表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/6

ちーちゃん五さい!

 スイングドアを開けて、今日も冒険者ギルドに誰かがやってくる。

 魔物に襲われる村を救って欲しいと頼む依頼者か。

 それとも食い詰めた冒険者志望の荒くれか。

 もしくは、希望に目をキラキラさせた新人か。


 冒険者ギルドの受付嬢が入り口に目を向けると、そこに立っていたのは奇妙な三人組だった。

 獣人と思われる毛深い筋肉質の大男。見た事の無い八本脚の魔獣。そして幼女。


「テイマーかしら? あの獣人もかなりケモ度が高いわね」


 三人組の素性を訝しむ受付嬢。三人が受付カウンターに近づいてきた。


「すいまセン、冒険者登録お願いシマス。三名デス」

「あなたがリーダーなの?!」


 見た事の無い種族に思わず声が出る受付嬢。嬢と呼ぶには少しトウが立っているのだがお局とは呼ばせない。


「冒険者ギルドは『登録は受ける、いつでも、どこでも、誰とでも』を旨としているけど流石にその子は」


 ちらりと子供に視線を向ける。


「ちーちゃんはね、いしのちひろっていいます!」

「あ、ありがとう。登録はしても良いのよ。でも、割り振られた仕事ができないと、いろいろと困ったことになるのよ?」

「五さい!」


 手をパーの形に広げて年齢をアピールする千尋。もう年長さんになったのだ。お姉さんなのだ。困る受付嬢(29歳)。


「チヒロが私たちのリーダーですカラ、登録できて欲シイです」

「この子がリーダーなの?!」

「年齢、性別、種族に出身地、実力さえあれば前歴を問わないとルールブックの14ページに書いてあるハズです」

「あなた詳しいのね」

「二周目ナノです」


 何を言っているのかはわからないが必死にスルーし、登録用紙を机に並べる。


「おすすめはしませんが、お二人がこの子をサポートするというのなら登録自体は構いません」

「ダイジョーブ。三人であっという間に稼ぐヨ」

「では、ここにお名前と得意とする役職を記入してください」


 顔を見合わせるトッピョイとアウグストゥス。


「私はたぶん書ける気がするが、字を書いた事が無い。ペンをうまく使えるだろうか」

「ワタシもアナログはちょっと」

「ちーちゃんかけるよ!」

「お願いしまス」


 なんと五歳児に代筆を頼む事になる。

 ひらがなが上手と幼稚園の先生にも褒められたちーちゃんは、鼻の穴をフンスと広げながら、『ごりらのあうぐすとす』『ふうせんのとっぴぉい』『ちーちゃん。5さい』と書く。

 大丈夫なのかと慄く受付嬢(29歳)の困惑は深まるばかり。


「それでは、こちらの水晶球っぽい物に触れてください。魔力を計測して適性のある職業を表示します」


 カウンターの下から取り出された小さく光る球体。アウグストゥスが大きな掌で包み込むように触れると、閃光が受付嬢の網膜を焼く。


「目がぁ! 目があぁぁぁ!」

「なんだ! 何があった!」


 カウンターの奥から他の職員たちがやってくるが、そこにあったのは目を抑えてヨロヨロと倒れこむ受付嬢と、『勇者』と表示された水晶球だった。


「ギルドマスターを呼んできます!」


 駆けだすギルドの若手職員。ざわざわと騒がしくなる冒険者ギルド。


「ちーちゃんもやりたい!」

「あ、いや、ちょっと待ってください!」


 職員の静止も間に合わず、水晶球にぺとりと触れるちーちゃん。再びの閃光。表示される『聖女』の文字。


「ギルド本部に連絡します!」


 駆け出すギルドの若手職員二号。酒を飲んでいた者たちも、これから冒険に出かける準備をしていた者たちも集まってくる。


「せっかくナノデ私もやってみまス。前はお城の聖騎士がチヒロの護衛してたし、魔道具作りに忙しかったカラ登録はしてナカッタのよネ。ちょっと楽しみデス」


 ぐにゅると触腕で水晶球を握る。ダララララと流れるドラムロール音。


「なに、この音?!」

「聞いた事ないぞ!」

「なんだ、いったい何が起きた!」


 呼ばれてやってきたギルドマスターも初めての出来事をただ見守る事しかできない。

 水晶玉の中では三列のリールがぐるぐる回り、サクランボの絵柄や『7』と書かれたプレートが激しく回り、タテヨコ三列、九つのマスが全て7で埋め尽くされてゆっくりと止まる。 

 何が起きるのか、ごくりと唾を飲み込みながら覗き込む職員たちの前で、水晶球には適正職業の一覧が表示された。


 戦士

 侍

 僧侶

 魔法使い

 司教

>火星ふ


「なんなんだ、今の演出は!」

「前衛にも後衛にも適性があるだと……」

「何、『火星ふ』って」

「メイドですネ。私、これにしマス」


 勇者、聖女、メイドのパーティが誕生し、意気揚々と薬草採取の依頼を受けて出て行った。残されたギルド職員は呆然と見送るだけだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ