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ニセモノ花嫁は真実の嘘をつく  作者: シェリンカ
第二章
8/32

 翌朝、リリーアが身支度を整えて階下にある食堂へ降りていくと、フィオレンツィオとドナテーノはすでにテーブルについていた。


「おはようございます」

「おはよう」


 柔らかそうな金髪に寝癖をつけたフィオレンツィオは、今日も笑顔だ。

 皿に盛られた硬そうなパンをちぎりながら、具がほとんど入っていないスープをかき混ぜている。


 かたや、ドナテーノのほうはいかにも寝不足といった雰囲気で、恨みがましくリリーアを見つめる。


「……恨みますよ」

「――――!」


 昨夜から今朝にかけて、いったい何があったのか、知りたいような知りたくないような気持ちになる。


「すみません……」


 よくわからないながらも、謝ったリリーアに、フィオレンツィオが彼の隣の席の椅子を引いてくれた。


「どうぞ」

「ありがとう」


 他の宿泊客もいるので、姫らしくふるまわなければと心しながら返事をすると、フィオレンツィオは満足そうに微笑む。


「このパン、面白いですよ。噛んでも噛んでも飲み込めないのです……こんなに硬いの、初めて食べました」


 愉快そうにフィオレンツィオが差し出してくれたのは、リリーアにとっては珍しくないいつものパンだ。

 つい昨日も、カルンの町の男が差し入れてくれたのを昼食に食べた。


「ありがとう」


 受け取って、指に力を込めて引きちぎろうとしていると、背後から声をかけられた。


「はい、おまちどうさま。卵と燻製肉ですよ。朝からこんなものを追加注文するなんて、お客さん、豪勢ですね……今日はお祝い事か何かですか?」


 料理を運んできてくれた老婦人だった。

 フィオレンツィオが笑顔で振り返る。


「いや、そういうわけじゃないが、これだけじゃメインがないだろう?」

「…………」


 そういうものは、そもそも庶民の朝食には存在しないと、リリーアは冷や冷やしながら聞いていたが、老婦人の反応は想像を超えて大きかった。


「ベルトランド陛下!」


 手にしていた皿を放り投げ、その手で口を覆いながら叫ぶ。

 フィオレンツィオがとっさに皿を受け止めたので、料理が床に散乱することはなかったが、食堂中の注目を集めてしまった。


「なんだって? 前国王陛下?」

「本当だ! 硬貨に彫られているのと同じ顔だ!」


 フィオレンツィオを見た宿泊客たちが口々に叫び始め、食堂は混乱に陥る。

 ドナテーノは「あーあ」といったふうに天井を仰いだ。


「え? ……え?」


 リリーアは驚いて、フィオレンツィオと宿泊客たちを見比べるが、フィオレンツィオ自身はあまり動揺したふうはない。

 困ったように、かすかに眉根を寄せている。


「いや、ベルトランドは祖父で、俺は……」


(祖父!?)


 リリーアが心の中で叫んだ時、ドナテーノが素早く立ち上がった。


「お世話になりました。お代はここに置いておきます。お釣りはいりません」


 テーブルの上に紙幣の束を置くと、まとめて足元に置いていた荷物をさっと肩に担ぎ、片手でフィオレンツィオの腕、もう片方の手でリリーアの腕を掴み、宿の出口へと向かう。

 リリーアは何とかそれについていった。


 宿の裏の厩舎に預けていた二頭の馬に、鞍を乗せると、ドナテーノはフィオレンツィオを促す。


「さあ、行きますよ」

「ああ……」


 先にリリーアを馬に乗せて、自分も乗りながら、フィオレンツィオは残念そうに呟く。


「美味しそうなオムレツだったのに……食べられなくて残念だ」

「誰のせいだと思っているんです」


 忌々しげに言いながら、大通りへと栗毛の馬を向かわせるドナテーノに、フィオレンツィオとリリーアが乗った白馬も続く。

 慌ただしくルーヴェンスの街を後にしながら、リリーアは呆気に取られるばかりだった。


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