考えているのか言ってみよ。前例なき者はこの者の能力が何なのかわかってきたのか?」

「えーっと……ちょっと待って……」

あごに手を置きながら俺は言った。

「俺が思うに、君の感覚的な能力はとても優れている。それと、君のヴィタイはずいぶん高そうだ……っていうのが、俺が感じていること……これで良いかな?」

「その通り。良い兆候じゃ。我らの共鳴率を高めていけば、もっといろいろとわかってくるじゃろう。さあ、立つのじゃ、前例なき者。我らの武器に秘められた力を明らかにするぞ」

「あぁ、そうだね。俺は準備万端だ。君の行きたい方向もわかってきたよ。じゃ、ザコでもちょっと痛めつけてやろうか? なんだか力もみなぎってる気分だし」

「そうであろう。我々は40体弱もの精霊と戦ったからな。お前さんのレベルは4になった。レベルが上がる度に、回復するようになるのじゃよ」

「なるほど……レベルアップの時に全回復するってことか――何だか懐かしいな」

「何やら幸せそうじゃの」

俺は腕を広げて、この灰色の世界の空気でさえも大きく吸い込んだ。

「何だか……無限みたいなものを感じるんだよ。最高の気分だ。もっと感じていたい」

「この者も同じことを願っておるぞ」

俺はアンサイを抱き上げ、肩にしっかりと絡みつけるようにしてやった。

「それじゃいっちょやってやりますか。戻ってきたら、ゾーンボスをぶちのめすぞ」


お読みくださりありがとうございます。


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