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リ・ボール  作者: よもや
3章 中学校編
106/110

101 それぞれが得た新しい武器

甲高い音を立てて空中高くに飛び上がるボール。


「くっそぉぉ…っ!!」


ゴウジンの放ったシュートは誰も反応することができずに真っ直ぐにゴールへと向かっていったが、惜しくもゴールの上部…バーに直撃。跳ね返って上空へとボールが飛んだのだ。


「まだだよ…っ!」


竜胆がそのボールの落下地点に入る。しかし、相手のディフェンスは高身長であり、ジャンプしても勝てる相手ではなかった。


「おらぁ…っ!!」


強く肩をぶつけられ、弾き返される竜胆。やはりまだブランクもあるのだろう…簡単に競り合いに負けてしまった。


「…調子乗るんじゃねぇよチビがっ!」


「…く…っ!」


ボールはタッチラインを割って試合が一度切れる。競り合いに負けた竜胆は悔しそうに汗を拭った。


「…すまねぇ竜胆…俺…」


「…すごいよゴウジン君…っ!あんなシュートが打てるだなんて…っ!!」


すぐに竜胆に駆け寄って謝罪の言葉を述べるゴウジン。申し訳なさそうに頭を下げるゴウジンとは裏腹に、竜胆は驚いたようにゴウジンに声をかけた。


「仁界君に聞いてた話と全然違う…ゴウジン君はシュートが苦手って聞いてたのに…!次こそ決めようね!」


思ってもいなかった言葉を聞けたゴウジン。すぐに嬉しくなって大きな返事を口にした。


「お、おう…っ!!」


ーー


「すげぇシュート…今、ゴールが浮き上がってなかったか…?」


頑なにベンチ横であぐらをかく佐良。ゴウジンのシュートに驚いて声を上げていた。


「筋力は十分にあるからな。問題はコントロール…なんだけど…」


「もう十分にできていますね。蹴る前にしっかり力をコントロールしているように見えました…何も考えず思いっきり振り抜いているわけではなかったように思えます。」


秋音にも見えていたようだ。明らかにシュートモーションで焦りが消えていた。今のが、体制が崩れていたことによる良い影響なのか…もしくはゴウジンが意図的に行った動きなのか…そこまでは聞かないとわからない部分だな。


「ゴウジン君のシュート能力がついに開花!いいねいいね!勝てるんじゃない!?」


夏波が楽しそうに口を開く。しかし、その言葉に佐良が厳しき言葉を返した。


「サッカーはシュートだけじゃ決まらねぇだろ。それに…『柿崎』さんの高身長を前に竜胆は何もできてなかったからな。結局はあんなふうに潰されてしまいさ…。」


「つまんねぇやつ〜…。」


夏波は口を尖らせてそんなことを口にした。


「テメェな…」


すでに1点ビハインドの残り15分。ようやくオフェンスに突破口が見出されたかと思ったが、まだまだ試合はこれからのようである。


ーー


スローインから試合再開。競り合いではやはり勝つことができず、ボールは3年生に渡った。


「…飯田ぁ…!」


ボールを持ちドリブルをする3年生チームの中盤の選手。その前方に立つのは、アンカーを務める飯田だった。


「…くっ!」


大きな身体とは裏腹に意外とテクニックがある相手選手。しかし飯田は粘り強くボールに食らいついていた。


「しつけぇな…っ!」


一定の距離感で無駄なく対応し続ける飯田に対し痺れを切らした相手選手は、前方のウイングの選手にパスを供給。しかし…


「…やっぱり…」


そのパスを、飯田がギリギリ足を伸ばしてインターセプト。ここ最近ずっと練習をしてきていたインターセプトが試合で発揮された。


「な…テメェ…っ!」


このプレイだけに焦点を絞り、極限まで磨き上げてきた予測と、相手の次の行動を誘導する動き…これら2つが重なり合い、強力な潰し屋として相手の攻撃の芽を悉く摘むことに成功していた。


「貫井…っ!」


飯田は奪ったボールを貫井へと預ける。


「ナイスです。飯田さん…。」


サイドに広いスペースがある状態でボールを受け取った貫井。しかし、相手のディフェンスの詰めもかなり早い。


「…本気で…5歩…」


左サイドでボールを受ける貫井。前方には広いスペースがあるが、相手のディフェンスがそのスペースへの侵入を防ごうと動いている状況。貫井の素早いドリブルを行うにはギリギリのタイミングだったが…


「相手を…ぶち抜く!」


貫井があえて一歩ボールに近づき、大きく前のスペースにボールを蹴り出した。そして爆発的なスピードでサイドを駆け抜けた。


「ピッタリ5歩…。」


ギリギリ5歩目で貫井がボールに触れた時…すでに目の前には誰もおらず、ゴールを狙うことも、クロスからアシストを狙うこともできる…なんでもできる位置に自ずと立っていた。


「…これが…仁界君が言ってた…」


サイドはゴールに直結しにくい分、裏抜けや1発の突破で誰よりもゴールに近い位置に、誰よりも早くたどり着くことができる位置だ。後方から追いかけてくるディフェンス。シュートが来るのではないかと恐れるゴールキーパー。でも、もう遅い。


「ここが…僕の目指した景色!」


貫井は迷うことなくコート内側へカットイン。シュートモーションに入る。


「まさか…ミドルシュートで…っ!?」


「止めろぉ…っ!!」


相手のキーパーの指示が飛ぶ。巨漢のセンターバック2人が貫井のシュートコースを塞ぐように体を入れてきた。しかし…


「竜胆。」


振り抜かれた足は優しくボールに触れる。ふわりと浮き上がったチップパスが、センターバック2人の頭を超え、竜胆の足元へ。


「…オフサイド…ない?」


少しビビりながらラインマンを確認する竜胆。どうやらラインマンはその美しい崩しに目を奪われているようで、旗を上げることすら忘れてしまっているようだった。(そもそも本来であればオフサイドはないのだが…)


「なら…」


竜胆は完全ドフリーで左足を踏み込む。


「トラップ…しないでいいや。」


この状況でドフリーなのであれば、確実にシュートを決めるためにトラップするのが定石だ。だが、それを理解した上で竜胆はダイレクトボレーを選択。


「やっぱり…この瞬間が最高だよ。」


振り抜かれた右足から、強烈なボレーシュートが放たれた。


「くっそぉ…っ!!」


飯田から始まった完璧なプレーの連続。そんな美しい連携にキーパーが追いつけるはずもなく、3年生チームのゴールネットが力強く揺れた。


「ナイスシュート竜胆っ!!」


チームメイトが竜胆と貫井の元に集まってきた。待望の同点弾を皆で祝福する。


「いや…貫井君の完璧なパスのおかげだよ。」


謙遜する竜胆。その反応は皆想像通りだったみたいだ。


「確かに…貫井のあのドリブルは予想外だった。練習してたのか?」


「うん。ずっとね…。」


秀川の質問に貫井が答えた。


「ということは…やっぱりこれも仁界の差金ということか。あいつは本当に何者なんだ。」


秀川は両手を広げて呆れたように首を傾げた。


「飯田さんも…インターセプト…ナイスでした。」


褒められ続けることに慣れていない貫井は、その対象を自ら飯田に移した。確かに全ての起点は飯田のインターセプトだった。


「自分でも驚いた。パスコースが完全に見えたんだ。」


どうやら飯田も新しい景色を見ることができたようだった。


「でもまだ同点。こっからもう一点頼むよみんな。後ろは僕らが絶対守るから!」


ディフェンスの要である衛里が皆に声をかけた。


「おう…!今度こそは絶対ぇ俺が決めてやるぜ!」


燃え上がるゴウジン。自分のシュートミスを気にしている様子はなく、完全復活を果たしたようだ。


「よし、残り10分…切り替えて挑もうっ!」


「「おうっ!!」」


飯田の掛け声に皆が返事をし、自分達のポジションへと戻るのだった。

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