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リ・ボール  作者: よもや
3章 中学校編
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84 怒りの決意

それから8人での練習の日々を経て週末を迎えた。飯田先輩からは試合には来るな…と言われたが、やはり気になるので結局俺1人で試合を見にきていた。


「あれ、仁界じゃん。お前も来たんだな。」


「ゴウジン。やっぱり気になってな。」


コート脇のベンチに座り、近くの喫茶店で買ったアイスコーヒーを飲みながら試合開始を待っていた俺の後方からゴウジンが現れた。いつもと一切変わらない格好で、隠れる気など微塵も感じられない。


「にしても仁界…変装すげぇな。一瞬全然わかんなかったわ。」


俺は帽子を目深に被り、いつもはしていないメガネをしていた。


「いや、ゴウジンがそのまんますぎるんだって。」


俺のツッコミなど耳にも留めず、そさくさと俺の隣にどっしりと座り、足を組むゴウジン。その堂々とした姿はさすがとしか言えない。


「試合はまだ始まんねーの?11時からだろ?」


時刻はすでに11時30分。しかし、こちら側のベンチにいるのは飯田1人。相手の監督に頭を下げていた。


「多分、毒島達が来てないな。飯田先輩がなんとか理由をつけて相手チームに待ってもらってるんだろうな。」


と、そこに校門の方から数人の集団が現れた。サッカー部のジャージを着てはいるが、そのガラは極めて悪く側から見てもやはり恐怖の対象だった。


「来たようだな。」


「試合に遅れてくるなんて…ろくな奴じゃねぇな。」


毒島達はベンチに向かうと、飯田に対して口を開いた。


「はははっ!誰も来てねぇのかよ1年ども…っ!」


「は、はい…。」


飯田が来るな…と言っていたのだか、どうやらそのことは隠しているみたいだ。


「飛んだ腰抜け野郎どもだな…っ!ま、こうなるとは思っていたがよぉ。」


「あ、あの…相手チームを待たせていますので…試合を…」


飯田が必死に引き留めた試合相手はすでにご立腹。今にも帰ってしまいそうな雰囲気だった。


「チッ…少しも待てねぇゴミどもが。今から潰してやるよ。」


毒島がそう言って舌なめずりをした。


「お前らいけるな?」


「「おう…。」」


毒島の言葉に呼応するように、他の3年生達が低い声で返事をした。


「佐良。お前も行けるな?」


「…はい。」


その3年生達に混じって、1人1年生で見たことのある人物がいた。


「あれって…。」


「佐良じゃねぇかっ!?あの…大人数で練習した時にいた奴…っ!」


てっきりあれ以降部活動に来なくなったものだと思っていたのだが…もしかすると、初めから毒島の仲間だったのかもしれないな。


「すみません…お待たせしました。」


飯田が相手の監督に頭を下げて試合が始まった。うちの選手達は全員合わせて13人。そしてベンチには飯田と、3年生の先輩が1人


「それでは試合を始めます!」


審判の高い笛の音で試合が始まった。ボールは相手からスタート。細かいパスを繋いでくるチームのようで、身長等はそこまで高くない。


「ちょこまかと面倒臭そうな相手だな。」


対するこちらの選手は皆、ガタイがよく圧倒的なフィジカルを持っているようだった。


「オラァ…っ!」


「ぐわぁ…っ!?」


3年の先輩の1人がタックルでボールを奪い取った。ファウルスレスレの危険なプレイ相手の選手の体が心配だ。


「ナイスだぁ…っ!俺によこせっ!」


毒島はボールをもらうと、1人で相手陣内に攻め込んで行く。大きな体とは裏腹にスピードがあり、勢いに乗ったドリブルには触れるのをためらう迫力があった。


「おらどけぇっ!!」


相手のディフェンスを弾き飛ばし、思いっきり手を使って相手の体を押さえる。そして何より、ボールだけは奪われない。


「荒くはあるが…確かにうまいな。」


半端な守りだと、簡単にゴール前まで運ばれてしまうだろう。しかし、相手もそう易々と進ませはしないようだ。


「止めろっ!体を入れるんだっ!」


毒島がボールに触れ、ボールと足の距離が離れた瞬間に、相手のキャプテンと思しきセンターバックの選手が体を入れた。そしてボールを奪取。


「ってぇなぁ…っ!」


毒島と体がぶつかり、毒島は相手選手にそんな暴言を吐いた。相手選手は何も言わずに試合を続行した。


「暴言はよくないだろ…今の、めちゃくちゃいいディフェンスだったのに…。」


「あぁ。本来は拍手で称えるべきだ。でも、あいつらにそんなリスペクトはない。」


その後も試合自体は硬直しているものの、こちらの暴言やファウルが多数あり、周りに対していい印象は与えない内容だった。


「クソがぁ…っ!止めろキーパーっ!」


一瞬の隙をつかれ、相手選手が抜け出した。そしてそのままシュートがゴールに突き刺さった。


「チッ…!面白くねぇな…。」


毒島はそう呟いて前を向いた。そしてすぐに試合を再開する。


「決められたか。」


「今のは相手がうまかったな。うちの選手達はなんていうか…冷静さが足りないよな。」


ゴウジン…お前もだぞ?

とはいえ、こいつの言っていることは正しい。うちの選手達は負けることではなく、相手に出し抜かれることに対してイライラを募らせているようだ。このままでは手を出しかねない。


「あいつは…佐良はうまいな。」


「あぁ。左利きなんだなあいつ。なんかかっこいいぜ。」


他の3年生の先輩達とは異なり、1人のらりくらりと目立たないプレイに徹している佐良。執拗に左足しか使わず、だからこそそのテクニックは一目見てうまいとわかった。


「もったいねぇな。あいつがこっち側で一緒に戦ってくれたらなぁ。」


「あぁ。間違いなくかなりの戦力なるはずだ。」


それからしばらく1点を追う状態が続き、いつのまにか審判が時計を見始める時間帯に差し掛かっていた。


「あと5分か。」


俺は腕時計の時間を見て呟いた。


「確か、前後半がない練習試合だったよな?他のチームともやるみたいだし。」


学校には他のチームも複数集まってきていた。できるだけたくさんのチームと試合ができるように、前後半なしのマッチを繰り返すという形態をとっていた。


「他のチームに見られている中で、あの暴力的なプレイはいただけねぇな…。」


「俺たちの学校単位でそういう印象がつくからな。どこも試合してくれなくなっちゃうかもな。」


俺は暴力的なチームのレッテルを貼られることを恐れていた。練習試合は必ず必要になるからな。


「お前らあと5分だ!守り切るぞーっ!」


相手のキーパーとキャプテンはしっかりと声掛けをしており、とてもいいチームワークができていた。


「潰してやる…。」


そんな相手チームに対し、毒島の悪意は最高潮に達していた。


「おっけ!逆サイド準備…っ!」


先ほどから相手チームの要になっているセンターバックの選手がボールを受けた。逆サイドバックにパスをしようとしたところ、毒島がそのボールを奪いにくる。


「来てるぞ…っ!」


キーパーからの声かけがなくともおそらく気づいていたのだろう。相手センターバッグの選手はすぐにボールを散らした。しかし、毒島の標的は変わらなかった。


「ぇ…?」


すでにボールが離れた相手ディフェンスの足を目掛けて…スライディングをしたのだ。


「…まずい…っ!」


俺はメガネを外して立ち上がった。その角度で足に当たったら…


「…がぁ…っ!!!?」


毒島のスライディングをモロに足に受け、相手チームのセンターバックのがその場に倒れ込んだ。足を抑えて左右に転がる。叫び声をあげていることからも相当な痛みであることが伺える。


「がぁぁぁ…っ!!?ってぇぇ…っ!!!!」


すぐに審判が担架を手配する。そして相手チームのキーパーが毒島に対して口を開いた。


「お前何してんだよぉ…っ!!?わざとだろ今の…っ!!」


明らかにわざとだった。相手の足を砕く行為…相手を怪我させる行為。審判も同じことを疑っていたようでレッドカードの準備をしていた。


「わざとぉ?いやいや…そんなわけないじゃん。」


毒島はとぼけて笑った。それに同調するようにして他の3年生の選手達も笑う。


「テメェっ!!!?」


相手のキーパーがキレて毒島の胸ぐらを掴みかかった。


「あぁ…?」


しかし、毒島の睨み殺すような視線に怖気付いたのか、すぐにユニフォームから手を離した。


「ったく困るぜぇ…あんなヤワな足してるとはおもわねぇもんなぁ…っ!」


そう言ってまた3年生達で相手選手達を馬鹿にして笑った。

俺とゴウジン…そしてベンチの飯田は毒島のその姿を見て怒りに震えていた。


「あいつ…っ!今の絶対わざとだよなっ!?」


「あぁ…サッカー選手として…いや、人として本当に最低な行為だ。絶対に…許されるべきじゃない…っ!」


それからまもなく試合が終了。相手の監督が直々にこちらのベンチに訪れて文句を言いに来ていた。


「…なんてことをしてくれるんだ…っ!?あいつは…うちのチームの要なんだぞ…っ!?」


毒島はどうでもいいというふうに水分補給をしながら仲間達と会話をしていた。


「3年で…最後の…公式大会が控えてるんだ…っ!!なのに…お前は…っ!」


相手の監督の話など聞く気は一切ないようで、ずっと無視を決め込む毒島。飯田だけが申し訳なさそうに拳を握っていた。


「絶対に…絶対にお前らの学校を吊し上げてやる…っ!サッカー部を…廃部にしてやる…っ!」


廃部…という言葉に反応した毒島。やっと相手監督の方に顔を向けて口を開いた。


「廃部?はははっ!大歓迎ですよ監督さぁん…!」


その言葉に相手の監督は不思議そうに毒島の方を向いた。


「おたくらは本気でサッカーしてるかもしれねぇんすけど…あくまで俺たちは遊び…なんでねぇ。」


その言葉は、本気で勝負をした相手に対して絶対に言ってはいけない言葉だ。同じ土俵で同じ熱意で…同じ志で戦っていると…それでこそ示しがつくというものなのに。


「どうでもいいんですよねぇ…たかが部活なんて。」


その言葉を聞いた相手の監督は絶望的な表情を浮かべ、その場に膝をついて崩れ落ちた。それはまさしく地獄絵図。最低最悪な状況だった。


「俺…毒島をぶっ飛ばしてぇよ…。同じ痛みを…苦しみを…味合わせてやりてぇ…っ!」


ゴウジンが怒りに震えて拳を握る。瞳からは涙が流れていた。それはそうだろう。俺だって悔しい。本気でサッカーをしたい…している者の大切な足を…適当にサッカーをしているクズが半端な気持ちで砕きにいったのだ。本気でサッカーをしている者であれば、この苦しみが嫌というほどにわかる。


「やめろゴウジン。やるならサッカーでだ。」


「仁界?」


俺は立ち上がって歩き出す。今から帰って練習をするのだ。ゴウジンもそんな俺について歩き出した。そして俺は静かに言い放った。


「あいつを…毒島達を…サッカー部から追い出す。」



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