生き残る方法
「【全てをひとつに】」
轟音と共に再びダンジョンが形を変える。それは魔王による完全なるダンジョンの統合だった。
「本当に魔王の……信じられない。まさか、今、このダンジョンの場所は北か南。魔王の住む最果てに移動したという事か。」
「何か勘違いしておるな? 余は魔王として、この地に降臨したばかりである。ダンジョンの外は、それぞれ貴様らが来た場所と繋がる。」
不死者様が何かを呟く。
「まるであの扉の劣化版だな。」
「これから、お前達にはダンジョンの中で死んでもらう。ただし、最後まで生き残った者には、外の世界の案内役としての生を約束する。制限時間は午前0時。それ以降、2人以上の生き残りがいた場合は全員に死んで貰う。殺し合うもよし、余やダンジョンに挑んで死ぬもよし。……さあゲームを始めようか。」
何を言っているんだろう。あまりの恐怖で考える事が出来ない。
魔王は僕達に背を向け歩いていく。
サイゼさんがCランクパーティーのリーダーらしき女性に話しかける。
「大丈夫だ。みんなどうか落ち着いてくれ。俺はCランク絆ファミリーのリーダーのサイゼだ。これは緊急クエストだと思えば良い。何か手立てはあるはずなんだ。」
「何が大丈夫なのよ? 私はCランクパーティー|暗黒ノ咎人《Dark Sinners》リーダーのアリアです。魔王は複数の国家が連合を組んで挑むような存在。勇者でもない限り、攻略するのは無理よ。微かな希望はここから脱出する事だけ。ダンジョンの出口を探すしかないわ。」
その言葉を聞いた魔王が少しだけ立ち止まった。
「残念。――出口は余が進む方向にある。そこがこのダンジョンの中で最も死に近い場所だ。」
これで脱出は不可能だという事が分かった。魔王は上の階層に向かって歩いていく。
僕は恐怖の対象が目の前から消えた事で、一気に全身の力が抜けていた。周りを見るとほとんどの人が放心状態となっている。ココさんがダンジョンに座り込み顔を伏せている。
「……くそ。逃げる手段も残されていないのかよ。……嫌だ。帰りてぇ。家にまだ小さい子供が俺の帰りを待ってるんだよ。なあ。あれは本当に魔王なのか? 何かの間違いって事はないのかよ?」
「……さっきの話から推測すると殺された彼はAランクへの昇格試験の段階だったはずだ。間違いなく、この中で別格の強さだった。ココもAランクというものがどんなに化け物なのかよく知っているだろ。あれが魔王じゃなかったら、あっさり殺された事への説明がつかない。」
「そうね。今まで感じた事もない威圧感に、動きがまるで見えなかったわ。疑う余地もなく、あれは魔王だわ。」
「だが、まだ希望は――」
僕は魔王の言葉を咀嚼する事も出来ずに、ただ混乱していた。この出来事の本当の恐ろしさをちゃんと理解していなかった。
「――嫌だ。死にたくねー。……そうだ。一つだけ、生き残る方法あるよな。この中で――」
「――まて、ココ。それ以上言うのはやめろ。」
「しかし、リーダー。1人だけ――」
「――罠だ。その言葉は混乱を招く。」
「っ! ……うん。そうなるわよね……私達、|夜の咆哮《Roar of the Night》は別行動をさせて貰います。」
「くそ……。やはりこうなったか。」
「え? セシリア何を? Dランクの俺達が1番弱いんだぞ。一緒にいて助けて貰った方が――」
「マルコム。まだ分からないの? だからこそ、集団行動は出来ない。私達がこの中で1番危険なのよ。」
「……まさか。」「っ! 待て。言うな――」
「――生き残れるのは、たったの1人。このままだと、すぐに殺し合いが始まるわ。」
反応を見る限り、半分は分かって怯えていたんだと思う。
僕らはその言葉の意味を知ってしまった。
「……誰か助けて。」
魔王は絶対に倒せない。
「どうして、こうなった?」
それなら生き残れる方法は、魔王が掲示した条件のみ。制限時間内に、殺し合いをすればたった1人だけが生き残れる。
「嫌ぁーー!」
このダンジョンのたった1つの攻略方は、生き残りを賭けた、殺し合いのサバイバルにある。
「……悪いけど私達も別行動をさせて貰う。たった今会った人達を信用出来ない。」
不死者様が不気味に笑っている。
「まあ。そうなるわな。それなら別々の道を進めば良い。俺が案内してやる。」
「あなた。……何なの?」
「俺にはダンジョン内がどうなっているのか分かる。魔王がいる入口の階層は俺たちがいたダンジョン。統合したのはここの階層のみ。他はこの奥でそれぞれのダンジョンに分岐している。俺達が地下2階、お前らのダンジョンではここが1階部分なのではないか? 分岐点となる扉はすぐそこだ。勝手に行かせても良いんだが、もし同じ道を選べば、きっと地獄絵図になるだろうな。」
「……分かった。着いていくわ。」「そうね。行きましょう。」
「……死にたがり。お前、何を。」
「黙れ。こうなった以上、契約は無効だ。お前に従う必要もない。」
僕達は、全員でダンジョンを進んだ。つきあたりには不死者様が言うように4つの扉があった。
「本当に分かれるのか? どのみち魔王に殺されるなら、全員でいた方が……。」
「その選択は有り得ない。私達は左を進むわ。残された時間で別の方法を考えれば良い。」「なら私達はその隣で。お互い無事に脱出出来る事を祈っているわ。」
2つのパーティが扉を開け先に進んでしまった。
「死にたがり。いったいどういうつもりだ。」
「全員が敵だ。それなら早めに少なくなった方が良いだろ。」
「だが人数が減った所で、お前にとっては俺達も知り合ったばかりなんだぞ。むしろ、知らないメンバーが混じっていた方が、お前にとって――」
「ぶぁかが。意味が違うだろ。分母が少なくなった方が生き残れる確率が上がるだろうって話だ。このダンジョンはあのパーティーで対応出来るレベルを超えてるんだ。すぐにアイツらは死ぬだろうよ。残るはセーフポイントにいる俺達だけになる。」
「狂ってる。」
「そうだ。こいつ魔王の前でも笑っていたよな。この状況でこんな不気味な奴と一緒にいたくない。」
「……お前の言動や行動は、ずっとおかしい。まるで最初からこうなる事が分かっていたかのようだ。お前の正体は何者だ。魔王の手先なのか?」
「ぶははっ。なんだよ雑魚共、声が震えているぞ。……だが……不本意だが……誤解だ。」
「ありえねー。」「そういえば、進めば全滅するって言ってたよな。」
「ドンキー。ココ。疑う気持ちも分かるが、死にたがりの話を聞いておこう。今の段階ではただの先入観だ。ただし、死にたがり。納得のいく説明をして貰うぞ。」
「ふん。さっきの生き残る云々も冗談だ。魔王と遭遇する前に忠告した事で、俺に疑いの目がくるのは分かっていた。だから誤解を解く為に、俺の情報を公開するのは少ない方が良いと思ったんだ。」
「なるほど。そういう意図があったのか。聞かなきゃ分からんもんだな。で。どうやって誤解を解くつもりだ?」
「その前に、秘密を守るという契約を交わして貰う。大丈夫か?」
「ああ。約束は守る。みんなもそれで良いよな?」
「約束じゃ足りねー。契約を交わして貰う。死にたがりにちょうど良いスキルがあるんだ。」
「死にたがりは、お前なんじゃ――」
「――起きろ。臆病者。お前の【契約】を貸せ。」




