第三話 無常なる悪魔の眷属
気がついた時、目の前に浮かぶのは白い天井。殺し屋時代、よく世話になった施設で……この天井を目にしているということは自分は死んでいはいないのだろう。
記憶にあるものと似てはいるが確かに違う。そんな違和感を感じながら視線を動かして光源へも目を向ければ、淡く白に近い翠色の光源が目に入った。
──なんだ、珍しい色だな……
ぼんやりと未だはっきりとしない頭でも自分が医療施設にいることは理解出来た。今までに何度もあったことで、今となってはすっかり慣れた光景だ。
無論、違うところはいくつもあるが、施設によっては設備も異なるのだろう。ましてや彼は世界に勢力を持つ殺し屋組織の人間で、医療を受けている国が違うことも珍しくなかった。
──しかし、緑か……
とは言え大抵の場合、光源は白が基調となっている。他のパターンとしてはそもそも光がないこと、あるいは炎や火が唯一の光源だったこともある。
それに比べればまだいい方だろう。そう思いながら、ゆっくりと頭を動かして周囲を見渡す。
見たこともない医療設備。素人目とは言えどそれなりに目にする機会が多かったカルアならば、それが大方どのような用途で使用されるものかぐらいはわかる。
しかし今の彼が寝かされた部屋に用意されている医療機器は見たこともないようなものばかりで、面影があっても確かに違う。
──何だ、古いと言うよりは……
医療設備が揃っていない施設に世話になったこともある。無論、そのような場所では設備は殆どが揃っておらず、あるいはかなり古い型のモノを使っていることもあった。
それに対して視界に映る設備は真新しく、そして彼が知るものよりも発達しているように見える。最先端の医療を受けたこともある身からすれば、あまりにもその技術は飛躍しているようにも感じた。
──それに、何だか身体が軽いような……
寝かされていると言う割には背中側に重さを感じず……しかし反対に腕や足は何か抵抗があるように動かしにくい。
「──っ!?」
──直後、思わず目を見開く。そうして漸く、気がついた。
自分が置かれた環境、何があって、何をしてきたのか。
──そうだ。一度、死んだのだ。そして新たな生を受けて……それから、それからまた死んだのだろうか。
──違う……
重い抵抗を感じて腕を動かす。目の前に手を翳し、頭を動かして、周囲を見渡し……そうして、自分が液体の中に入られていることに気がつく。
瞬間、パニックになったと思う。──よく覚えていない。一、二秒ほどの記憶がない。
ただ一瞬の間に、振り回した腕に何かが引っかかって、それを無理やり振り払って……直後に溺れているかのような苦しみで意識が眼前に覚醒した。
どうして先程まで意識のない時は大丈夫だったのか。そんなこと考えている余裕もなく、ただひたすら肺の中に入り込んでくる液体をどうにかしようともがく。
──ここから、出ないと……!
繰り返し繰り返し自分が入れられている医療容器を内側から叩き、それでもガラス張りに見える容器はびくともしない。
──そうだ! 魔法だ、魔法が使えた……!
手元が光ったかと思えば、その次の瞬間には思わずつんのめる。全身を流すような勢いで吐き出された水流に乗ってそのまま床に投げ出され、途中で手足に繋がられていた管が引っ張られて痛む。
「ゲホッ……! ゲボッ……!」
濡れた地面を殴りつけるように手をつき、身体を起こす。上手く力が入らずに手が滑り、また地面に身体を打ちつけてもすぐに手をついて上体を起こした。
口に入った水を吐き出しながら、身体に繋がられている管を抜き取る。全ての管を抜き取る頃、漸く落ち着いて周囲を見ることができた。
自身が入られていた容器は、元いた世界では空想物語でしか見たことのないものだ。
てっきり横になっているものかと思っていたが、それはフィクションでよく描かれるように縦に置かれている。
その実、一際太い管とその先端に付けられたマクス。恐らく先程手足を動かした拍子であれが口から外れて、中の薬液が口内へと流れ込んでしまったようだ。
「……やらした、のか……?」
どう考えても内側からぶち破ってよい代物ではない。目が覚めてもそのまま大人しくしておけば、然るべき治療を受けたのちに出してもらえただろう。
それが見るからに高価そうな医療用カプセルを破壊した挙句、部屋は薬液で水浸しになってしまった。
ペタともビチャとも取れる音を立てて裸足の足で身体の向きを変え、恐らくは出入り口のあるで方へと向き直る。
自身の身体を見下ろせばどうやら裸と言うわけではなく、肩から膝までにある患者服を着せられていた。
──どうする……?
──ナースコールがあるようには見えないが……
部屋の中を見渡しても医療機器以外はこれといったモノは置かれておらず、言うならば殺風景だった。──と、その直後、扉が開き反射的に跳び退く。
「…………」
手元が光ったかと思えば影の立ち昇る黒刀が現れる。ゆるりとそれを片手に扉の方へと向き直り、そうすれば目の合った人物が拳銃を向けていた。
──この距離は不利か……?
──いや、十分弾丸も避けられる……
生前から弾丸を避ける術は身につけていた。それに加えてこちらの世界に来てからは身体強化の法術によって、動体視力と反射能力は共に跳ね上がっている。
視線の動きや指先の動き、僅かな変化から予備動作を読む。今までのやり方は避けると言うよりは外しているだけで……しかし、今の彼ならば弾丸を目で追い、後手に回ったとしても避け切れる。
刀を両手で握って重心を低く、いつも通り相手の目を覗き込む。僅か揺れも逃すまいと集中し──直後、その人物が徐に銃を下げた。
「落ち着いてください。私は敵ではありません」
落ち着き払った声で、その女性は拳銃を床に置いて手を上げる。無防備を晒すようなその行為を目の当たりにして、それでも愚かと断ずることはない。
彼女もそれなりに場数を踏んでいるのだろう。彼がその佇まいから分かるように、彼女もまたカルアの力量を一目見た時から把握している。
「……わかった……」
例え銃を持ってしても彼には勝てないと、そう理解しているからこそ話し合いに持ち込んだ。無論、戦うつもりのない人間を問答無用で切り捨てるほど、カルアも人を捨てていない。
「武器を手離してはくれませんか?」
「…………手放さなかったら、どうなる?」
「この部屋に様々な兵器が設備されています。患者が暴れ出した際、それを抑えるために床には電流を流す装備が、あるいは扉を閉めれば麻酔ガスを充満させることも可能性です」
「俺ならそれよりも早くアンタを殺せる」
「それは意味ないことです。この後の廊下は封鎖されており、貴方が危険でないことが証明されるまで開きません」
「廊下も、同じ設備が常備されていると?」
無言で頷く女。実際、強行突破するのは可能だとは思わないが……いくらか思考を巡らせてもそれが得策だとは思わない。
少なくともここの人間はカルアを治療し、そして対話を試みている。──そもそも、殺されるかもしれない相手へ彼女が送られたと言うことは、この女の生死は組織にとって大事ないのだろう。
「ああ、わかった……」
手にした刀を放れば、それは影と化して跡形もなく消滅した。カルア自身まさか消えるとは思わなかったが、果たしてそれで武装を解除したと思われるかどうか。
「ご理解のほど、感謝いたします」
一つ頭を下げると女は手に持った荷物の一つを手渡してくる。
「ゲーム開始時点で貴方が身につけていた衣類にまります」
それを受け取って中身を確認すれば確かに彼女の通りであり、有難いことにボロボロだったはずの衣類は真新しい物に交換されていた。
「助かる」
「それでは私は部屋の外で待っていますので、着替えが終わりましたらお声かけください」
一つ頷くと解放された扉はそのままに、女の姿は角に隠れて見えなくなる。扉は閉めないとかと疑問に思ったものの、それでは声をかけてもわからないのかもしれない。
これだけの設備が整っているのなら部屋の中から廊下への通信手段もあっていいと思うが、あるいはもっと違う理由があるのだろうか。
──いや、考えても仕方ない……
今は言われた通りに着替えを済ませる。中に入っているのはゲーム開始前、魔女ルルから与えられた独特な衣装。
白いワイシャツに黒いネクタイ、黒いスーツベストその上に羽織る独特な形状のロングコートだ。肩口の前半分以上が切り開かれ、振袖になっているロングコート背中側に描かれるのは白一色の十字剣。
「袖は、邪魔だな」
いっそのことロングコートは置いていくかとも考えたが、ふと目に止まった肩口を見てその考えは保留にする。
前半分以上が切り裂かれた肩口、そこから袖には腕を通させずに羽織り直す。そうすれば振袖部分は肩の後ろ部分から垂れ下がるのみで、そうすれば殆ど邪魔には感じなかった。
──あとは、ワイシャツの腕を捲って……
左右ともに肘よりも上までシャツの腕をまくる。それなりに動きやすい格好になったと一人満足気に頷くと、部屋から出るように足を踏み出した。
「お待たせしました」
着替えを終わらせて言われた通りに部屋の外で待つ女に声をかける。そうすれば彼女はカルアを一瞥、ただそれだけで一つ頷くと付いてくるよう促させた。
「一つ、聞いてもよろしいでしょうか?」
「はい、なんでも」
前を歩く女性にそう尋ねれば、彼女は快く頷いてくれる。
「魔女ルルは、どこに?」
「…………」
彼が発した質問は単純明快で、しかし不自然な間が開く。
「……彼女は、こちらで身柄を確保しています」
直後、女が足を止めてその腰に手をかけた。ゆるりと動いたカルアが女の横に立ち、拳銃を抜こうとする彼女の手を抑えている。
「彼女を、どうするつもりだ?」
「…………悪いようには、致しません」
ジロリと動いた瞳が女を見る。強く殺気立った視線、こんなゲームの運営側に立っていれば何度となく見てきた目だ。
人を殺すことになんの躊躇いもない者の目。感情を切り離し、目的を達するために非常に徹した者特有の気配。
「誤魔化すな。彼女を、どうするつもりだ?」
「本来、我々は遊戯参加者を匿うことも珍しくありません。こんなゲームに参加する者は少なく、失えば簡単には手に入りません」
死を題材とした遊戯。敗れれば文字通り命のないデスゲームで、参加したいと思う者、参加しても継続する者などそうそういない。
そんな中で継続してゲームに参加してくれる者達は彼等にとっては貴重な存在であり、参加者がいなければ当然だが運営自体の存在も危ぶまれる。
「しかし、何事にも例外はつきものです。参加者の中には犯罪者や、あるいは前科を持つ者も少なくないですが……彼女はその存在自体があまりにも危険」
「それで、どうする?」
「詳しくは分かりませんが、然るべき場所につきるつけるでしょう」
「…………」
そこにきて、男は無言のまま腕を退かす。彼女は組織の末端、詳しいことを聞きたければもっと上と話す必要がある。
「ご理解いただき感謝いたします。その件も含めてこの後、話し合いの場を設けていますので」
どうぞ、と促せるまま女の後を追う。その道中、少しばかり魔法を練り、感覚を確かめる。
──やっぱり、か……
念の為、確認しておいてよかった。そう思わせるのは、この建物内で魔法が使えなかったからだ。
「こちらです」
暫く建物内を無駄に遠回りして辿り着いたのは、無骨な扉の前。前に立つだけで、無数の粒子が動くようにしてそれはカルアの前から失われる。
「どうぞ」
促されるまま、室内へと足を踏みれた。上質な長椅子と長机が用意されていて、その前に巨大な液晶板が見える。
案内役の女性は椅子に座るよう促されるが、カルアは立ったまま液晶版へと向かう。
「…………失礼致します」
どうしても席には着かない様子のカルアを見て困った表情を浮かべたものの、しかしそれ以上の言及はなく彼女は部屋を後にした。
間もなく同じように扉が閉まり、ゆるりと見上げた先、液晶版がゆっくりと光を放つ。
『まずは、歓迎しよう。異界の勇者が一人、カルア』
液晶版は未だ淡い光を放つだけで声が聞こえる。どこか雑音の混ざる無機質な声を聞き、目を細めたカルア。
『これほど強い敵意、久しぶり感じたよ。──穏やかじゃ、ない』
ジジジッと画面が明滅したかと思えば、画面に映し出されるのは枷に繋がれた魔女の姿。それを目にした時、カルアは腹の底から湧き上がる冷たい感情を知った。
『私は君の質問に何でも一つ答えよう。無論、流石の私でも異界関係のことは知らぬことも多くてね。それでもこの世界では最も知識ある者と自負しているつもりで、何かしらの助言は出来るだろう』
声の主は暗に言うのだ、カルアの幼馴染に関しては満足は答えは出せないと。──そして、この世界に於けること……魔女のことであれば、十分な答えを与えられると。
「…………俺が聞きたいことは、ただ一つだけ」
『ほう?』
大きく息を吐き出して、ゆっくりと言葉を絞り出す。
「魔女のことに関しては?」
『何が聞きたい? 彼女の居場所か? それとも彼女の身に起こることかい? あるいは、彼女の出生やその目的かな?』
室内に暴風が爆ぜ、机を叩き割り、長椅子を砕いた。
「言っただろう?」
傲慢など緩慢な動きで足を動かし、魔女の映る液晶版に手を乗せる。
「彼女はどこだ?」
カルアの言葉を受けて、姿の見えない筈の存在が口元を歪めて笑ったように感じた。
『そこに映されている通りだ』
液晶版に映された簡易的な地図に、現在地と魔女の囚われいる施設の位置が示されている。それを目に焼き付きて、カルアはグッと指に力を込めた。
蜘蛛の巣状に広がる亀裂が液晶版を破り、それは本来の機能を失ってただ明滅するのみ。
「覚えておけ」
突き刺さった指を引き抜き、その手を天へと翳す。間もなく耳を劈くような破壊音が轟き、風穴の空いた天井から外界へと飛び出した。
「貴様が何者であれ、どこにいようとも……敵対するなら、そこから引き摺り出してこの手で始末してやる」
『面白い。私に挑み、果たしてその目的を果たせるかな?』
背後から聞こえる声に振り返ることなく、カルアは夜の闇の中へと駆け出した。
間もなく目的の建造物が見えてくる。割れたネオン管が不気味な雰囲気を醸し出す建物で、その目の前に辿り着くとゆるりとそれを見上げた。
一瞬、刀に手を置いたものの得物を手にすることはなく、その場にしゃがみ込むとシャッターに手をかける。
鍵がかかっているのか、錆びついているのが原因か持ち上がらない。それにも構わず、身体強化の魔法に加えて更に力を込めた。
砕けるような音に続き、硬いものが引き裂かれる音が静かな暗闇に木霊する。腰の高さで一度止まったシャッターを更に持ち上げ、そして原型の失った鉄の板が残るのみ。
「…………」
無論、普通に扉もあるのだがそれもまたゆっくりと手をかけると軽く押し込む。枠が歪み、ガラスが砕け、そして続くのは金具が弾けるような音。
割れたガラスを踏み締めて、ゆるりとカルアが内部へと足を運ぶ。
光の入らない暗い室内で、しかしカルアの目には十分以上の明るさがあった。身体強化の魔法は夜目にも効果があるのか、生前使っていた暗視ゴーグルよりもよく見える。
──右……!!
無数の魔法陣を展開。その一つに手を突き刺し、抜き放つと同時に現れたのは無骨な拳銃。──直後、無数の光が的確にそれぞれの魔法陣を貫く。
飛び退くように大きく跳躍、一呼吸の間なく三つの魔弾が光が放たれた方角へと放たれる。
人影が動くような気配。──その直後、光沢を持った人型の影が闇の中から飛び出す。
金属製の身体、無機質な眼球。反撃に突き出した刀の切先が首にあたり、甲高い音を立てて弾かれる。
「ぐっ……!」
一瞬怯んだカルア目掛けての体当たり。威力を殺すこともできずに大きく弾き飛ばれた男が鉄の壁に叩きつけられる。
──身体強化のお陰で助かったが……
肉体の強度が跳ね上がる身体強化。未だ痛みは残るものの、交通事故にあったような衝撃を受けてもなお問題なく立てる。
普通の人間が食らえば一撃で骨を砕き、内臓にまで達するほどのダメージだろう。素早く視線を動かし、機械人形を見つけるとカルアもまた屋内を縫うように駆け出した。
物陰から素早く拳銃を打ち込むも、金属の身体は火花を散らしてそれを弾く。
──それなら魔弾だ……
握り込んだ拳銃に魔法陣が浮かび上がり、膨大な力が溢れ出す。それを構えて……刹那、機械人形が大きく跳躍。そのまま天井を突き破って姿が見えなくなる。
「チッ……」
奇抜な動きだが、確実にカルアの視界から消えた。
気配を追って天井へ三発打ち込むが手応えがない。
──なんて動きしやがる……
何よりもどうしてあんなモノが用意されているのか。明らかなカルアへの敵意、あれでは魔女が無事かどうかも怪しい。
「いや、落ち着け……」
一刻と早く魔女の安否を確認したい気持ちが焦るが、冷静さを欠けば追い込まれるのはこちら側だ。
──まずは弾を補充……
また残ってはいるが、図らずとも一息つけた今のうちに再装填しておくべきだろう。他にも収納魔法の魔法陣からいくつか装備を取り出すと素早く身に付け、刃先が欠けた刀を取り替える。
──装甲が硬い、雑な攻撃は通らない……
それに相手は機械と言うこともあるのか、いまいち気配が追いずらい。加えて向こうは様々は感知器官が付いるているはずだ。
「いや、何の問題もないだろう」
刹那、閃光が走った。刀がゆるりと動けば無数の弾幕を切り裂き、打ち付けるようなけたたましい音も一瞬の後には静けさが戻る。
──悪魔の眷属がコレか……
身に覚えのない感覚が身体に染み付くような感覚、脳裏に浮かぶ光景をなぞるように刀をゆっくりと動かす。
迫る弾丸に触れるように切先が当たり、存外軽い感覚と共に弾は自ら逸れていく。
殺し屋時代、実弾を躱す技術は持っていたがここまで卓越した技量はなかった。──いや、かつて裏社会で目にしてきた数多の猛者を含めてもきっと、今のカルアには敵わないだろう。
「…………」
素早く拳銃を引き抜くと発砲、放たれた弾丸は寸分の狂いもなく機械人形の頭を捉える。激しく動き回る敵を相手に当然のように命中する精度は驚嘆に値するが、生憎とその装甲を貫くには至らない。
──棒手裏剣……
懐から鈍く輝く棒手裏剣を取り出す。
──方術による強化を腕に集中……
──不要な力は抜き、狙うのは……
強靭な腕が唸り、何かが弾けるような音を立てて棒手裏剣を打ち出す。それは建物内の障害物を縫って、未だ素早く移動する機械人形の足首に突き刺さった。
埒外の膂力で放たれた棒手裏剣は正確無比に足首関節、その甲冑の隙間に入り込みながら奥深くに突き刺さった。
──魔弾装填……
先の拳銃を投げ捨てるようにして放り、懐から取り出すのは回転式拳銃のマグナム。素早くシリンダーを裏返すようにして既存の弾丸を抜くと同時、無数の光線がカルア目掛けて飛来する。
──落ち着け……
──焦ることはない……
音すらも置き去りにして迫る無数の弾丸。しかし方術によって強化された目にはその全てを確実に捉えていた。
──動きを最小限に、素早く再装填……
懐から取り出したのは幾何学模様の刻まれた弾丸。半歩右へ身体をずらして迫り来る光弾を躱すと同時、六つあるシリンダーに三つの魔弾を装備。
──足りないか……?
「いや、十分」
手首を捻るようにしてシリンダーを戻すと同時、その目が機械人形を捉える。足首を破壊されて、棒手裏剣が刺さっていることでその動きは鈍い。
目を細めたカルアの眼前、光弾の一つが射線を塞ぐように迫っていた。
身を翻し、弾幕を潜り抜けるように前方へと高速移動。踊るように閃く刀を振るい、無数の光を切り裂き射線を開く。
「一つ」
白紫の火花を散らして魔弾が放たれた。狙うのは壊れた足首と逆側の膝で、魔弾は寸分違わず機械人形の膝を貫き、その鉄身体が地面に投げ出される。
「二つ」
銃身に魔法陣が浮かび上がり、その威力を底上げするように淡い光が漏れ出すと同時。──ゆるりと構えた銃口から放たれた魔弾が赤く光るその目を捉える。
着弾と同時、眩い閃光と共に紫電が爆ぜた。生身の人間であれば頭部が消し飛ぶような威力を秘めていたはずの爆雷を受けてなお、その機械人形はぎこちない動きで地面を這っている。
「終わりだな」
ダラリと刀と銃を下げたまま無造作に機械人形の眼前に歩み寄るカルア。そんな彼を見上げるように顔を上げた機械人形の眼前、刀を地面に突き刺すと首を掴み上げた。
普通であれば決して持ち上がらない鉄の塊。それも方術によって強化された規格外の剛腕をもってすれば、まるで小枝を掴むように軽々と持ち上げられる。
未だなお無機質に光る片目を睨め付けて、カルアはその額に拳銃を突きつけた。
「…………」
眉間に突きつけた拳銃の位置を変え、その銃口を残った赤目に突きつけ、引き金を引く。今度は電撃は使わず、強力な魔弾はそのまま機械人形の頭部を吹き飛ばした。
ガシャンッと音を立てて頭部のない機械人形を放り投げ、地面に突き立てたままの刀を引き抜く。遅れて地面に散らばった装備をいくつか回収すると、建物の奥を目指して再び歩を進む。




