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リ・ボール  作者: よもや
3章 中学校編
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95 毒島の罠

試合前にトレイへと向かった俺は、その場所で1年生に絡む毒島と他1人の姿を見つけた。


「…なんだこのメガネ野郎っ!どけクズっ!」


思いっきり蹴り飛ばされて後方へと跳ねる生徒。そのメガネにヒビが入った。さらに、持っていた小説らしき本が地面に落ちた。


「教室の端っこでいつも本読んじゃってる系の痛ぇ奴じゃん。」


毒島が落ちた本をまるで汚いものを扱うかのように持ち上げた。


「やめてください!それは…!」


メガネをかけた男子生徒は毒島へとそう口にした。しかし、毒島は行動を止めることなく…


「どうでも良いだろ?こんな汚ねぇ本一冊くらい。」


そう口にして、本をビリビリと2つに破いてしまった。


「…あいつら…。」


俺はその行動が許せずに、2人の元へと歩き出した。しかし、なんでこんなところにただの一般生徒が?今日は学校も休みのはずだが。


「何してるんですか?」


俺は毒島ともう1人を前にしてそう声をかけた。2人は聞き覚えのある声に耳を傾ける。


「先輩方の相手は僕らでしょう?何も関係ない一般生徒に手を挙げるなんて…ハッキリ言ってダサいですよ。」


「あぁ…っ!?テメェっ!」


俺の言葉に逆上し、殴りかかってきそうな毒島ではない方の3年生。しかし、その瞬間毒島に肩を持って止められた。


「やめておけ。」


「でも…毒島さん…!」


毒島は決して優しさから俺への暴力を止めたわけではない。どこか楽しそうに下卑た笑みを浮かべてこちらに視線を向ける。


「これからこいつとは地獄の試合をするんだぜ?そこで思う存分叩きつぶしゃあ良いだろうよ。」


舌なめずりをして首を回す毒島。まるで格闘技の試合に挑むかのような言い回しに、俺は理解できないと両手を上げた。


「叩き潰す?どうして毒島さん達が勝つ予定なんですか?」


その言葉に毒島はその笑みをさらに悍ましいものへと変えた。


「当たり前じゃねぇか。お前達は結局6人しか選手がいない。サッカーにおいて、人数の差は致命的だ。それくらいお前が1番よくわかってんじゃねぇのか?」


確かにそうだ。だが、6人という人数で一人二役をこなせるほどの実力を持ち合わせていれば、十分に勝利はあり得る。


「質が違いますから。僕らのチームは優秀な選手が揃っている。毒島さん達3年生チームとは違ってね。」


毒島の後方で控える3年生が、いつでも殴れるよう拳を鳴らして控えている。どうやら毒島と違ってかなり沸点が低いようだ。


「へぇ…そうかいそうかい。そりゃあ良いことだ。」


毒島は立ち上がると、その3年生を連れて歩き出した。


「楽しみにしてるぜ?」


そしてすれ違いざま、どうも奇妙なことを呟いていった。


「お前達6人で…ちゃんと試合に挑めるかどうかをな。」


俺は2人がいなくなるまでその背中を監視していた。意味深な言葉の意味を考えながら、その場から立ち去ろうとしたとき…


「あ、ありがとう…。」


本をビリビリに破かれた生徒がまだその場に立ち尽くしていた。


「まだいたんだ。早く帰った方がいいよ。」


俺の言葉に、どこか嬉しそうに話し出す生徒。


「試合を…見にきたんだ。」


よく見ると、その手に握られていた引き裂かれた本は、サッカーの戦術書のようなものだった。


「へぇ、サッカー好きなんだ?」


「あぁ…うん。」


どこか申し訳なさそうに下を向く生徒。


「仁界君の練習メニュー…僕はいつも見ていたよ!すごいよね、選手一人一人の弱点をしっかり見つめて…的確な個人トレーニングをする…まるで監督みたいだ!」


突如語り始めた男子生徒。


「俺の名前…知ってんだな。」


その言葉に対し、不思議そうに俺の方に視線を向ける男子生徒。


「当たり前だよ。仁界君有名人なんだから。」


「有名人?」


「そうだよ?入学早々…美女2人を手籠にしており、さらにあの清原先生にも目をつけられている…そしてあの毒島さんになんの気の迷いもなく立ち向かっていく強い意志…。」


「おいちょっと待てそれ詳しく。」


聞き捨てならない文言に俺はその男子生徒の言葉を遮った。


「すごいよね…僕にはないよその勇気。」


「いや、だからその話を詳しく…」


俺の言葉などお構いなしに、自分の感想をぶつけてくる男子生徒。


「応援してるよ仁界君。きっと君ならこの試練も超えてくれると信じてる。」


「いや、いい話で終わらせようとしないでさ…」


男子生徒は静かに歩き出した。


「どんな逆境も超えてしまう…まるで漫画の主人公みたいな選手に…きっと君ならなれると思う。」


そして俺の隣を通り過ぎていく。


「君に勇気をもらえたら…僕もまた…」


毒島と同じく意味深な言葉を口にする男子生徒。


「いいや、なんでもない。衛里のことも、よろしくね。大事な友達なんだ。」


「…君は一体…」


去り行くその背中に、俺はそう投げかけていた。衛里の事を知る男子生徒は振り返り、その名を名乗った。


「僕は『竜胆 幻』。きっと君なら勝つって信じてるよ。」


どこか寂しそうな笑顔で呟き、その場から消える竜胆。


「うわ、結局聞けなかった。なんなんだその噂…飛んだ濡れ衣じゃねぇか。」


1人その場に取り残された俺はやるせ無い気持ちを独り言として吐き捨てるように口にしたのだった。


ーー


「これは一体…どういう事ですか?」


場所はグラウンド。サッカーボールを目の前にして整列する選手達。俺は毒島を目の前にして口を開いた。


「さぁ?知らねぇなぁ。」


何も知らないというふうに惚ける毒島。しかし、この状況は明らかにおかしかった。


「さっきの言葉の意味は、そういう事だったんですね。」


「なんのことだか。」


ニヤニヤと笑ってこちらを見る3年生の選手達。その視線の先に映っているのは俺ただ1人である。


「両チームポジションについてください!」


審判役をする生徒がそう声を上げた。毒島達3年生は11人がしっかりとポジションについて準備を整える。しかし、こちら側の選手は…


「俺1人か…。」


最前生で立ち尽くす俺1人のみ。


「…あれれ〜?仲間に見捨てられちゃった?」


「そもそも、たった6人なのに…かわいそう。」


3年生チームのメンバーは皆、俺の方を見てケラケラと笑っている。白々しいにも程がある。


「何をしたんですか?毒島さん。」


俺は静かに尋ねた。あいつらが集合場所に集まっていたのは間違いなく確認している。だからその身の安全が1番心配だった。


「しらねぇって。家で眠りこけてんじゃねぇの?」


ニヤニヤと笑いながら答える毒島。


「あいつらは…無事かどうかって聞いてるんですよ。」


俺は心の底から怒りが込み上げてきた。もし、もしあいつらを痛めつけたりでもしていたら…あいつらのサッカー人生を奪ったりなんかしていたら…


「さぁなぁ…?」


何も答える気がない毒島に呆れ、俺はため息を一つついて顔を上げた。


「俺、言いましたよね。」


突然語り始めた俺に毒島達3年生の視線が俺に集まった。


「…最悪1人でも勝てるって。」


せっかく…せっかく6人という人数で勝利して、毒島達に少しでも言い訳をさせてあげようと考えていたのに。


「…冗談だろ?いい加減カッコつけてんじゃねぇよ。」


毒島達が俺をバカにするように笑った。


「はぁ…サッカーは11人でやるスポーツです。」


俺は心の底から込み上げる怒りに任せて口を開いた。


「でも…正直言って、あいつらはまだ未熟で…俺と一緒に同じレベルでサッカーができるように上達しているわけじゃない…。はっきり言って『足手纏い』でした。」


突然チームメイトを貶し始める俺に対し、不思議な視線を向けてくる毒島。


「良いんですね?毒島さん。これで負けたら、本当に言い訳できませんけど?」

 

「言い訳だぁ?するわけねぇだろ。そもそも…本気で勝てると思ってんのか?テメェ1人でよぉ?」


自信満々の毒島。しかし、俺はこの間一歳嘘は言っていなかった。実際あいつらはまだまだ未熟だし、足手纏いだ。でも、成長したらきっと…最高の選手になり得ると信じている。


「あいつらとの初めての試合、楽しみにしてたんだけどな。」


俺は1人呟いて、コート中心に置かれたボールから少し離れる。


「今から直接ゴールを狙うので、みなさん後方に下がってゴールを守った方がいいですよ。」


「こんな場所からゴールが決まるわけねぇじゃねぇかっ!」


しばらく待ったが、毒島達のポジションに変化はないみたいだった。俺は助走に入って、いつも通りフリーキックを行う要領でボールに近づく。


「強豪校相手だったら…決まらないだろうな。」


相手がこちらを舐めている状況だからこそできる芸当。


「さっさと負けを認めて…諦めて…女どもと遊んでりゃあいいじゃ…」


そう口にして笑う毒島の頭上ギリギリを、白と黒のボールが鋭い回転と共に通り過ぎていった。


「はぁ…。」


そのボールは大きくゴールから外れ、右方へと逸れていく。しかし、急激な縦回転と共に左側へと軌道を一気に変える。


「…なっ!?」


そしてそのままゴールの左ネット近くでワンバウンドし、吸い込まれるようにゴールへと入っていった。




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