表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ニセモノ花嫁は真実の嘘をつく  作者: シェリンカ
第六章
27/32

 窓はどれも、ドナテーノが入念に確認したように、厳重に鍵がかかっていた。

 しかし外からではなく、中から開けることは簡単だ。


 リリーアは、音をたてないように気をつけながら窓を解錠し、ひっそりと中庭へ滑り出た。

 部屋着に肩掛けを羽織っただけの軽装だったが、人相が見えないように念のため、肩掛けを頭から被り直す。


(いつもの場所ってどこだろう……?)


 ひとまず行動を起こさなければと部屋を出て来たものの、指示された場所に心当たりはない。


(ルカっていう人との接点と言ったら……あの湖しか……)


 王都へ来る途中立ち寄った湖は、ここからそう離れていないとはいえ、さすがに歩いて行ける距離ではない。


(私……一人で馬に乗れるのかしら?)


 フィオレンツィオたちとの馬の旅で、特に不便はなかった。

 馬に乗ることに、自分は慣れているように感じた。

 だが一人で操れるのかは、また別の話だ。


 不安に思いながらも、リリーアはひとまず厩舎を目指すことにした。

 厩舎の場所ならば知っている。

 リリーアの部屋からそう遠くなく、窓からも見え、馬たちの嘶きをよく耳にしていたからだ。


 厩舎の周りに誰もいないことを何度も確認して、足音を忍ばせて近づいた。

 馬たちはリリーアを見て騒ぎ立てることはないが、警戒してじっとこちらを見ている。


「誰か……私を乗せてくれる?」


 数頭の馬の前を歩き去り、ふと見覚えのある白馬を見つけた。


「あ……」


 それはおそらく、フィオレンツィオが乗っていた白馬だ。

 馬のほうもリリーアに見覚えがあるらしく、不思議そうな顔で見つめてくる。

 リリーアは白馬へ歩み寄った。


「こんばんは。フィオレンツィオ様の愛馬さん……私を乗せてくれる?」


 馬ではなく、背後から返事があった。


「シシィはおとなしそうに見えるかもしれませんが、気難しいところがあって、私以外の人間には操れませんよ」

「――――!」


 フィオレンツィオの声だった。

 リリーアは驚いてふり返ろうとしたが、彼の立つ位置が近すぎて身動き取れない。

 いったいいつの間に、真後ろに立ったのか、まったく気配を感じなかった。


「フィオレンツィオ様……」


 小さな声で名前を呼んでみると、ふっと息を吐く気配があった。


「姫君ではなく……リリーア……か?」


 どうやら、ほぼ人相を隠しているリリーアを、本物のコンスタンツェ姫なのかと訝しんでいたようだ。

 すぐにフィオレンツィオの口調が変わる。


「こんなところでいったい何を?」


 かすかに笑いを含んだ声音にほっとして、リリーアは彼をふり返った。


「実は……!」


 いろいろ相談したいと思っていたのに、機会を逸していたフィオレンツィオに思いがけなく遭遇し、ワインの染みた紙片を握りしめながら、話したかったことを一気に語った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ