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ニセモノ花嫁は真実の嘘をつく  作者: シェリンカ
第二章
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 カルンの町から半日ほど東へ進んだ、西部地方の中核都市――ルーヴェンス。

 街の中央を水路が横切る、風光明媚な観光都市を、二頭の馬に乗った三人の旅人が訪れた。

 白馬に乗ったフィオレンツィオとリリーア、栗毛の馬に乗ったドナテーノだ。


「ひさしぶりだな……三年前に視察で訪れた時と、何も変わってない……相変わらず、活気があって、賑やかな街だ」


 大勢の人や馬車が行き交う大通り、水路に浮かんだ小舟、煉瓦造りの高い建物などを見渡して、フィオレンツィオは嬉しそうに笑う。


「そうですね。カルンの町へ向かう時には素通りしましたが、今宵はここで宿をとることにしましょう」

「そうだな」


 フィオレンツィオとドナテーノの会話に、リリーアは恐る恐る口を挟んだ。


「あの……」


 リリーアはフィオレンツィオの前に座る格好で、白馬に同乗しているのだが、全身を覆い隠すように頭からすっぽりと布を被っている。


 コンスタンツェ姫が行方不明になったというのは、グランディスの王城でもごくごく一部の人間だけしか知らない秘密中の秘密なので、なるべく目立たずに急いで城まで帰らなければならないと説明を受けた。

 そのため、珍しい髪色と人相を隠すように、リリーアは布を被っているのだが、にもかかわらず、二人が街の大通りを進んでいることに疑問を持つ。


「どこへ向かってらっしゃるんですか?」

「どこって……」


 フィオレンツィオは、自分の腕の中に座るリリーアに、首を傾げてにっこりと笑いかけた。

 彼の背後で輝く太陽より、その笑顔は眩しい。


「この先に、ルーヴェンスで一番大きな宿屋があるんだ。食事も絶品で、魚介類の新鮮さは王都の有名料理店にも引けをとらない。ぜひきみにも堪能してほしい」

「……ええっと……」


 邪気のない笑顔に何と答えていいのかわからず、リリーアは体を捻って、少し下がった位置で黙々と馬を歩ませているドナテーノをふり返った。


 隙がなく、頭が回る印象の彼ならば、フィオレンツィオの言っていることが、現在の自分たちの状況にそぐわないと理解しているはずなのに、ぷいっとあからさまに視線を逸らされる。


 それでもめげずに見つめ続けていると、渋々といったふうに返答があった。


「安宿の硬いベッドなんて、できればご御免被りたいです……こう見えて私、カスターロ伯爵家の次男なので……」


(貴族様か……!)


 心の中だけで声を上げて、リリーアはフィオレンツィオに呼びかけた。


「フィオレンツィオ様! 今すぐ馬を止めてください」

「え? ああ……」


 言われるままに馬の手綱を引きながらも、フィオレンツィオはリリーアに顔を寄せ、小声で耳打ちする。


「さっきも言ったとおり、俺のことは『フィオ』でいい。コンスタンツェ姫はそう呼んでおられた。敬語もいらない。なるべく身分の高い姫らしいしゃべり方を心がけてほしい」

「は……ええ」


「はい」と言いかけて「ええ」と言い直し、ごくりと唾を飲み込んで、リリーアは覚悟を決めた。


「フィオ、私の言うとおりになさい」

「――――!」


 姫らしくしてほしいとは言ったものの、突然のリリーアの豹変ぶりは予想外だったようで、フィオレンツィオは驚きに目を見開く。

 しかしすぐに、見惚れるほどの笑顔になった。


「はいっ! 姫君」


 フィオレンツィオの全身から、嬉しさが溢れており、リリーアはそわそわと落ち着かない気持ちになる。

 それでも必死に冷静を保とうと心がけながら、表情を作った。


「街で一番の宿屋なんてダメです。目立ちすぎて、今の私たちにはふさわしくありません。もっと地味で手頃な宿を探しましょう」

「承知いたしました」


 フィオレンツィオもかしこまった顔を作り、リリーアに向かって仰々しく頭を下げてみせるのに、ドナテーノが台無しにする。


「えー……そんなの嫌です」

「文句を言うなっ!」


 ドナテーノを一喝して、フィオレンツィオはリリーアに尋ねた。


「では、この辺りの宿でいいですか?」


 今リリーアたちが進んでいるのは、水路沿いの大きな通りだ。

 通り沿いに小綺麗な宿屋も軒を連ねているが、リリーアはきっぱりと首を横に振る。


「いいえ。もっと目立たない宿にしましょう……」


 言いながら視線を巡らせて、これより一本奥まった通りへ目を向ける。


「あちらへ行きましょう」

「はい」


 リリーアの指示どおり、素直に馬を歩ませるフィオレンツィオに、ドナテーノも仕方なく続いた。


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