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リ・ボール  作者: よもや
3章 中学校編
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89 いいライバル

突如入部を希望してグラウンドに現れた衛里。


「どうしたんだ仁界?」


他のメンバーが何かを察し、練習を止めて近づいてきた。


「いや、入部希望者だ。」


俺がそう言って説明すると、衛里はぺこりと頭を下げて、先ほどから浮かべているニコニコとした笑みで皆を眺めた。


「はじめまして。衛里 命都です。ポジションはセンターバック一択!是非、皆さんの一世一代の大勝負に加えてください!」


元気よく自己紹介をした衛里。初めにそれに答えのは先輩の飯田だった。


「衛里、申し出はありがたいが…勝敗のペナルティは理解してるのか?」


貫井が続ける。


「負けたらサッカーできなくなるんだよ?わざわざこんなタイミングで入部しなくても…」


そんな2人の言葉に、衛里は俺と同じことを口にする。


「負けないでしょ。ね、仁界?」


突然俺にフリがきた。だが確かに、負けるつもりがないのはその通りだ。俺は大きく頷いた。


「どうせ、今サッカー辞めちゃったら今後一切やらないと思う。だから…次の試合に全てを出し切りたい。たとえ終わるとしても…後悔なくサッカーを辞めたいんだ。」


その言葉にメンバー全員が感銘を受けた。


「いいじゃないか。少なくとも、逃げ出した3人よりは断然マシだ。」


「あぁ!相手は11人だし、味方は多いに越したことはないよな!」


秀川とゴウジンの2人が衛里の入部に賛成した。もちろん俺も賛成だし、他の2人も拒絶することはないだろう。


「それじゃあ、よろしくな衛里。」


メンバーを代表して俺が衛里に手を差し出した。衛里は満面の笑みでその手を両手で取った。


「うん、よろしくっ!絶対勝とうな…っ!」


その笑顔から、本気でサッカーが好きなんだということが窺えた。


ーー


次の日の練習、飯田さんが女子サッカー部を連れてきてくれた。


「いつもすまんな中村、今日も頼む。」


飯田が、女子サッカー部の部長である中村に頭を下げた。


「いいんだって!私達の練習にもなるし!それに…あんなことになっちゃったんだもんね…。」


あんなこと…とは、おそらく俺とゴウジンが起こした毒島に対する反乱のことだろう。


「その件に関しては…すみません。」


おそらく女子サッカー部にも多少は影響が出てしまっているだろう。俺は申し訳なくなり誤った。


「いやいや!すごい度胸!私達も毒島さん達には少し困ってたし、むしろスッキリしたって感じ!流石、夏波の彼氏だね〜。」


中村はそう言って、後ろで俺のことをじっと見ていた夏波に視線を向けた。瞬間、夏波は「はっ!?」として顔を赤くし、顔の前で両手を振った。


「か、か、か、か…!彼氏じゃないです…!」


「照れるなよ夏波〜!」


中村の執拗ないじりにどんどん顔を赤らめていく夏波。そしてなぜか俺に少し強気な視線を向けると、俺の背中をバシンと叩いた。


「巡もなんか否定してよ!」


「えぇ…なんで俺…。」


そんなやりとりに、その場にいた女子サッカー部の面々がみんな笑った。どうやら夏波は楽しくやっているみたいだ。安心安心。


「かっこいい!」


「イケメンだよね!」


「誰だろう、前はいなかったのに…。」


俺と夏波をいじるグループとは別に、新しく機能加入した衛里にたくさんの女子部員が集まっていた。


「みんなよろしくね!」


女子に囲まれてもお構いなしに昨日と特に変わらない笑顔でニコニコと挨拶をしてまわる衛里であった。そして…


「ゴウジン…どうした?」


女子に囲まれる衛里をみて、どこか涼しげな表情を浮かべるゴウジン。


「いや、仁界。俺は大丈夫だ。」


「お、おう…。」


どこか悟りを開いたかのような返答に、俺は若干返答に困り、適当な相槌を打つだけにとどまってしまった。


「それじゃあ、早速始めるか。仁界、ゲーム以外は俺達の個人練習を手伝ってもらう感じでいいんだろう?」


飯田が俺に尋ねた。


「はい。俺が示した個人練習は、あくまで個人で上達するためのものなので、他に人がいるのであれば間違いなくそちらの方がいいです。」


飯田は相手選手からボールを奪うことを主に。そして、秀川はタックルをいなす練習。さらに、貫井はサイドでパスを受けてから、個人練習で行っていた爆発的なドリブルへと繋げる動作を確認した。


「なぁ仁界…。」


そんなみんなをどこか羨ましそうに眺めるゴウジン。俺の肩をポンと叩いた。


「どうしたゴウジン?」


「みんないいよなぁ…女子部員と楽しそうに練習しててよ…。」


なんかちょっと泣いてないかこいつ。俺は大丈夫だ…とか言ってたのに…?


「で、なんで俺だけ結局1人なんだよぉ…!!」


そう。ゴウジンの壁打ちに関しては、1人で完成されている特訓だ。だから女子部員の力を借りる必要もない。


「まぁ落ち着けゴウジン。お前は今、なんのために練習をしている?」


「そりゃあ…毒島に勝つためだ。」


真剣に答えるゴウジン。


「だろ?」


俺は一つの悟りをゴウジンに告げた。


「女と戯れながら楽しく練習をする人間と、ただ1人…ただひたすら…幾千も幾万も同じ研鑽を積み上げてきた孤高の1匹狼…お前はどちらが上達すると思う?」


あえて片方をめちゃくちゃカッコよく言ってみた。するとゴウジンの目から涙が消えて、メラメラと炎のオーラが現れる。


「…後者だぜ!仁界!」


燃えやすい。


「じゃあ…それを極めてみろ。きっとお前は誰も到達できない高みに辿り着く。そして、試合で活躍した暁には…」


「暁には…?」


俺はニヤリと口角を上げて口を開いた。


「モテるだろ?」


「モテるよなぁ…っ!!よぉぉぉし!!俺はひたすら1人で壁打ちをするぜぇぇ…っ!!」


うまく焚き付けられたようで、ボールを抱えていつもの壁へと走り去っていくゴウジン。


「うぉぉぉぉぉ…っ!!!」


ちょっと熱くさせすぎたかもしれん。他の部員達がゴウジンを見てどこか不安そうな視線を向けているのが見てとれた。


「まぁ、あいつはあれくらいがいいか。」


すでに入学からしばらく過ごしてきたため、ゴウジンとの距離感はかなり掴めてきている。いい友人になれそうだと改めて思った。


「だ、大丈夫なのあの子…?」


そんな俺達の様子を見て、夏波が話しかけてきた。


「あいつはあぁいうやつだから問題ない。」


「そうなんだ…信頼してるんだね…。」


若干引かれた気がするが、まぁいいだろう。


「で、巡はどんな練習してるの?」


夏波がそんなことを尋ねてきた。


「俺はいつも通り基本の練習だな。」


「変わらないねぇ…ストイックっていうか。」


「ぶっちゃけ伸び悩んでる。」


俺はここ最近で感じていた限界を夏波に話した。フランスで自分の目指す到達点に一瞬だけ触れられたこと。でもそれ以降その感覚を取り戻せていないこと。あの時…小学5年生の時からそこまで大きく成長できていないこと。


「へぇ…驚いた。巡も伸び悩むことってあるんだね…。」


「そりゃあ人間だからな。それに、言っちゃなんだが、日本代表としてフランスで戦ったあの環境以上の場所は、日本にもそうないと思う。強敵がいて、すごい仲間がいて…。」


伸び悩んでいる俺でも、あの遠征ではかなり成長できたと感じていた。


「なるほどねぇ…言ってくれるじゃん巡。」


少し悔しそうな表情を浮かべ、俺に視線を移す夏波。確かに、この言葉の意味を考えれば、自ずと自分がいいライバルではないと言われているように捉えることもできてしまう。


「じゃあ、私が相手になってあげる。」


そんな俺の言葉を受け、夏波は俺の胸に拳をぶつけた。俺は考えもしなかった提案を受け、少し驚いた。


「それだ。夏波なら相手になる。」


俺はガシッと夏波の両肩を掴んで言った。


「なっ…!?」


ガバッと、すぐに俺の手を払いのけて距離を取る夏波。何か嫌だったのだろうか。申し訳ない。


「なんでそう巡は距離が近いんだ…!私は女子だって…見た目だって変わったのに…。」


どこかモゴモゴと恥ずかしそうに喋る夏波。俺はすぐに謝った。今後も気をつけないと、すぐに昔の癖が出てしまいそうで心配である。


「すまん…。小学校のノリで…。」


「それに!」


俺の謝罪に被せるように、夏波が大きな声をあげた。


「なんか認められてるみたいで…ちょっと嬉しかった…!さっさとやるよっ!」


言葉と同時に、明らかにシュート性のボールが俺の胸に向かって飛んできた。俺はそれを綺麗にトラップし、完璧な位置にボールを落とした。


「殺す気かよ…。」


「もし私に負けたらね…っ!」


こうして、俺と夏波の命懸けのトレーニングが始まった。


と、そんな俺たちの姿を見てクスクスと笑う女子サッカー部の面々。後に今日の出来事は、女子サッカー部内で『2人だけの秘密の特訓』という題で語り継がれることになったという。

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