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リ・ボール  作者: よもや
3章 中学校編
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78 新天地と旧友達

波乱の卒業式を終え、俺達は小学校を卒業した。そして最後の春休みをへて、中学という新しいステージに足を踏み入れる。


「入学おめでとうございます!」


俺が入学した九頭中学校は、小学校よりは街の近くに位置しており、俺の家からの通学時間も半分程度に抑えられる。


「中学校大きいなー!」


「友達できるかなぁ…?不安。」


たくさんの新入生が両親と共にその校門をくぐる中、両親の都合により1人で学校に足を踏み入れた俺は周りから見るとどこか浮いているようだ。


「おめでとうございます!会場はあちらです!」


受付にいる学生服を着た女子は生徒だろうか。受付を任されているということは生徒会役員等の権威ある方なのかもしれないな。俺は慣れない制服をビシッと整えて受付に向かった。


「ご入学おめでとうございます…!」


清々しい笑顔でプログラムを渡してくれる女子生徒。俺は小さく会釈をして受け取った。


「えっと…教室は…。」


玄関を抜けて体育館まではそれなりに距離があった。だがどうやら、まずは割り当てられた教室を確認する必要があるみたいだ。どんな生徒がいるのか…少なくとも小学生じみた子供のような生徒はいないと信じたい。


「あそこにクラスが割り当てられているのか。なんだか合格発表みたいで嫌だな…。」


そんなことを言いながら、たくさんの人が集まる掲示板の前に立つ。そして、自分に渡された学籍番号を確認し、クラスを探した。ゆっくり指を指して番号を順番に確認していく。


「「あった…。(あった…!)」」


しばらくして自分の番号を見つけた。つい口に出てしまった「あった」という言葉と自分のその指が、誰かが放った同じ言葉と、その人物の指に重なった。


「…あ、すみません。」


番号は覚えた。

俺はその指の主に謝罪をしてその場から去ろうと腕を引っ込める。しかし、偶然視線が合ってしまったその女子生徒に、俺は雷が落ちたかのような衝撃を受けることになる。


「こちらこそ…って…巡?」


目があって、なぜか俺の名前を呼んでくるその生徒。女子に友達はいないし、巡と呼ぶ人物も同じ小学校にはいなかった。それに…


「えっと…」


その女子生徒は疑いたくなるほどに美しい顔をしており、その仕草は極めて女の子らしかった。黒く長い艶のある髪を風に揺らし、その美しい瞳に吸い込まれそうになる。こんな女子生徒が…なんで俺を…?


「もしかして…忘れちゃった?」


だが確かに…どこか既視感がある。そして聞き覚えのあるその声…俺を巡と呼ぶ女子生徒…


「残念だなぁ…。私は1日たりとも巡のこと忘れたことなかったのに。」


悪戯に…蠱惑的に…こちらを揶揄うように笑うその笑顔。その瞬間、記憶の中で全てのピースがつながった。まさか…


「…夏波…か…?」


髪が短いあの時とは打って変わって印象が異なる。ここまで変化を遂げるものなのか…いや、でも消去法で考えても…それしか…


「久しぶりーっ!巡ーっ!」


顎に手を当てて考え込む俺。しかし、相も変わらず、夏波が俺にそんな隙なんて与えてくれるはずもない。


「どわぁ…!?」


公衆の…たくさんの新入生の面前で…


「今年一…いや、人生一嬉しいかもっ!」


夏波は俺に思いっきり抱きついてきた。


ーー


「…これから君達は、うちの中学…九頭中学校の一員となるわけだ。その自覚を持ち、謹んで行動するように…。」


キッ…と俺の方を睨みつける仮担任の先生。まだ若いのにその睨みにはものすごい迫力があった。間違いなく一定の層に人気があるだろう。とはいえ、やはりすでにあの件は教師陣の耳に入っているのか。


「なんで俺だけ…。」


小さく独り言を呟く俺。

連絡事項を全て伝え、教室から出ていった先生。最後に、「しばらく時間があるので交流でもしておけ。」と投げやりに告げた。


「なぁ…お前何やらかしたんだ!?」


後ろの席の男子生徒が早速話しかけてきた。


「俺『宮迫』!『宮迫 健二』!教えてくれよ!」


「あ、あぁ。仁界だ。よろしく。」


咄嗟に名前を聞かれて答える俺。しかし、宮迫はどこかポカンとした顔で口を開く。


「いやいや…!俺が知りてぇのはさ!どうやったらあの『清原』先生に睨みつけられるのかってとこだよ!」


ドMだった…。

はぁ…はぁ…と息を荒くして尋ねてくる宮迫。もうこいつには関わらないようにしたい。


「にしても…俺達完全についてるよな!」


「何がだよ?」


俺はなんのことがわからずに質問を返した。


「だってよぉ…うちのクラス、美人がたくさんいるじゃねぇか!」


食い気味にそう口にする宮迫。


「浜平さんや、高橋さん…それに三神さん!」


確かに、教室を見渡せば目に留まる綺麗な女子生徒が多い気がしなくもない。だが…


「でもやっぱり…小岩井さんだなぁ…!」


同意見だ。この一年でまるで別人のように姿が変わってしまった。あんなに男まさりだった夏波がスカートを履いて…口元に手を当てて笑っている…。なんだかむず痒い。


「…レベルが高い…っ!狙ってる奴絶対多いぜ!」


ふんすかふんすか息を荒げる宮迫。それにしてもなんでこいつは初対面でこうズカズカ土足で踏み入ってくるんだ?バイタリティえぐいな。


「ま、俺は清原先生一択だけどな。」


そう言って鼻の下を擦る宮迫。それだけはやめておけ…と蔑むような視線を送るも、本人は気づいていないよう。嬉々として他の男子生徒に話しかけにいった。


「初日から変に目をつけられてしまったな…。」


相変わらず机の下では足を上げて筋力トレーニングをしながら、サッカーの戦術本を開く。そしてすぐにその世界へと没入。やはりサッカーの歴史を変えたのは…『サッキ』…ACミランの監督か。ゾーンディフェンスは現代サッカーにおいても重要な基礎になっており…


「おい…誰だよあの子?」


「綺麗〜…お人形さんみたい。」


「うちのクラスじゃないよな?何組だ?」


スペース、そして時間を奪われる相手選手は、自ずとサイドへと追いやられることになる。相手の行動を絞るサッカーは、個人技主体だった1980年代とは打って変わって…って、なんか騒がしいな。


「なんだ?」


先ほどの喧騒…とは少し異なり、教室全体が妙にザワザワし始めた。何事かと思い、俺は顔を上げた。


「お久しぶりですね。巡さん。」


俺の傍に淑やかに立っていたその少女は、嫋やかに笑って俺の名前を呼んだ。その見目は大層麗しく、洗練された大和撫子の様。だがしかし、どうして俺の名前を…?


「えぇっと…」


戸惑う俺に笑いかけ、再び口を開く。


「覚えていらっしゃいませんか?」


俺を巡さん…と呼ぶ少女。丁寧な言葉遣いと立ち振る舞いから、名家の出だと考えられる。いや、でもそんな上流階級の淑女がうちみたいな普通の中学校に来るわけないだろうし…


「まさか…」


教室がシン…と静まり返る中、俺とその少女の会話だけが際立っている。こういう時、目立つ人間と一緒にいる一般人…いわゆる今の俺の様な存在は居た堪れない。


「秋音か…?」


俺の記憶に残る数少ない女の子。宝院家に身を置き、その現当主である彼女の父には大変お世話になった。

その少女は答えを聞くと、嬉しそうに微笑んで人差し指を上げた。


「ご明察〜!」


そして嬉しそうに、俺の後ろ…宮迫の席に腰を下ろして話し始めた。


「思い出していただけて嬉しい限りです。これからは同級生として、よろしくお願い致しますね。」


「よろしくって…秋音、お前…引っ越してきたのか?」


秋音はもとより石川県の金沢に拠点を構える、宝院グループのお嬢様である。当たり前のことだが、住まいも金沢に構えている。


「はい!富山県で過ごしたいと思いまして!」


含みのある笑顔。これは絶対に嘘である。この日本に富山県で過ごしたいと思う人間なんて存在するわけない。それほどに富山県には何もない。本当に何も…。


「で、偶然俺と同じ中学校に通うことになった…と?」


「その通りです!」


食い気味の肯定。本当か…?いくら何もない富山県とはいえ、中学校はそれなりにたくさんあるはずだ。それにお嬢様である秋音が通うべき…それに相応しい中学校だってある。それなのに数ある中からこの九頭中学校に『偶然』通うことになったとは考えにくい…。


「何かしたな?」


「その通…いいえ、何もしてませんよ?」


「おい。」


なぜだかわからないが、俺は秋音やその妹である寧々、そして父の忠仁にまで気に入られている節がある。なにか金銭的な力が働いた説を否定しきれない。


「まぁ…いいや。秋音がそれでいいなら…。」


「はい!私はこれで大満足です!」


嬉しそうに笑う秋音。やはりその無邪気な笑顔からは、昔から知るおてんばな彼女の面影が窺える。


「よし、入学式の準備が整った。お前ら一旦席につけー。」


清原先生が教室に戻ってきて声をかける。しかし、その指示に従わず立ち尽くす生徒が1人。


「どうした宮迫。早く座れ!」


「は、はい!す、すみませぇん!」


宮迫の席に座り、ニコニコと俺の方を見る秋音。あと宮迫は喜ぶな。


「ん、誰だお前は…?」


宮迫の席に座る秋音の姿に気づいた清原先生が、秋音に尋ねた。


「はい!1年2組…『宝院 秋音』です!」


「そうか…元気が良くて…っじゃない。なんで2組の生徒がいるんだ…。早く自分のクラスに戻れ!」


「えぇ〜…。」


不服そうに頬を膨らませる秋音。何やら俺に助け舟を期待している様だ。だが、あいにく俺は清原先生にすでにビビっている。余計なことはしなくない。


「す、すみません…!こちらに宝院さんはきていませんか…っ!?」


そのタイミングで、隣の2組の仮担任である『鈴木』先生が現れた。メガネをかけた優しそうな先生である。どこか焦った様子で1組の教室のドアを開けた。


「あ、いた…!ちょっ…困りますよ宝院さん…!早く教室に戻ってください…!」


「げ…っ!鈴木先生…。」


鈴木先生を見つけた秋音はどこか罰が悪そうに目を細めた。どうやらすでに問題児として認識されている様だった。


「仕方ありませんね。ここは戻りましょう。」


不服そうに立ち上がる秋音。


「…教室までは操作できなかったのが悔やまれますね…。」


おい、聞こえてるぞ。秋音お前…やっぱり宝院家の力利用したな?


「それでは皆さん、ごきげんよう。」


秋音はそう口にし、必死に頭を下げてお礼をする宮迫の隣を通り過ぎていった。…っていうか、なんでお前はお礼してんだよ…。


「巡さん、また後で会いましょう!」


意味深なセリフを言い残して問題児が1組から去っていった。ようやく静かになった教室で、先生が頭を掻いて口を開いた。


「よし、まぁああいうやつもいるが、お前らは秩序を持って生活する様に。」


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