公爵夫人
「奥様がいらっしゃいました。」
オリバーが戻ってくるなりそう告げた。
今まで部屋に公爵夫人が来たことはない。いや、夫人おろか家族の誰一人来たことは無かった。
産まれて初めてじゃないかしら?家族の誰かが訪ねてきたのって……
そう思いながらどうぞ。と返事をした。
「貴女が話をしたいと聞いたのだけど」
部屋のソファーに座ると同時に公爵夫人から声がかかる。
「はい。ですが、こんな屋敷の片隅に公爵夫人自ら訪問下さるとは思いませんでした」
「そういえば、どうして貴女の部屋はこんな片隅に?」
覚えてないのか……この人は……
子供の頃……それこそ弟が産まれる前までは公爵夫人の隣の部屋が私の部屋だった。弟が産まれ、地下倉庫に閉じ込められた後、案内された部屋がこの部屋だった。当時の侍女に聞いたら夫人からの指示があったと聞いている。
「ご子息様が小さい頃にわたしの近くで転んで怪我をしたことがありました。」
「あれは貴女が周りから可愛がって貰えない嫉妬であの子を傷つけたのでしょう!」
「今でもそう思ってらっしゃるんですね……。その反省の為に寒くて暗い地下倉庫に数日閉じ込めた後、ご子息や貴女方から離れて暮らす様にと言われました。今まで数年で私の姿を見たことはほとんど無かったはずです。ずっとここに居たから」
私のいるこの部屋は公爵一家とはかなり離れた場所に位置する。この部屋は家族が過ごすサロンや食堂には遠く、どちらかと言えば物置に近い場所にある。
日当たりもあまり良くなく、移動してきた当初は簡易のベッドと机しかなかった。
恐らくは当直の執事か侍女の待機室みたいな部屋だったんだろう。
「夫人がご子息様に会わせない様、ご配慮された結果でしょう?」
「貴女が反省すれば出すつもりで……」
「……話すら聞いてもくれなかった癖に。」
「えっ……?」
違う……私じゃない……。転んだ弟を助けようとした。その言葉を何度も何度も夫人に向かって叫んだ。でも届かなかった。振り向いて欲しくて呼んだお母様の呼び方も呼んだ瞬間に鬼の様な表情に代わり叩かれ打ち砕かれた……。
「……そんなことより、公爵夫人にお話したいことがございます」
「……私は貴女の母よ?公爵夫人なんて……」
「呼び方などとうにどうでもいいことではありませんか?そもそも私に父、母と呼ぶなと、そう命じたのは貴女ではないですか。」
「そんな……」
「そんなこと言ってない……は、通用しません。そう命じたところ公爵邸の使用人が聞いていました。ご子息様も幼いながら聞いていました。公爵様にも数日前お話致しました。そんなに容姿が似ていない、名前も忘れてしまうような他人の様な娘を育てるくらいなら捨てるなり、養子に出すなりすれば良かったのにと。」
そう話した途端、公爵夫人の表情が一段と険しくなった。
公爵もそうだった。こう吐き捨てた時に怒り出した。
名前を知らないのか忘れたのか……容姿さえ似ていない子供が産まれたせいだと思うなら最初から居なかったことにしてしまえば良かったのだ。
そう思ったことを口にしただけだったのだが……何がいけなかったのか……。
回帰前は処刑される時ですら形だけでも親として名を呼んで助けてくれると思っていた。結局は叶わなかったけれど。回帰前の記憶も相まって思ったのだ。死んで欲しいとあの場で願っていたならどうして殺さなかったのか……捨てなかったのか……。
評価いただきありがとうございます。
拙く、また1年でやっと10話の亀様よりも遅い更新でもブックマークや評価をいただけていますこと本当にありがとうございます!
まだまだ家族とのわだかまりが大きく暗いお話が続いていますがソフィアが幸せになれるように頑張りますのでこれからもよろしくお願いします。