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大通りから一本奥まった道は、幅が狭く、馬が通るような場所でもないので、馬から降りて手綱を引いて歩くことにする。
足元に敷き詰められた煉瓦が不揃いで、でこぼこしており、大通りと比べるとあきらかに舗装が雑なことが気に入らないらしく、ドナテーノはずっとぶつぶつ言っている。
「なぜ私がこんな場所に……」
「文句を言うな!」
愚痴を諫める時だけ、フィオレンツィオは小声で声を荒げるが、それ以外の時は意外に上機嫌だ。
「おお、これは何という果物だろう……王都では見たことがない」
露店に売られている色鮮やかな果実に見入って、店主から声をかけられそうになるので、リリーアは慌てて割って入る。
「フィオ! よそ見しないで」
上着の袖を引いて露店から距離を取らせると、フィオレンツィオは申し訳なさそうについてきた。
「すまない……」
「いえ……あまりこういう場所で買い物慣れしていないと見破られると、法外な値段を提示されることもあるので、用心のために、興味がある様子をあからさまに出さないほうがいいです……それが露店の鉄則です」
歩きながら滔々と説明をするリリーアに、フィオレンツィオは感心したように笑いかける。
「詳しいな……ひょっとして、こういう場所には慣れてる?」
「え? あ……わかりません」
相変わらず記憶にはないが、自覚しないままに言葉が次々と口をついて出てきたということは、フィオレンツィオの推測はおそらく正しいのだろう。
リリーアはそう告げる。
「でも……たぶんそうなんだと思います」
「そうか……」
フィオレンツィオの声が残念そうに聞こえるのは、リリーアが本物のコンスタンツェ姫である確率が、これでますます少なくなったからだろうか。
リリーアは、前方に看板の見えてきた、少し古びた宿らしき建物へ向かい、足を速めた。
「今日の宿はあそこにしましょう」
「わかった」
フィオレンツィオは馬を引いてついてくるのに、ドナテーノの足取りは重い。
「本気ですか……」
宿の前に到着したリリーアの隣にすっと並ぶと、小声で耳打ちした。
「後で後悔することになりますよ、きっと」
「え……?」
それはいったいどういう意味かと、聞き返す間もなく、彼は馬を預けにフィオレンツィオと共に行ってしまったが、リリーアの胸には不安が残った。