1.バス
こわい(かもしれない)話。
その日は部活が長引いた。
私の所属している◎◎高校の××部は、
関東でも有数の強豪チームだ。
強豪だからこそ、勝てるようにと練習は厳しくて
部活動が長引き、夜遅くなることも少なくなかった。
その時は地区予選が近付いていたから、練習にもより熱が入っていた。
気付いたら時刻は20時過ぎ。
田舎だから、バスの運行時間は少ない。
20時半の終バスに乗らないと家に帰れなくなってしまう。
学校から最寄りのバス停までは走って5分。
わたしは急いで部活を切り上げ、バス停にむかった。
バス停についてすぐに、バスがやってきた。
そのバス停からバスに乗るのは私1人。
私が乗るバスは駅とは反対方向だから、終バスに乗る人はほとんどいない。乗っていてもいつもひとりかふたりで、貸しきりのことも少なくなかった。
バスが停車し、乗降扉がひらく。
扉の正面にはスーツを着た男性客が1人俯いて座っていた。
その男性をみて、あ、今日は1人寝てる人がいる。
めずらしーなと思いながらバスに乗り込み、後ろのほうの席に座った。
そのバス停から家の最寄りまでは30分、揺れながら走り出したバスに眠気を誘われる。
部活で疲れていた私は、夢と現実の狭間を彷徨っているように、うとうとしていた。
―――――……ピンポーン
バスの降車チャイムが鳴り、はっとする。
やばい!いまどこだ?
うとうとしているとバス停の名前を聞き逃してうっかり乗り過ごしてるなんてこともある。
乗り過ごしてたら、ママにお願いして車で迎えにきてもらうか歩いて帰らなくちゃ。
そう思い、バスのアナウンスを確認する。
「つぎは~、△△丘~、△△丘~。」
よかった。次が私が降りるバス停だ。
ちょうど同じところで降りる人が押したんだ。
バス停に到着してバスが停まる。
眠気から覚めきらずボーッとした頭で急いで定期を出して、降車扉に向かう。あ、スーツの寝てた人どっかで降りたんだ。そんなことを思いながら「ありがとーございましたー」とバスの運転手さんに告げ、扉をおりて外に出た。
プシューと、扉が閉まりバスが発車する。
……あれ?
そういえば、私は降車チャイム鳴らしてないのに私しか降りないんだ。押し間違えたのかな?
そう思ったその瞬間
ズンッッ…
「えっ…?」
急に肩が重くなった。
さっきまでは全然なんとも無かったのに、唐突に。
意味がわからない。
重い…なんで…?
鳥肌が立つ。
とりあえず、家に帰ろう。
家までは歩いて5分。すぐに着く距離。
はやく、帰らなくちゃ…。
訳がわからなくて、怖くなったわたしは、歩き始める。
…また肩が重くなる。
1歩、また1歩と歩くたびに
肩が重く、痛くなる。
何これ?痛い…
いままで体験したこと無い出来事にパニックになる。
まさか、これは…幽霊…?
なんで…?
わたしに霊感はない。
テレビで放送される怖い話は好きだし、幽霊を信じてる人間だったけど、幽霊を視たことはないし心霊体験というものをしたことがなかった。
子供の頃に幽霊が視えていても大人になるにつれ段々視えなくなる人が多くなるというし、高校生になって急に霊感が開花するなんて聞いたことがない。気のせいだ。気のせいだ。
そう思うのに、肩は重くなる一方で、寒気と痛みで冷や汗が滲む。
そういえば、あのバスで降車チャイムを押したのは誰だ?
私が乗ったときに乗ってたのは1人。途中で人が乗ってくるようなバス停なんて無い。
そもそも、その1人のスーツの人はどこで降りた?
学校の最寄りのバス停から家の最寄りのバス停までいくつかバス停があるけれど、この時間に降りるバス停なんて…このバス停か1個前のバス停くらいだ。
じゃあ、1個前に降りたのか?
いや、そんなはず無い。
そのバス停との距離はそんなに離れてないしバスだと5分もかからない。降車チャイムが鳴ってたとしたら、きっとその時に目が覚めている。
でも、降りるときあのバスには…
そう、あのバスには誰も乗っていなかった。
そう思い至ったとき、わたしは恐怖に泣きそうになりながらやっとの思いで家に着いた。
リビングの扉を開けて、両親の顔をみて「ただいま」と告げ、次の瞬間わたしは肩の重さに耐えられずに膝を着き崩れ落ちるように床に手をついていた。
驚いたような顔をする両親。
次の瞬間ママが、怒ったような顔をして
「お前、なにを連れてきたの」
と言った。
わたしは、泣きべそをかきながら
「わかんない、痛い、たぶん男の人、痛い」
と言って、立てずにそのまま蹲る。
両親は視える人ではなかったけど、そういう現象を感じとる人だった。
パパは小さい頃に視えていて、だんだん見えなくなったと言っていて、ママは新婚の時に霊障だらけのアパートに住んでから感じるようになったんだと笑っていた。
だから、わたしが連れてきたであろうなにかを感じとったようだった。
厳めしい顔をしてママがわたしのほうに近付いてくる。
ママはわたしの身体を起こすと、両肩をバンバンっと叩くように払った。2、3度払われたあと、ふと肩が痛くなくなったことに気付いた。
「あ…痛くない…立てる…」
あんなに重く痛かった肩は、軽くなり痛くなくなっていた。
直前まであんなに痛かったのに。
肩こりやケガだとしたら有り得ない現象。
やはり、霊だったのかと怖くなったが、さっきまで感じていた重さと痛みがなくなったことにほっとして涙がでた。
「よかった、居なくなったんだ。」
ママがそう言って、笑う。
ママに祓える力があったとは思えないけど
娘を思う気持ちに幽霊が逃げたのかもしれない。
それから、その日は普通にご飯を食べていつも通りに寝た。
数日後、ふとその事を思い出して
「あれ、なんだったんだろ…」
とママに言うと
「さぁ?どっかから憑いてきちゃったんじゃない?■■の肩叩いたあと、ママは2日くらい肩痛かったし、結構しつこかったのかな」
と、何事もないかのように話していた。
さらっと肩痛くなってたことを告げられて、まじか…と思ったが、なんでもないように言うから、わたしは「そっかぁ…」と一言返した。
その日に特別なことをしたわけでも、心霊現場に行った訳でもないのに起きた不思議で怖かった思い出。
あれからも終バスに乗ることは何度もあったけど、あのスーツの人を見たことはない。
あれがどうして起きたのか、
なんだったのかは今もわからないまま。
おわり。
これは実話。 ぼやかしてちょっとフィクション混ざってるけど95%作者の実体験。
あれはなんだったんだろうな…。不思議。