結局こうなる……
バラ園の東屋で一人バラを眺めながらぼんやりしていた。
王妃陛下や殿下への挨拶の時、よく震えたり泣いたりしなかったなと、中々な図太さだなと、我ながらに関心した。
綺麗な薔薇の花々をぼんやりと眺めていると声をかけられた。
「バラが好きなのか?」
振り向くと、アルベルト殿下が立っていた。びっくりして立ち上った。
「あ…えと……」
驚く私に殿下は続ける。
「驚かせてしまったね。すまない。どうか楽にしてくれ。」
「無礼を申し訳ありません。殿下。緊張のあまり一息つきたく退席致しておりました。勝手な振る舞いをお許し下さい。」
気を取り直し、礼をとる。
「楽にしてくれ、あの様に噂話を耳にすると疲れてしまうのも無理はない。私も休憩をと思い来たのだ。少しの時間、共に良いだろうか?」
「ですが……」
「少しの間だけ。お茶を一杯飲む時間だけでいい。」
ふと顔を上げると真剣な表情で私を見ていた殿下。
回帰前の殿下はこんな風に誘ってくることは無かった。こちらから誘っても応じてくれることは無かった。
「やはり、嫌……だろうか……。先程急に声をかけて驚かせてしまったし……」
しゅん……と気を落とした様な殿下の姿を見て少し驚いた。
回帰前は初対面から断罪の時まで私のことを気遣うことは無かったはずだ。
むしろ困惑した姿を見て更に高圧的になっていた。その記憶が強いからこそ、今のこの、目の前にいる人が本当に同一人物なのかと驚いている。
「殿下からのお誘いをお断りすることはございません。恐縮してしまい申し訳ございません。よろしければこの美しいバラを鑑賞できるお時間を御一緒させていただきとうございます」
礼をとり、そう述べた。
いくら回帰前の記憶があるからといって王家の方のお誘いを断ることは余程がない限り不可能だろう。
これが彼と会う最後の一時になるはずだから、しばしの時間お茶を共にするくらい大丈夫だろう。
「ほ……本当か?ありがとう!緊張させてしまっただろう。気を落ちつかせるお茶を用意しよう!会場では食べずにずっと立っていただろう!疲れていないか?楽にして座ってくれ。」
返事に喜ぶ殿下と殿下の侍従が探しに来るまでの僅かな時間を共にした。
回帰前の殿下が今の様な殿下であればどれほど良かっただろうか。談笑しながらでも何処か暗く不安が蠢く感情の中での時間となった。
それから数日経ったある日、公爵へ王妃からとして、殿下と私の婚約を結びたい旨を伝える手紙と、殿下からとあの日共に鑑賞したバラの花弁で作られた栞がプレゼントされたのだった。
アルバート殿下
私は記憶の中の貴方と、現在の貴方との違いに驚き、恐怖し、結局は回帰前と同じく婚約をすることとなりまた同じことが起こるのだと絶望してしまいました。
それでも、現在の貴方から初めていただいたあのバラの栞は私にとって残された希望になりました。
これから起こることに立ち向かう力をくれました。
本当にありがとうございます。