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ニセモノ花嫁は真実の嘘をつく  作者: シェリンカ
第二章
7/32

 三人が訪れた宿屋は、一階が食堂で、二、三階が客室になっている、昔ながらのこぢんまりとした造りで、老夫婦とその息子らしい不愛想な男が、三人で営んでいた。


「部屋は二つしか空いてないから、二人と一人で使ってくれ」


 不愛想な男に二階の部屋の前まで案内されると、ドナテーノはあからさまに不満そうなため息を吐く。


「仕方ありませんね……じゃあ、行きますよ」


 リリーアを促して右側の部屋へ入ろうとするので、リリーアは面食らってしまう。


「え? ……え?」


 さすがにフィオレンツィオが間に割って入った。


「そこは、俺とお前が同室だろう!」

「えー……そんなの嫌です……あなた、誰かと洗面盥を共用したり、ベッドを分け合って眠ったりしたことなんてないでしょう?」

「それは……そうだが……」


 淡々としたドナテーノの指摘に、つい言い負かされそうになるが、さすがにフィオレンツィオも負けてはいない。


「そんなの……お前だってそうだろう?」

「残念ながら、私、次男ですので……弟たちといろんなものを分けあっていました。侯爵家の唯一のご子息とは違います」

「…………関係ないだろう」


 悔しそうに口を噤んでしまったフィオレンツィオが、それほど身分の高い貴族の息子だとは、リリーアは想像していなかった。


「あの……二人がそれぞれベッドを使うなら、私は別に、どちらかの部屋の床でも……」


 貴族の二人には無理でも、おそらく庶民に違いない自分ならば、部屋の床でも平気で眠れるだろうと思い、リリーアは申し出てみたが、フィオレンツィオに目をむかれた。


「とんでもない! 女性に! まして姫様に、そんなことさせられません! グダグダ言ってないで行くぞ! ドナテーノ」


 そしてドナテーノの腕を掴み、さっさと一室のドアを開けて入っていく。

 引きずられるように歩いて、しぶしぶと部屋の中へ入っていきながら、ドナテーノの投げた眼差しが、リリーアに「それ見たことか」と語りかけていた。


(そうか……!)


 宿を決める際、ドナテーノが意味ありげに言っていた「後で後悔することになる」というのは、こういう宿に泊まるには、フィオレンツィオの身分が高すぎるという意味だったのだろう。


(失礼なことをしてしまったかしら?)


 心配になったが、当の本人から文句を言われたわけではない。


「ドナテーノ! 見てみろ。ベッドが木枠しかないぞ……後から誰かが羽根布団を運んでくるのか?」

「残念ながら、そのまま、その上に寝るんですよ。だから言ったでしょう……こんな安宿で、あなたが安眠できるわけが……」

「そうか? これはこれで、なかなか出来ない体験だから面白いぞ」

「まったく、あなたは……」


 薄い壁越しに、隣の部屋から聞こえてくる会話は、思いのほか楽しそうだ。


(少なくとも、フィオは……)


 楽しそうにあの笑顔を浮かべているのかと考えると、リリーアの気持ちも明るくなる。


 しかし事実は――さらに深刻だった。

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