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「なるほど……」
リリーアの話に耳を傾けながら、フィオレンツィオはすぐに、馬に乗る準備を始めた。
鞍を置いて手綱を付け、厩舎の外へ連れ出しながら相槌を打ってくれるので、いいのだろうかと思いながらも、リリーアは馬上に押し上げてもらい、飛び乗ったフィオレンツィオと共に城の通用門へ向かう。
「黙っていてすみませんでした……」
湖の畔で出会った男の話をし、謝ると、フィオレンツィオは軽快に馬を歩ませながら答える。
「いや、話してくれてありがとう……おかげで、騎士団の連中が交代で休めそうだ……」
「え……?」
どういう意味だろうかとふり返るリリーアに、着せた自分の外套のフードを深く下げ、顔が見えないようにしながら、フィオレンツィオは、城内を行き来している騎士たちに次々と声をかける。
「どうやら、賊の目的は王族方の暗殺ではないようだ……複数犯でもなく、おそらく単独の犯行……俺が行方を追うから、お前たちは通常の警備に戻っていい……もともと夜警の任になかった者は解散」
「はっ!」
バラバラと走り去っていく騎士たちの中には、自分もお供すると申し出る者もいたが、フィオレンツィオが笑顔で断った。
「逃げた先に確証があるわけじゃない。少し見回って、俺もすぐに帰ってくる……それとも、俺じゃ頼りないか?」
「とんでもありませんっ!」
騎士は背筋を伸ばして踵を打ち鳴らし、胸に手を当てて、フィオレンツィオに頭を垂れた。
「お気をつけて!」
「ああ」
橋を渡って城外へ出ると、徐々に馬の走る速度を上げていくフィオレンツィオに、リリーアは今さらながら問いかける。
「一緒に行ってくださるのですか?」
フィオレンツィオの声は愉快そうに弾む。
「きみを守るのは俺の役目だからな」
それは、コンスタンツェ姫の護衛という意味なのかと思っていると、思いがけない説明が足される。
「姫君の身代わりをしてもらう代わりに、きみの素性を調べる約束だった……手がかりがなく、すっかり頓挫していて申し訳ない限りだが……そのメモを送ってきた男が、きみの正体を知っていそうだというなら、もちろん俺が、確認につきあう」
「…………ありがとうございます」
馬は王都を抜けて、街道へ出ようというところで、フィオレンツィオはますます速度を上げる。
「ひょっとすると、これでお別れになるかもしれないし……」
「え……?」
なにやら不穏な言葉が聞こえたような気がして、リリーアは聞き返したが、フィオレンツィオがもう一度言い直してくれることはなかった。
二人を乗せた白馬は、月明りの下、あの湖のある丘までの道を、疾走した。