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リ・ボール  作者: よもや
3章 中学校編
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80 動き出す羽車

先輩方に言われて訪れたのは部室棟。様々な部室がある中、一際汚い看板に汚れた扉のある部室があった。


「「ここがサッカー部かぁ…。」」


なんとなく放った独り言に、誰かが同じことを呟いた。なんだか最近こういうことがおお気がするのだが…と思いながら右の方を見ると、相手もこちらを見ていた。


「お前は…」


特徴的なもじゃもじゃ天然パーマの男子生徒。先輩だろうか?


「サッカー部に入部希望です。今日は見学に…」


「いやいや、俺も1年!」


なるほど、同じ入部希望者だったか。


「俺、『とどろき じん』。『ゴウジン』って呼んでくれ!俺もサッカー部希望だからよろしくな!」


話しそうなやつじゃないか。ゴウジン…すごく覚えやすい。俺は差し出された手を握って口を開いた。


「仁界 巡だ。よろしくな。」


その後俺たちはもう一度サッカー部の部室に向き直り、困り果ててため息をついた。


「これ、サッカー部なんだよな…。強いって聞いてたけど…なんかさびれてんだよな。」


「あぁ。聞いた話によると、毒島先輩っていう3年生にほぼ支配されてるらしい。」


不思議そうに部室を眺めるゴウジンに対し、俺はそう答えた。


「え、まじ?」


絶望を込めた返答。絶望的な状況だし、部活動を諦めてしまうかもしれない…そんな危険性を持った打ち明けだったが…


「何だそのシチュエーション…。燃えるな!」


どうやらゴウジンは少し変わった人物のようだ。メラメラと背中から炎が出ているように見える。


「はぁ…はぁ…っ!」


そんな俺たち2人の元に、後方から1人の生徒が現れた。エナメルバッグを担いでおり、運動着をすでに着用している。サッカー部の生徒だろうか?


「ちょ、お前らどいてくれっ!」


するとその生徒は、扉の前に立つ俺たちを押し退けた。そしてポケットを弄って何かを探しだす。


「鍵、鍵、鍵…あった!」


見つけ出した鍵で部室を開けて中に入った。そしてその後にようやく俺たちの存在に気づく。


「…あれ、君達は?」


その質問にゴウジンが答える。


「轟 陣!サッカー部入部希望です!いやぁ…なんか部室がさびれてたんで何事かと思いましたよ!よかったです…練習のためにこんなにも急いでくる選手がいるなんて…!」


ゴウジンの言葉に対し、その人は言った。


「ほぅ…この部活にもまだ入部希望者が来るとはね。」


その選手はバッグ置いて椅子に座ると、俺たちを部室に招き入れてくれた。


「で?そっちのは?」


「…仁界 巡といいます。よろしくお願いします。」


「仁界か。よくわかった。だが、いろいろ訂正する必要がありそうだな。」


その選手は意味ありげに語り出した。


「と、その前に…俺は2年の『飯田』という。」


その言葉にゴウジンが「よろしくお願いします!」と大きな声で言った。


「あぁ。よろしくな。で、まずはこの部活の現状だが…何か聞いてるか?」


話には聞いていた。でも、俺もゴウジンも何も口にできずにいた。


「新入部員の勧誘もせず、部活動の時間になっても選手達は来ない。これも全て…3年の毒島先輩ってやつのせいだ。」


飯田先輩はどうにも悔しそうに語った。2年の先輩はまだ毒されていないのだろうか?


「俺が今日ここに走ってきたのも…鍵を規定時間までにあけないと、毒島さんにシバかれるからさ。轟が言うような殊勝な理由じゃないわけだ。」


どうやら部の実情は本当に深刻のようだ。


「えっと…でも、練習とかはできるんですよね?」


ゴウジンのその言葉に、飯田先輩は少し間をあけて答えた。


「練習に来るのは…俺くらいだな。」


その言葉に俺たち2人は衝撃を受けた。


「マジですか…。じゃあ試合は…?」


「試合はひどいもんだぜ?毒島先輩が中心となって、まるで暴力団みたいな荒いサッカーをするんだよ。それで市で4位なのがムカつくけどな。」


暴力団みたいに荒いサッカー…。だがそれができると言うことは、大きな体と強い体幹が必要になる。半端であればすぐにカードをもらって退場だからな。


「悪いことは言わない…今からでもどこかのクラブチームに行くことを薦める。」


飯田先輩の言葉を聞いて、きっとゴウジンは部活に入るのをやめてしまうのだろう…とそう考えていた。しかし…


「…俺はやめません!」


ゴウジンは楽しいおもちゃでも見つけたかのような笑顔で言った。


「こんな状況滅多にねぇ…!燃える燃える!超燃えますよぉ…っ!」


すごい熱血だな。と俺は関心の目を向けた。まぁ俺も辞める気はなかったし、ありがたいことだけど。


「俺もやめませんよ。部活動でサッカーをするのが子供の頃からの夢だったんで。」


俺たちの言葉を聞いて、どこか嬉しそうに笑う飯田。


「変な奴らだぜ。」


結局その日は、飯田以外の先輩が部活動に来ることはなく、俺とゴウジンを含めた3人で軽く練習をして終了した。


ーー


放課後、そんな3人での練習を見ていた生徒達の何人かがその様子を見て話していた。


「おいおいおい!あいつら3人なのに練習してるぞ!相当サッカー好きなんだな…!」


野球フェンスの外側から夕焼けのグラウンドを除く坊主頭。野球部にふさわしい髪型をしたその男子生徒は、後方にて待つ2人の友人の元へと向かった。


「どうだった?『追分』君?」


中学生にしては規格外の図体を持つ男子生徒は、右手に持ったポテトチップスを口に入れながら、追分…と呼ばれた坊主頭の生徒に話しかける。


「それがよぉ『壁立』、あいつらグラウンド中央でボール蹴り始めやがったぜ?」


「えぇ〜…僕には考えられないよぉ…。噂…知らないのかなぁ…ね、『留山』君。」


壁立と呼ばれた図体の大きな生徒は、その隣に立つとびきり小さな男子生徒に尋ねた。


「ま、まだ仮入部期間だからなぁ。知らん奴らがいても不思議じゃないだろ。」


留山と呼ばれた一際小さな男子生徒は、頭の後ろに手を回し、さっさと校門まで歩いて向かった。


「おいおい!待てよ留山ー!」


「どうした追分?」


帰ろうとする留山にストップをかける追分。するとどこか興奮した様子で鼻息荒く口を開いた。


「何俺たちの本来の目的忘れてんだよ!」


そう言うと追分は、体育館の方を指差した。そしてすぐさま駆け出していった。


「女子バトミントン部、女子バレー部…今年は可愛い子が多いらしいぜぇ!今すぐチェックだ!」


追分の言葉に呆れ、ため息を放つ留山と壁立。


「あいつ…本当にバイタリティすげぇな。」


「うん。この調子じゃ、出禁になるのも時間の問題かもね。」


壁立はそう言ってポテトチップスを一つ口に入れた。


ーー


「へぇ…うちのサッカー部、一応練習してるんだ。ね、『竜胆』。見なくていいの?」


放課後の教室。その窓から体の半分を乗り出して、グラウンドを眺める男子生徒。金色に靡く長めの髪は美しく、すでに何人かの女子生徒を虜にしていた。


「いいよ。僕はもうサッカーする気ないし。」


竜胆と呼ばれた男子生徒は、メガネのずれを直し、興味なさげに目の前の小説を読んでいた。


「本当は興味あるくせに。じゃなきゃ、わざわざここに残んないじゃん。」


金髪の男子生徒の言葉に、「うっ…」と図星をつかれた竜胆。


「僕のことはいい。『衛里』こそ、病気はもう治ってるんでしょう?サッカー…したいんじゃない?」


「うん…したいかも。」


予想外に素直な答えが返ってきた。


「じゃあ…」


「でも…俺が守って竜胆が決める…。俺はそんなサッカーがしたい。」


どこか遠く…はるか昔の過去を思い出すかのように、天を見つめながら話す衛里。


「もう…無理さ。」


竜胆は椅子を引いて立ち上がった。そして荷物をまとめ、帰る支度を整える。


「僕は昔みたいに…ヒーローにはなれない。衛里が守ってくれても…きっと僕は決められない。」


竜胆はそう言って教室を後にした。

オレンジ色に染まる教室の中には、残された衛里1人。


「…ヒーローじゃなくたって、構わないのにな。」


衛里の一言が竜胆に届くことはなかった。


ーー


3年の教室棟。ちょうどその窓からはグラウンドが見える。


「一年、2人か。」


静かに佇み、窓からグラウンドを覗く生徒。その視界の先にいるのは3人のサッカー部員。


「おい『佐良』、あいつら知り合いか?」


呼ばれて窓の外を覗く佐良。靴の色からして一年生のようだが、どうやら3年生と行動を共にしているようだ。


「…いや、知らないっすね…。」


佐良はビクビクしながらそう呟く。


「仮入部期間だからなぁ。明日は少し、根性見てやるか。」


そう言って笑う3年生。その図体と筋肉はそこらの一般人とは比べ物にならない。


「佐良、購買でパンとジュースを買ってこい。」


「う、ウィス…っ!」


窓から離れ、一年の佐良をパシリに使う3年生の男。


「あ、あの…『毒島』さん…パンの種類は…?」


佐良は毒島に買ってくるべきパンの種類を聞いた。しかし、その回答は返ってこない。


「佐良…一度だ。一度だけ答えを教えてやる。」


毒島は佐良の胸ぐらを掴んで持ち上げた。


「俺がパンと言ったら…『チョココロネ』だ。次間違えたら…どうなるかわかってるな?」


「わ、わかりました…っ!すみません…っ!今すぐいってきます…っ!」


そう言って駆け出していく佐良。残された毒島はどこかイライラしているようで、近くにあった掃除用のバケツを蹴り飛ばした。


「まだ潰れてなかったのか…あのクソみてぇな部活。」


蹴り飛ばされたバケツは、側面が凹んでおりもう使えそうになかった。


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