虐められ続けた俺が最後に殺したもの
ある日、玄一から近所の公園に呼び出され、いつものように玄一と厳次に虐められていた。
「おい。糞秀人。てめーは、うちの足手まといの癖になんで、そんなにブクブク太ってるんだよ? あ? 死ねよ!!」
……これはほぼ体質だ。それも、蓄えた分だけ今は助かってる。必要最低限の食生活しかしていない。
玄一は俺の腹を蹴り上げる。そして前のめりになった顔面を横殴りにした。意識が飛びそうになるのを俺は必死で我慢していた。
「おい? なんで太っているんだって聞いてるんだよ。まともに食えてないよな?」
言いながら玄一は俺のお腹に拳をねじ込ませる。だが、少し軽めである。こうして返事を求める時、玄一は攻撃を緩めて急所も避けているのだ。
「香織姉ちゃんからいつも食べ物を貰ってる。……俺が死なない様にな。」
久しぶりに玄一を睨んだ。あの子が答えを出してくれた。俺は変わる。強くなる。
「最低だなお前。香織が今、何の仕事してるか知ってるか? お前の事を追い出さないでという約束で、風俗で働いて金を稼いでるんだ。それも全額を家に入れてるはずだぞ。お前は香織の僅かな蓄えすら、毟り取っているのか。……お前のせいでうちはめちゃくちゃだ。……香織は!! くそっ!! 姉弟でもないお前が何で一番目を掛けられているんだ!!」
玄一の拳が俺の顎にヒットして、そのまま俺の頭の中が真っ白になった。ただそれは攻撃の威力によるものではない。
嘘だろ。変わろうと思った途端に、もっと大きな問題に絶句した。
思えば両親が死んだ時、俺にはもう大切なものがないと絶望した。
失ったものが大き過ぎて、心を閉ざした。
だがそれは大きな間違いだった。祖父も香織姉ちゃんも弟や妹達もいる。たった一人の友達もいる。今まで見ようとしていなかった。
「私は香織。これからは、あなたのお姉ちゃんよ。」
「秀人は無口だけど優しくて良い子だね。」
「育ち盛りだから、あれだけじゃ足りないでしょ。これ食べて。お母さんに内緒だよ。」
「秀人。コレ食べよ。心配しなくても、お姉ちゃんはバイトしてるから、お金持ちなんだよ。」
「遠慮しないで。私は秀人の本当のお姉ちゃんだって思ってるよ。」
「もうちょっと待っててね。就職したら、たくさん食べさせてあげるから。」
白黒だった俺の世界はとっくに彩づいていた。
心の穴を埋めてくれた大切な人達の存在が近すぎて見えてなかった。どんなに辛い時も俺を助けてくれた身近な人たち。
俺は一人じゃなかった。
気付くのが遅すぎた。
虐めは、まだ耐えられる肉体の痛みだ。だけど、香織姉ちゃんが、俺の為に自分の体を犠牲にしていたと思うと、それがとてつもなく苦しかった。両親が死んだ時よりももっと辛かった。
両親の時は不幸な事故だが、完全に俺の責任だ。一番大切な人を自分が巻き込んだ。
知らない間に愛する人を不幸にしていた。
自分が心の底から許せなかった。
はじめて、兄だと感じていた玄一に裏切られた時よりも、もっと悲しかった。
剣崎に毎日暴行されるよりも悔しかった。
香織姉ちゃんの笑顔を思い出し、自分が辛い想いをさせていたんだと思うと涙が止まらなかった。
なぜ、何も行動しなかった。
その時、妄想の中の『殺人鬼』は、殺しの対象を自身に変えた。
今までのストレスが、まとめてはき出されるような感覚だった。
彼のスタイルである姑息な不意打ちをやめ、正面から徹底的に殺しまくった。
妄想の中で死んだ俺は、血の涙を流し神に祈っていた。
――神様、助けて下さい。俺は死んでも良い。けど、香織姉ちゃんだけは、辛い想いはさせたくない。――
俺の意識は、はっきりと途絶えていた。
「20○○年7月19日午後16時30分……時間ピッタリだな。……の物語はここで終わる。せいぜい足掻いてみろ。ここからはお前だけの物語だ。△※◇〇βξ■■γδε〈§Λ◆◇Ξ△¶¶【Δ◇Ψ※Ω】」
痛みという慈悲と、これが本当の死なのだという実感があった。
――目を覚ますとまるで宇宙空間の様な不思議な世界が広がっていた。
豪華な金色の椅子に座る女性が話しかけて来る。
「秀人君。初めまして。私は女神アルテミス。ガイアの唯一神です。早速だけど、貴方は力を手に入れる資格があります。どんな能力を望みますか?」
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暗黒龍のHPは絶大です。残り【HP99999999989】
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