10--こいつは本当にボスなのか?
雄叫びと共に、巨大なミイラの上半身だけが黒い砂の中から現れた。巻かれている包帯は解けかかっている。ミイラを見上げると、長い棒切れのような腕は黒い包帯に巻かれ、危ない病気にでも冒されたような姿をしていた。包帯が剥がれた部分の皮膚はすっかり枯れ木のようになり茶色く変色し、おまけにひびだらけだった。
「なんてことじゃ、この者が気づいておらんかったとは――」
「アンサイのせいじゃない、俺のせいだ。こいつは何なんだ?」
「ゾ、ゾーンボスじゃ。我々はすっかりここの精霊たちの住処を荒らしてしまったようじゃな」
巨大なミイラは弓を持つかのようにして腕を俺たちの方へ向けてきた。俺がさっと右側にジャンプすると、後ろの方からはやつの爪が何かを粉砕した音がした。息を一息つき、ミイラの周りを走り回り始めると、俺の呼吸は荒くなっていった。
「こいつは本当にボスなのか?」
「寝ぼけとるのか? この場所のボスだから、我々はゾーンボスと呼んでおる。呼び方が何かおかしいかのう?」
「いや、ちょっと笑えて」
ミイラはむせび泣きながら体を左右に揺らし始めた。左右の腕がこっちに向かっては止まる、交互の動きに注意しながらやつの腕を見ていた。
アンサイは神経質になっていた。
「前例なき者! 何しとるんじゃ! 動け! 動くんじゃ!」
「心配いらないよ」
――腕が俺に迫ってきていた。腕は鞭のようになり、ものすごいスピードで砂の上に弧を描いた。俺はやつの二の腕をつかみ、その上に乗った――
「死ぬ寸前で助かった、ってのは経験済みなんだ」
ひょいと腕の上に乗ると、ミイラは俺の方を振り向いた。俺はその頭をターゲットに定めた。
「ダメじゃ、やめろ! じっと見てはいかん、前例なき者よ! 逃げるのじゃ! 我々には太刀打ちできん」
「アボミネーションくらいに大きいやつだな……」
「な、何じゃて?!」
「なあアンサイ、心臓発作起こさないでくれよ。俺がもうちょっと生き延びるには君が必要なんだ」
「いかん。止めろ! お前さんが何かしようとしてるのはわかっておる――だが気持ちを変えてくれないか、逃げるのじゃ、頼む――」
「俺は逃げない。もうおびえながら生きるなんてまっぴらだ」
俺に向かって爪が飛んできたが、当たる寸前で避け、その後すぐに二の腕をつかんだ。
「誰もお前さんが何かにおびえているなんて言っとらん――わかっとるじゃろ――」
「アンサイ、俺は限界だと君は言っているけど、俺は真面目だ」
ミイラの肩下にジャンプし、頭を目指して走り始めた。
「今ならなんでもできる気がして――」
「ヴィタイを吸収した高揚感にやられているだけじゃ!」
「俺にはわかるんだ! ラリってなんかない! 今俺に何ができるか知りたいんだよ!」
肩からターザンのようにして包帯を飛び渡ると、やつの顔にたどり着いた。ここで戦いたくはなかったが、今、無駄死にするわけにはいかない。目玉のない単なる穴ぼこへと化したところに、剣を一気に突き刺した。
「ギャアアアアアアアーーーーー!!!」
ミイラは叫びながら倒れ込んだ。
アンサイは俺たちがこのまま命を落とすと思ったのだろうか? アンサイが顔を曇らせたのをわずかに感じた。
すまない、アンサイ。
だが俺はここで犬死にするほどバカじゃない。ミイラの腕がこっちに向かってくるのが見えたので、足をやつの顔に押し付け体をねじらせ、ギリギリで攻撃をかわすと、解けかかった包帯の一つをつかんで地面に降り立った。
「よし、逃げるぞ」
アボミネーションの――いや、精霊の目を痛めつけてやったことで俺は満足していた。
「ほ、本当かの? よ、よろしい! 一時退散じゃ、また戻ってこようではないか!」
顔から笑みがこぼれるのを隠さずにはいられなかった。痛みにもだえる精霊を背に、俺たちは他のゾーンの森へと身を隠した。
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