結婚式で捕まりました。
8歳で第一王子アルベルト·クロステルド殿下の希望で婚約することになった。
11歳で妃教育が始まった。
12歳で王立学園に入学し、立太子の儀が行われた。この頃から殿下と逢う機会が減った。
16歳、殿下の横にいつの間にか可愛い女の子がいた。凄く可愛い。いや、めっちゃ可愛い。
彼女は男爵令嬢.カーラ·コルネリウス。
元は平民の出身だが男爵が彼女のお母様を見初め養女となったらしい。
ちなみに15歳。私達の1歳下だ。
婚約者のいる殿方に密着しすぎはよくないと注意するも聴いてくれず……。反省せず、最後は自分は悪くない、平民上がりだからといじめるなと泣き出す……。そして殿下他、彼女を可愛がる取り巻きが慰める。そして注意する側は悪者扱い。
これは正直面倒くさかった。
18歳、王立学園卒業。流石に卒業パーティではエスコートしてくれた。してなかったらこの時点で婚約破棄出来たのに……。あの時のカーラ嬢の表情……怖かった……。と、いってもファーストダンスの後はすぐに放置され、3曲近くイチャイチャくるくると踊り続けた殿下とカーラ嬢を食事をつまみながら観察していた。
人間観察って面白いよね。
19歳、殿下との結婚式。
婚約して以来ずっと大好きだった殿下から突き飛ばされた辛さは忘れたくても忘れられない。
そう、神聖な式の最中にそれは起きた。
「公爵令嬢ソフィア·アルマンディよ!私、王太子アルベルト·クロステルドの目を盗み、我が友人カーラ·コルネリウスの殺害を企てた罪で捕縛する!」
誓いのキスの瞬間突き飛ばされ、捕縛された。
何が起こったのかしばらく分からなかった。
「今日、この場での捕縛は陛下およびアルマンディ公爵の周知の事実だ。カーラ嬢は昨夜暴漢に襲われ、足を骨折し、現在治療中だ!貞操の危機に至らず私に発見されたがその心身の傷は計り知れない。暴漢共が逃げた場所にソフィアの髪飾りが落ちていたのが主犯である動かぬ証拠だ!
よってソフィア·アルマンディを斬首刑に処し、新たに王太子妃をカーラ·コルネリウスにする!また、カーラ嬢は公爵家アルマンディの養女となることが決定している。」
何を言われたのか全く分からなかった。やっていない罪で処刑される?誰が?私?両親も了解したと言っていた。ほんとに?陛下も?呆然としながらゆっくり両親の方へ顔を向けた。両親も陛下も何も言わずただ頷いた。
「連れて行け!」
弁解の機会すら与えて貰えず矢継ぎ早に衛兵に捕縛、連行された。
牢に押し込まれ少しずつ冷静になってきた頭で今起こった騒動を思い返す。
そもそも私たちの婚約は王家から、元を辿れば殿下たっての希望と申し込まれた婚約だ。
婚約破棄は身分が高い王家が正しい手順を踏めば好きにしたらいい、が、神聖な結婚式で……というのは納得行かないし、私自身の気持ちを蔑ろにしたことは許せない。
私が暴漢をカーラ嬢にけしかけたその証拠はなんだ?髪飾りだと言っていた。……そういえば殿下から送られた物の一つに小さな花を見立てたダイヤを散りばめた髪飾りがあった。式で付けたかったが失くなっていて探して貰っていたし、殿下にも伝えていた。
え……?まさか……それ?と、いうことは我が家の誰かが盗んだのか……。
カーラ嬢が公爵家の養女となったときこえた。
そもそも普通の考えなら暴漢·障害事件を起こした娘がいた家に養女に出すのは被害者の彼女にはリスクが高いこと。私個人だけでなく公爵家として起こした可能性だってある。それなのに誰も否定しなかったし、私個人が断罪される以外公爵家自体は1つもお咎めなし。普通はありえない。……が、あの両親なら王家と結託して私だけに罪を被せることは容易だろう。
元々両親は私のことに無関心だった。
両親とも違う髪、違う瞳。自分達と違う容姿だからと物心ついた時には離れの館で最低限の使用人に囲まれ生活していた。父、母と呼ぶことさえ許してもらえなかった。
最初は優しくしてくれた使用人も両親に弟が産まれると私のことを見なくなった。毎日1食、朝にサラダとパンがくるのみ。離れに暮らしていた私は弟と会うこともほとんどなかった。
王太子の婚約者に選ばれてからは使用人達が以前と同じように最低限の身なりを整える世話をしてくれていた。が……関係は希薄なままだった。
そりゃー盗品の1つや2つはあるはずだ。
「次期王妃を育児放棄ってよく考えたらただのヤバい家だわ。外面の良さに騙されすぎ」
それでも殿下に贈り物を貰って、お茶会をして、優しい言葉をくれて……好きになって……たとえ学園でカーラ嬢を連れていても結婚したら大事にしてくれると思っていた。
「我ながらなんて愚かな……」
想い続けた理想な日など待てども来ることはなかった。
10年を無駄な時間に感じた。涙は出ない。きっと両親からの愛情が得られないのと同じように殿下からの愛情が向けられていないことも気づいていたのだ。
気づいていて気づかない振りをしていたんだろう……。今は恋慕よりも悔しさや憎しみしか心にない。
「ソフィア様ー!」
甲高い声がきこえ、牢の扉が開いた。
「ソフィア様?今、どんな気分です?悔しい?」
「貴女、怪我したんじゃないの?」
「あはっ。あれは殿下と考えた嘘でーす!貴女信じたんですか?」
「一瞬ね、今はやっぱりかと。何故こんなことを?」
疑問を問うとカーラ嬢は笑って言った。
「だって殿下と一緒になるには貴女が邪魔なんですもの。殿下も貴女が目障りだって言ってましたしぃ。」
「そう……」
「明日、楽しみですね!処刑!それじゃあまた明日お会いしましょ!ソフィア様?」
カーラ嬢は満面の笑みを浮かべ牢を出て行った。
カーラ嬢が出た後、殿下の側近をしていた近衛隊のジェラルド・フォードが入ってきた。彼は一族を軍部に多く輩出している辺境伯家の次男だ。
「ソフィア·アルマンディ元公爵令嬢。
貴女を明日正午に斬首刑に処すると、国王陛下ならびに王太子殿下より公表がなされた。罪状は殿下のご友人であり、恋人のカーラ·アルマンディ公爵令嬢への殺害容疑及び障害事件の実行犯である。何か釈明はありますか?」
「その釈明の場が公式的に与えられなかった時点で私の罪は確定していると言って間違いないでしょう。
で、あればフォード卿に最期の頼みがありますが聴いていただけますか?」
ジェラルドはしばらくこちらを見つめゆっくりと頷いた。
「構いません。処刑終了後、殿下へ伝えましょう。」
「ありがとうございます。フォード卿。では一言お伝え下さい。」
ゆっくりと立ち上がりボロボロのドレスを軽く整えると、カーテシーをして一言、伝えた。
「10年間を無駄に過ごさて下さり感謝しております。次は絶対に貴方を愛することはないので御安心下さいませ。アルマンディ公爵令嬢とどうぞ、地獄の果までお幸せに。」
そう発すると顔をあげ、ジェラルドを見た。
発言を聴き呆然としたジェラルドをふと気がつき、
「確かに伝えましょう」
騎士の礼をとり返事を返した。
私の発言は不敬にあたる。この場では了承されてもきっと本人には伝わらない。それでも構わない。やつらが地獄へ落ちるなら。
「それでは明日、正午お迎えにあがります。」
「よろしくお願いします」
明日、処刑される……。